第4話 再会は会社で

TRRRR

内線が鳴った。


「はい、1課です」

「受付です。JO-GOの磯ヶ谷様がいらっしゃいました」

「はい。3階にご案内ください」


PCの予定表に11時から商談室で商談予定が入っていることを確認する。

しかし担当の健は10時終了予定の会議が長引いているのかまだ戻ってきていなかった。


会議室に内線して来客の旨を伝えてもらう。

その間にエレベーターから出てきた磯ヶ谷さんのところへ足を進める。


「磯ヶ谷様でございますか?」

コウさんの前に立ち、にっこりと余所行きの声で話しかける。


「はい。JO-GOの磯ヶ谷と申します。いつも・・・お世話に・・・」

ふふふふ。やったね。コウさんが私の顔を見て驚いている。

悪戯に成功したような気分になってちょっと楽しい。


「いつもお世話になっております、コウさん!」

と微笑む。

「えーーー?美琴ちゃん?」

コウさんは口に片手を当て、目を見開いて驚いている。


その様子がおかしくて、

「あはははは、目が真ん丸になっちゃってますよ」

やっぱり、あのイケボの磯ヶ谷さんはコウさんのことだったんだ!


「いやあ、だって驚いちゃって。美琴ちゃん、明石さんと同じ職場だったんだね」

「はい、そうなんです。ふふっ。いつもお世話になっております、磯ヶ谷さん」

「いえいえ。こちらこそお世話になっております。えっと、、、」

「お問い合わせのお電話で何度か対応させていただきました。織部です」

「織部さん。・・・あ!!織部さん!?」


織部という名前で何度か電話越しに話したことに思い当たったようだった。


「はい。フフフっ。やっぱりお気付きではなかったんですね」

「すみません。全く気付きませんでした。

でも、織部さんにはいつも丁寧なご対応をしていただきまして、ありがとうございます」


そう言ってコウさんは内ポケットから名刺を取り出し、微笑んだ。


「JOーGOの商品部MD、磯ヶ谷と申します」

「商品部兼営業アシスタントの織部と申します」

お返しに名刺を渡した。


「私、あまり他社の方とお名刺を交換する機会がないので、なんか新鮮です」

「私は少しこっぱずかしいです」

と、コウさんがこめかみを人差し指で掻いた。

「どうしてですか?」

「いつも電話で余所行きの声でお話していたので。

しかもさっきの様子だと、私のこと以前から 気が付いてましたよね?」

少し気まずそうに苦笑いしている。


「ええと・・・。はい気付いてました」

「ですよねーーーー。ははは」

「ふふふっ」

コウさんにつられて笑ってしまう。


「すみません。実は、フットサルでお会いした時、そうかなーって。

声が印象的だったので、覚えてたんですよ。

でも、お顔を拝見したことがなかったので、人違いかもしれませんし。

ご挨拶が遅れて申し訳ありません」

「こちらこそ、全く気付かなくてすみません」

二人でお辞儀をしあった。


「ジャージのほぼすっぴんメイクで取引先の方とご挨拶する勇気もなかったんですけどね」

と言うと、

「どちらもチャーミングなのは同じですよ」

とコウさんはにっこりとほほ笑んだ。


「ちゃーみんぐ?……ぷっ。ははッあはははは」

「え?笑うところですか?」

「チャーミングっていつの人ですか?歳、誤魔化してます?」

チャーミングなんて言う若い人、初めて聞いたとつい声を上げて笑ってしまった。


笑い声に何人かが顔を上げる。

その視線に二人で慌ててしまう。


「コホン。失礼しました」

咳ばらいを一つして気を引き締める。


「今日は明石とお約束ということで?」

「はい。11時に・・・早めについとと思ったのですが・・・少し遅れてしまったようです」

時計を見ると11時を少し過ぎていた。

健ももう会議室から商談室に移動しているだろう。

「しゃべりすぎちゃいました」

とコウさんは肩を上げた。私も

「ですねー」

とほほ笑み、商談室にお連れする。

商談室にはすでに健が待っていた。



そろそろ昼休憩に入ろうかという時間になり、二人は並んで商談室から出てきた。

そのまま健が私のデスクに来た。


「美琴、この後コウさんと昼ごはんに行くんだ。一緒行くか?」

通路で待っているコウさんに目を向けると、にこやかに微笑んでおいでおいでと手招きして見せる。


「はい!喜んでっ!」

「居酒屋か?!」

と健に小突かれた。


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