第6話 お持ち帰り~コウの葛藤(磯ヶ谷目線)
「美琴ちゃん、お酒強くて驚いたよ」
隣を歩く美琴ちゃんを見つめた。
彼女はかなりの量を飲んでいたのに、ヒールのある靴を履いてしっかりとした足取りで歩いている。
「はい。ワタクシも強いほうだと思います。磯ヶ谷さんもかなり飲んでいらっしゃったとオミウケシます」
飲酒後なのに言葉使いがとても丁寧で以前試合後にあった打ち上げの時よりずっと固いしゃべり方だった。
取引先だから粗相はできないということか?
それとも同じ駅で降りた俺を警戒しているのか?
別に恋愛感情を持ったわけでもないし、一夜限りの相手にしようとも思っていないのに・・・と、彼女が作った距離感を少し残念に思った。
「では、ワタクシはココイラで失礼ツカマツリます」
駅に着くなり美琴ちゃんは深々とお辞儀をした。
「家まで送るよ。俺の家とも近いし、もう遅い時間だし・・・」
そう言った瞬間、彼女は履いていたハイヒールを脱いで、駅前の噴水に足をつけようとした。
「えーーーーー!!ちょっと待って!美琴ちゃん!!」
水に足をつける寸前のところで、俺は美琴ちゃんの腕を引っ張り、その胸に抱き寄せた。
「ダイジョウブです。ダイジョウブナンです」
俺の胸を押し、噴水に入ろうとする。
「いやいやいやいやいや!大丈夫じゃないから!」
どんだけ酒癖悪いんだ!!
「おキになさらず」
「いや、気にするから!とりあえず靴履いて」
だらっと力の抜けた彼女を片腕で無理やり立たせ、もう片方の手で倒れたハイヒールを起こす。
「それは無理です」
「は?」
何言ってんの?この子?
「もう出掛けません。ワタクシはもう眠いのデス」
「うん!分かった!帰ってから寝よう!ね!?」
「はい。おやすみナサイませ」
そういうと抱きしめていた俺に全体重をかけて眠り始めた。
「待って!寝ないで!美琴ちゃん、しっかりして!美琴ちゃん!」
起こそうと少し体を揺らすと、グラングランと大きく体が揺れる。
まじかあああーーーーー!?
「起きろ!美琴!襲うぞ!おい!美琴!こら!」
「みことーーーー!」
寝てんじゃねーーーーーぞーーーーーー!!
「・・・まいったな・・・」
これを人は『途方に暮れる』と言うんだろうな……なんて考えながら呟いた。
食事中に話した感じだとこのあたりだと思うだが……。
どうすんだよ…。家、知らないぞ?
美琴を背負ってどうにかアパートの近くまで来たが、美琴は全く起きてくれない。
「美琴、起きて、美琴」
と揺すっても「はい!はい!はい!」
というはきはきとした返事しかしないし、目を開こうともしない。
「美琴、家どれ?」
「はい」
「はいじゃねえよ。どれなんだよ、家?」
明石さんに連絡しようかと思ったが、久しぶりと言っていたらしいデートを邪魔するのは気が引ける。
「はあ。仕方ないなぁ」
本格的に目を閉じている美琴を自分のマンションに連れて帰った。
鍵を開け、玄関に持っていた美琴の靴を投げ落とす。
リビングに入るとドサリとソファに横たえた。
美琴が裸足で歩いていたのを思い出し、お湯で濡らしたタオルで足の裏を拭いてやろうと、隣に座る。
「足、触るよ?」
「・・・」
完全に眠ってしまったのか、返事もしなくなってしまった。
ストッキングを履いているので脱がして拭こうかとも思ったが、さすがに酔いつぶれて眠っている女性のスカートに手を入れるのは憚られる。
ストッキングの上から足を拭き、怪我をしていないか確認し、
「よし」
と美琴の足を降ろして、立ち上がった。
足を上げていたせいで、美琴のフレアスカートが際どい所まで上がっていた。
酔って緩んでしまっている己の理性に発破をかけ、片手でスカートを直して、毛布を掛ける。
「俺、紳士だわあ~」
髪をバサバサとかきあげてバスルームに行った。
***
シャワーを浴びて出てきた俺は、目を疑った。
美琴がソファから落ちて、床で丸くなって寝ていたのだ。
手をグーにして、まぶしかったのか腕を顔の前でクロスしている。
それはまるで昔実家で飼っていた猫のようで笑えてくる。
顔にかかった髪をそっと耳にかけてやると、それはそれは幸せそうな顔をしていた。
「ふふっ。良く寝てるなあ」
その姿がかわいらしくて笑ってしまう。
美琴をそっと抱き上げ、所謂お姫様抱っこをして寝室のベッドに連れて行った。
ベッドに横たえると、美琴はうっすらと目を開け、俺を見て微笑んだ。
美琴の細い指は俺のTシャツの裾を持っている。
美琴の瞳を見つめると、美琴もじっと見つめ返してくる。
そして、そっと目を閉じた。
俺はそれに誘われるように唇を合わせた。
そっと。そっと。
始めは軽かったキスもだんだんと深くなっていく。
「・・・ん・・・あ・・・」
美琴の声に理性が飛んでいく。
服を脱がし、その首に、胸にキスする。
ブラをずらそうとしたとき・・・
「ぐーーーー・・・ぐーーーー・・・」
美琴はいびきをかいた。
「マジか?ふっ。くっくっくっくっく」
起こしてはならないと必死に笑えを堪えたが、肩が震えてしまう。
「くっくっくっ。かわいいな・・・ふふっ」
俺は笑いながら美琴をぎゅっと抱きしめた。
「うっ」
と眉間にしわを寄せる美琴を見て、また笑いがこぼれる。
俺は着ているTシャツを脱ぎ、下着姿の美琴の体を起こして頭からかぶせた。
すると、美琴は自力で腕を袖に通した。
起きた?
と思ったが、再び丸くなった。
幸せそうなその表情に寝ぼけてるなと判断した。
頬に掛かる長い髪を耳にかける。
安らかな表情の美琴の額に一つキスを落とし、今度は優しく抱きしめた。
まるで子猫を撫でるかのようにそっと。
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