第6話 アリエルの夢見干渉と四季の遺跡挑戦

アリエルは微妙な状況でローデンやリゼルの追跡をかわしながら山々を旅し、旅人たちと交渉を重ねて、スキルを模倣しつつ移動していた。彼女は借りた能力には使用時間の制限があることに気づいた。


他者のスキルを使った場合、その効果は数十分で消え、時には突然戻ることもあった。アリエルは、レベルや経験が上がることで効果時間が延びるのではないかと感じていた。


特に難解な「時空間の歪みスキル」の練習を始める決意をしたアリエルだったが、訓練の注意書きには「心を落ち着け、冷静さを持って行うように」とあり、心が乱れると暴走の危険があると警告されていた。


未来予知のスキルでローデンたちの動向を常に気にしているため、訓練がうまくいかないのではないかと考え、ハンモックに座って指を組みながら思索にふけっていた。


そのとき、アリエルはリゼルの夢見が自分を追いかけていることを思い出した。現在は予知能力でリゼルの追跡をかろうじてかわしているが、ローデンの直感も加わると脅威となる。


そこでアリエルは、リゼルの夢に「時空間の歪み」と「現実の修正」を使って干渉できないかと考えた。リゼルに嘘の情報を見せることで彼女の判断を混乱させ、訓練にかける時間を稼ごうと目論んだ。


アリエルは「時空間の歪み」と「現実の修正」を用いて、リゼルの夢の中に自らの意識を送り込む準備を始めた。静けさの中で深く瞑想し、魔力を集中させていく。


「これからリゼルの夢に入って、彼女に偽の情報を見せる。そして、私の行動を誤魔化すのよ」と自らに言い聞かせた。


意識を強く集中させ、アリエルはリゼルの夢に入り込んだ。夢の中は柔らかな光に包まれ、静かに眠るリゼルが視界に入った。


彼女はその場面を見守り、リゼルがどのような風景を夢見ているのかを探り始めた。「今、リゼルが見ている映像を変えなければならない」と考え、「現実の修正」を使って新しいシーンを描き始めた。


アリエルは心の中で呟いた。『リゼルに、私が北の森を抜けてさらに高い場所へ向かう姿を見せるのよ』と。


夢の中に映し出されたのは、アリエルが自らの逃走を助けるためにリゼルの望む方向へ進んでいる様子だった。花が咲き、美しい自然が広がる場所を歩くアリエルの姿は、まるで現実のようにリアルだった。


リゼルはその映像を見つめ、アリエルの動きに気を取られ始めた。「アリエル様、あの方向に向かっている……でも、何かがおかしい気がする」と心の中で不安を感じた。


アリエルはその瞬間を逃さず、落ち着いた声で優しく囁いた。「あなたの夢見は間違いない。いつも正しい」と何度も繰り返し囁き、映像も何度も再生した。


思惑通り、リゼルは夢に引き込まれ、誤った情報を信じ始めた。「これでリゼルは私の行動を見失うだろう」とアリエルは考えた。


夢の中のリゼルは、アリエルが見せた風景を真実と思い込み、彼女の干渉には気づかなかった。アリエルはその様子を見守りながら、リゼルがリラックスした状態で眠りにつけるよう優しく話しかけた。


「このまま深く眠って、明日は素晴らしい日になる」と言葉をかけた。意識を現実に戻すと、アリエルはリゼルに見せた映像とは真逆の方向へ向かった。


彼女の心は、限られた時間の中で空間の歪みスキルを使いこなす方法を考えることでいっぱいだった。リゼルの夢を巧みに操り、自らの運命を切り開くための準備は整った。


アリエルはシェルターを高く浮かせることにした。高く浮かせることで、外的影響を排除し、高所で安定した空間を作り出す。気流の利用や視覚的な安定感を生かし、訓練環境を最適化するための基盤を築くことができる。


深呼吸をして軽く目を閉じ、彼女はシュミレーションを始めることにした。「空間の歪み」をより効果的に使いこなすためには、ただ訓練するだけでなく、さまざまな状況に即した想定が必要だと感じた。


シナリオをいくつか考え出し、「敵の襲撃から瞬時に逃げるために空間を歪める」や「過去の選択をなかったことにする」など、現実に起こりうる状況を設定した。


彼女はそれぞれのシナリオについて、周りの景色や風の音、危機に直面したときの心臓の鼓動まで、緻密にイメージを膨らませた。


シュミレーションを重ねる中で、アリエルは自分の行動を振り返り、良かった点や改善が必要な部分を冷静に分析した。何度も繰り返し同じシナリオを試し、新たなシナリオも加えながら、柔軟で対応力のある能力者へと成長していった。


日々の鍛錬を重ねる中で、アリエルは自信を深め、不安定な力を安定させる感触をつかみ始めていた。新たな未知の状況にも怯むことなく、自らの能力を最大限に引き出し、歩みを止めることはなかった。


ついに「空間の歪み」の力を手に入れた彼女は、短時間だけ時間を巻き戻したり、特定の場所に瞬時に移動することが可能になった。しかし、この能力は非常に不安定で、感情や状況に大きく左右されるため、アリエルはその力を完全に制御するために、さらに訓練を続ける決意を固めた。


そのためにも、ローデンたちから上手く逃げなくてはならない。アリエルはそれを再優先に考える必要があると思った。


暫くして、何度かリゼルの夢見に干渉していると、とても気になる情報を手に入れた。うまく行けばアリエルはもうローデンたちに追われることはなくなる。

それはローデンたちも求めているアーティファクト、“無知の指輪”と“錯乱の石”。この2つのアーティファクトはローデンたちにとって弱点になるため、ローデンたちは消滅させようと考えている。しかし、この力を手に入れれば、逃げ続けなくてもいいのではないかと思った。


ただリゼルの記憶では扉を開ける暗号が難しくて解けないとか。とりあえず行って見なければ分からない。


アリエルが乗るシェルターは四季の国の遺跡に向かって飛んでいた。彼女の心には、リゼルの夢見に干渉して得た情報が鮮明に刻まれている。遺跡には、“無知の指輪”と呼ばれる強力な魔道具が隠されているという。


それを手に入れなければ、彼女はリゼルの夢見から完全に逃げ切れない。「あの指輪があれば、全てが変わる。」アリエルは自分に言い聞かせるように呟いた。


“無知の指輪”が持つ力によって、彼女はリゼルの能力を完全に抑え込めると信じていた。アルカディアは、美しい自然と魔法が共存する国だった。春の花々が咲き乱れ、夏の陽射しが輝き、秋の葉が色づき、冬の雪が静かに舞っている。


この地には、四季それぞれのエネルギーが流れ、古代の魔法が眠っていると言われていた。その中心に位置する遺跡には、“無知の指輪”が隠されているのだ。


アリエルは、遺跡に近づくにつれて緊張感が高まるのを感じた。彼女は試練を乗り越えなければならなかった。試練は、四つの季節ごとに設定されており、それぞれが違う感情や障害を象徴している。


遺跡は古びた神社のようにも見えた。中に入ろうとすると、扉に文字が浮かんだ。『二拝二拍手一拝』


日本語で書いてあった。「え?」アリエルは一瞬、頭の中が真っ白になって立ち尽くしていた。やっと意識を戻してもう一度よく文字を見た。何度見ても書いてあることは同じだ。


なるほど、これなら確かにリゼルが解読できないと悩んでいるわけだ。とアリエルは納得した。この遺跡を作った人は日本人ということかな………。


その辺は不明だが、この『二拝二拍手一拝』は神社のお詣りの仕方だからわかる。しかし、正式になんてやったことが無い。前世の記憶を引っ張り出してアレコレ思い出してみる。


とりあえずやってみようと、2回お辞儀をして胸の前で手を2回叩いてもう一度お辞儀をした。すると、扉に文字が再び浮かび上がった。『おしい!お辞儀を頑張ってみよう』と。


(はあ〜?なにこの軽さ!ってか、ふざけてない?)そうは思っても、これをクリアしないと先には進めない。仕方なく、もう一度姿勢を正し、お辞儀を深く2回して胸の前で手を2回叩き、もう一度深くお辞儀をした。すると扉がゆっくりと開き、そこは桜舞う春だった。

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