愛してない!愛してないからぁ!
最近、夫である
『
連絡に溜息をつく。もうこれで何度目だろうか。
仕事を終わらせてから、帰って一緒に食べる予定で用意していた夕飯への意欲が一気に消沈して行くのを感じる。もう一度息を吐いて、リビングのソファにもたれ掛かる。
最近の主衛は、帰りが遅いだけで無く。友人の家に泊まると言い、翌朝帰りも多くなっている。
彼は、繁忙期と言ったり。
浮気、だろうかと頭に過った考えを直ぐに没にする。主衛が私以外を見る事は無い。それだけは確信を持てる。
主衛はずっと。私の事を考えて。何度も何度も。数えきれない程に助けてくれた。
この世で誰が一番、私の幸せについて真剣に考えてくれているかを答えるのなら。主衛以外にはありえないと断言出来る程に。
『ボクと付き合ってください』
『千尋を幸せにしたいです』
彼の告白と、プロポーズの言葉を思い出す。あの時、どれだけ私が嬉しかったか。その以前に。そしてそれからも。彼と過ごす日常が、どれほどに幸せだったか。
彼が助けてくれたから好きになった訳じゃない。彼といる事が私の人生だと思えたからだ。
最期は、彼と一緒に死にたいと思える程に。主衛と一緒に生きていない自分は、想像すらしたくない。
それなのに。本当に。純粋な幸せだけだったのなら良かったのに。
友義の顔が浮かぶ。卑劣で最低なあの男。
ずっと主衛と一緒に、私の友人でもあった彼に。私は、数えるのがバカらしい程に抱かれている。
初めては、主衛が私に告白をしてくれた日の前日。友義に呼び出されて。なんの疑いも無く、私は彼の部屋に入った。主衛も一緒にいると言われていたから。
襲われ、なぶられ。身体を解かされて。主衛への酷い言葉を吐かされ、どれだけ悔しかったか。
終わった後。友義には、『明日主衛がお前に告ると思うから。断れよ』と言われた。この事は黙っておけとも。
翌日。私は主衛の気持ちに応じたし、襲われた事は話さなかった。
知れば、主衛は許してくれるだろう。怒ってくれるだろう。それでも私を愛してくれるだろう。でもその思いの中に、ほんの少しでも陰りが刺さなくなると言えるだろうか?
彼は、私を守れなかった自分を責める。私を見る表情の中に、罪悪感が混じる事になるだろう。それは嫌だ。
私は彼からの想いの中に、ほんの少しも混ざりものを入れて欲しく無かった。
主衛と幸せに生きる為に。友義との関係は決して知らせない事が、私の決意だった。
主衛の気持ちに応えた日の翌日、友義からの責め苦は酷く耐えがたいものだったけれど。友義もまた、主衛へ私にした事を話はしなかった。
友義は、決定的に主衛が哀しむ事になるであろう事はしないようだった。嘘をついても、裏切っても。主衛に知られる事を嫌がった。避妊も、友義からする事は無いけれど。私がする事は止めなかった。
私は、その理由に気づいている。だから、友義からの行為にも耐える事が出来ている。
主衛にプロポーズをされた日も。
あの男は舌打ちをして私をまた苛んで、私に思っても無い事を言わせたけど。結局、主衛にバラす事はなかった。
勝ち誇った気分だった。何があろうとも、結局主衛の隣にいるのはこの私だと。
言葉で何度、主衛を裏切らされようと。体液を溢され、身体を弄ばれようと。情けなく泣き喚いて、友義に縋っても。
主衛にさえ知られなければ。彼と一緒にいられれば、私は幸せだった。
けれど。
『今度の休日は友義と遊びに出かけて来るよ』
『え、首?あ~、虫刺されしちゃって』
『ごめん、ちょっと今日は、早く寝たくって』
『んっ、ふっ……、え、あ、大丈夫。熱は、無い、から。
行ってきます!』
どう考えてもおかしい。主衛が私に向けてくれる愛情も、言葉も何もかも変わりはない。けど、明らかに私と過ごす時間が減っている。代わりに、隠し事をしている気配が多くなった。
主衛との、穏やかで幸せな同衾の時間も少なくなった。友義とのそれとは違う。暖かさで満ち足りた、主衛の体温や感触を感じられる、大切な時間だったのに。
私と身体を重ねる事が、嫌になってしまったのだろうか。
いや、とまた頭を振る。主衛は、自分で言うのもなんだが。私に夢中だ。昔からずっと。時折交わった時の彼の様子は、これまでと変わりない。
友義が何かしたんだろうか。真っ先に思考が及ぶのはやはりあの男だ。
丁度良く連絡の通知が来る。友義からだった。
『今日俺の部屋に来い』
命令口調のメッセージに苛立つ。随分久しぶりの呼び出しだった。
丁度良い機会だった。今日、主衛の件を友義に問い詰めよう。
また身体を好き放題にされるだろう。私はその度に、友義が言わせたい言葉を言わされてきた。肉欲の刺激は、突き詰めれば結局痛みが無い拷問だ。相手に主導権があれば、耐えられるものじゃない。
けれど。嫌々肉体を許させただけで。心まで相手を許す訳が無い。
確かに刺激は友義の方が強い。主衛とは比べ物にはならない。でも、それだけ。それだけじゃ、生きたい相手だなんて言えない。結局、30年後もすれば。そんな刺激は関係なくなる。
私は負けない。主衛を愛しているから。その気持ちだけは、絶対に覆されない。
────
「愛してないっ!愛してないからぁ!!」
台の上で、全裸で脚をM字に、腕を万歳の形で拘束された私は。あっさりとその言葉を吐かされた。
友義は鼻で笑って、私を苛む物の動きを止めた。
「つまんねぇ。主衛を裏切ったら楽になれるって学習してるんだよな?もう」
私は友義を睨みながら奥歯を噛む。呼吸を整えようと、胸が上下して忙しなくて。顔も身体も、涙と涎で気持ちが悪い。
「あ?なに。文句ある訳」
「っ、いえ……なにも、ありません。私は、友義様に敵いません。
主衛の事なんて、心の底から愛していません」
口から、言いたくも無い言葉が簡単に溢れて行く。機嫌を損ねれば、どれだけの責め苦があるか。理解させられ過ぎている私の口は、あっさりと主衛を裏切る。
友義の顔に、残酷な笑顔が浮かんだ。憎らしい事に、綺麗なものだった。
本心じゃない。本心じゃないのに。ずっとずっと悔しくて。泣く姿も見せたく無いのに、涙が溢れて行く。そんな私を見て、友義は更に責め立てる。
今日も結局また、いつも通りに好きにされてしまった。
「主衛の事、聞きたかったんだろ?
疑ってたんだよな?あいつの事。可哀想に。愛してる千尋ちゃんに裏切られて、疑われて」
続いた責め苦に、あげざる負えない嬌声で、喉が枯れ葉てた後。
友義が見透かしたかのように言った。掌の上である事ばかりだけど、流石に驚いて見返す。声は掠れて、出る事も無かったけれど。
「良いよ。会わせてやる。それで答え合わせだ。手遅れのな」
嫌な予感がした。友義は笑顔を浮かべている。首をどれだけ横に振っても、呻いても。友義は止まってくれない。
主衛が、ここにいる?まさか、今の私を見られる?それだけは、それだけは、嫌。嫌!
何もかもが崩れ去って行くような心地の中、友義が、主衛と共に現れた。
「千尋ちゃんってさ。賢こぶってるだけでバカなんだよね。ヤラれてる時、どんな顔してるかも分かってないし。
だから、主衛がこんな事になってても気づかない」
現れた主衛は。全裸で、友義に首輪とリードをつけられ。目隠しをされ、四つん這いで歩いて来た。
友義が引っ張るリードに合わせて身体を震わせながら、私の傍まで近づいて来る。耳当ても付けられているようだ。性器が犬のような動きと一緒に揺れている。
「かず、え……?」
「ほぉら主衛。ご挨拶は?」
友義が、変わり果てた私の夫の腰を、合図のように優しく二度叩いた。
「友義!好き、好きだよ!愛して!愛して!」
途端に主衛が、決められていたかの様に腰を振って叫ぶ。
涎を垂らして。性器がみるみるうちに怒張していく。私が見た事の無い位の大きさに。
友義は主衛のその姿を見て、嗤っていた。
「あぁ、嘘、いや、主衛!」
「ほら千尋ちゃん。感動の御対面だよ。ちゃんと見てやれよ」
友義が主衛の耳当てと目隠しを取る。視界が開けた主衛が目を開いて。主衛と私の、目が合った。主衛は、絶句した顔で私を見返している。
私も、露わになっている自分の陰部を曝け出しながら、彼を見ていた。
「主衛、これは、違うの。私、違うの」
私の歯ががちがちと音を鳴らす。主衛がどうしてこんな事になっているのかも分からないまま、微かに弁明の声が出た。
「違わないでしょ千尋ちゃん。
主衛の事は愛してないって言ってたじゃん。ほら、主衛にも聞かせてあげて?」
友義が私に近づいて、私の内腿を撫でた。
私の口はまた、それだけで簡単に言いなりにされそうになったけど。主衛の前でだけは、絶対にその言葉を言いたく無くて。首をいやいやと横に振り返して、唇を嚙み締めた。
「なんだ。つまんないな。
まぁ、千尋ちゃんがどんな二枚舌か、主衛はもう全部知っちゃってるんだけど」
あぁ、この男。私との約束を全部破ったんだ。そう思い至って、怒りで声も出なかった。最低の嘘つきの二枚舌はそっちだと、言ってやりたかった。
「とも、よし。約束が違う、千尋には、もう何もしないって」
主衛が漸く、呻くように言葉を発した。青ざめた顔で、這いつくばりながらも友義を睨みつけている。友義はその主衛の顔を、愛しそうに見返している。
「ん~?そんな事言ったっけ?
まぁほら、主衛。オレとお前が、裏切者で嘘つきな千尋ちゃんよりも仲良しだって所見せてやろうよ」
「ふざけ、ぉ、ああ!」
抗議して立ち上がろうとした主衛の腰を、友義が撫でるように抑える。
主衛はもうそれだけで腰が砕けそうになっているようだった。声を上げて、下半身を上に上げた形で動けなくなっている。
友義は片手で主衛の後ろの部分に触れながら、自分のズボンを降ろして行く。
「止めて、何するの」
「勿論、主衛とセックスするに決まってるだろ。千尋ちゃんとの時よりも気持ち良いってさ」
友義が煽るように言う。主衛が、熱が灯り始めた目と頬を向けて私を見た。
「千尋、見ないで、おねがい」
そう言う主衛の背後にはもう、友義がいて。私は止める事も出来ず。目も離せないまま、見る事しか出来なかった。
「お、ああ!おおお!」
「うんうん。可愛い可愛い。主衛、可愛いぞ~」
私の夫が、抱かれている。しかも、自分の身体を蹂躙しつくして来た男に。頭がおかしくなりそうだった。
私をずっと助けてくれていたヒーローが、大好きな人が。無残に壊されていく。
「やだ、オレは、千尋を、幸せ、に、しあわせにぃい!」
「大丈夫、大丈夫だよ主衛。ちゃんと幸せにするから。気持ちよくするからな。
ついでで千尋ちゃんも一緒に、幸せになろうな」
主衛が抗うような言葉を発しても、友義の動きで簡単に覆される。慣らされてしまった私の姿がダブる。じゃあ、友義が次に言わせるであろう言葉も想像がついた。
「あぁ、でも。これだけはちゃんと言って貰わないと。
ほら、主衛。ちゃんと、千尋の事なんて愛して無いって言って?」
「~~~!」
「ほら。ほら。主衛。言って?言え」
「っ、愛して、ない!愛してないです!千尋の事なんてもう、愛してない!!
ともよしが、友義が良い!」
主衛が言わされた、その言葉が本心からじゃないと分かっているのに。私は、自分の身体が冷えていくのを感じた。
この世で一番。偽りでも、聞きたく無い言葉だった。きっとそれを主衛も分かっている。主衛は。この言葉を言わされるまで。どれだけの事を友義にされて来たのか。考えたくも無かった。
「あ、は。はは、ははは!
やっと、やっと!もう我慢出来なくてさぁ!どんだけちょっかい掛けても別れやしねぇし!漸く、俺のだ。俺の主衛だ!!」
涙を流す私の前で、主衛の声がより甘く、大きくなっていく。それを見た友義も、狂ったように笑い声をあげて行った。笑いながら、涙を流していた。
知っていた。この男にはこの男なりに。私と同じように、主衛を手放せない理由があるんだろう。
知った事では無いから、私は主衛を手放さかった。
『千尋を幸せにしたいです』
それでも、主衛の言葉を思い出す。ごめんなさい。私と貴方の間はもう、混ざり物だらけになってしまった。
私は、もう私の事を見てもいない主衛の姿を見る。夫の目は、色に染まって何もかも友義に夢中になっているようだった。
愛を否定する言葉ばかりの空間で。
夫の嬌声と、侵す男の狂声。そして、肉が打たれる音が響き続けていた。
奥さんを守ろうとしてメス堕ちする話 ガラドンドン @garanndo
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