第5話 二人は親友らしい?
久しぶりに部活に通った次の日――
木曜日の放課後。
本来は、二人きりで一緒に遊ぶ予定だったのだが、現状は違う。
「あんたさ、ここでハッキリとしてほしいんだけど」
千楓の正面の席に座っているのは愛華の他に、
一対二の構図で向き合っているのだ。
彩羽は、愛華と自分、どちらと正式に付き合うのか。それについて千楓に問いかけている最中だった。
今三人がいる場所は街中のチーズケーキを中心に取り扱っている専門店であり、千楓は修羅場みたいな状況に追いやられていたのだ。
「ねえ、あんたさ、聞いてる?」
「聞いてるけど……なんで望月さんまでついてきたの?」
千楓は彩羽がいる現状に困惑した顔を浮かべていた。
「だって、あんたは私と付き合ってるでしょ。今日、愛華と一緒に帰るものだから浮気かと思うじゃない。それが気になってつけてきたの! ただそれだけよ」
「でも、浮気じゃないのに」
千楓は何度も否定するが、彩羽は信じてくれる様子はなかった。
「私、どっちかにしてほしいの。あんたは私と付き合うって言ってたわよね?」
「そうだけど、あれは半場強引な感じだったと思うけど?」
「え?」
「なんでもないです」
千楓は、彩羽から言葉で押し切られていたのだ。
「まあ、彩羽もそんなに怒らないで」
「でも、愛華はさ、こんなハッキリとしない人と一緒にいていいの?」
「んー、そうね。ハッキリとしてくれた方が、私としても嬉しいけど。今は、どっちかっていうと、付き合っているというより、友達みたいな関係だし」
愛華は悩みながらも言葉を選んで話してくれていた。
「本当は好きなんでしょ?」
「んー、どうかな? 今は友達みたいな関係の方が楽かもだし」
「それでいいなら別にいいだけど。まあ、私的にも」
彩羽は意味深な言葉を漏らしながらも、少し嬉しそうに勝ち誇った顔を見せていた。
話によると、愛華と彩羽は昔からの親友らしい。
千楓が絡んでいる事で、色々と二人の関係性がごちゃごちゃになっているようだ。
「ねえ、一つ聞いておくけど、あんたは愛華の事をどう思ってるの?」
「俺は、幼馴染だと思ってるけど」
「幼馴染? 本当にそう思ってるの?」
「う、うん……」
反対側の席に座っている彩羽はジト目で、千楓の事を睨んでいるのだ。
なんか変な事を言ったのかな?
そう思ってしまうほどに、彩羽からは緊迫した表情を感じていた。
「幼馴染ねぇ、まあいいんじゃない?」
「え? どういうこと?」
彩羽のため息交じりのセリフに。千楓は何のことかサッパリわからず首を傾げてしまう。
「千楓は気にしなくてもいいよ。そんなに深く考えなくても」
「え?」
愛華からは焦った口調で言われ、千楓からしても、やはり何のことかはわからなかった。
「それより、今日は普通に食事でもしよ。私はこのブルーベリーのチーズケーキが好きかも」
愛華は勢いに任せ、場の空気の流れをコントロールするかのように立ち回っているのだ。
「二人は何がいいかな? 私、お腹が空いてて。早く食べたいんだよね。千楓は? 何がいい? これがいいんじゃない?」
愛華はひたすら満面の笑みを浮かべ、テーブルに置かれたメニュー表に掲載された、多種多様なチーズケーキの写真を指さしていたのだ。
「このチーズケーキいいよ」
「これ?」
「そうそう。千楓の口にも絶対に合うよ。ベイクドチーズケーキはね。オーブンで焼いて作るケーキなんだけどね。物凄く美味しいんだよ。絶対に食べた方がいいよ」
「じゃあ、それにしてみようかな」
千楓と愛華はメニュー表を見ながら、どのチーズケーキにしようか楽しくやり取りをしていた。
「もう、なんで私のことは気にしないのよ……」
彩羽は小さく言葉を漏らす。
「え、なに?」
「べ、別になんでもないし。というか、いちいち話しかけてくるな」
千楓は彩羽の独り言に反応を返すが、彼女はぶっきら棒な言葉遣いで一蹴するのだった。
「お待たせいたしました。こちらがご注文の商品となります。お間違いはないでしょうか?」
三人がいるテーブル上には、各々が注文したチーズケーキが置かれてある。
追加で紅茶を頼んでおり、それも三人分あったのだ。
「では、ごゆっくりどうぞ」
注文内容に間違いはないと返答を返すと、女性店員は軽く頭を下げ、他のテーブルへと注文を聞きに向かって行くのだった。
「では、食べましょうか!」
愛華は食べることが好きで、テーブルに置かれているブルーベリーのチーズケーキを前に、右手にはすでにフォークを構えているのだ。
「まったく、昔から食欲だけは凄いよね」
「え、嫌味?」
「別に、そうじゃないけど」
愛華と彩羽の間で、なぜか言い争いが始まっていた。
「まあまあ、今はケーキを食べようよ」
千楓は仲介役として割り込み、二人の熱を抑制させていたのだ。
「もしかして、彩羽って、私に千楓が取られそうだからちょっと焦ってる感じ?」
「別に違うし。そもそもね、こんな奴ね、嫌いだし。何となく付き合っているだけ」
「そうなの? じゃあ、私が千楓と付き合ってもいい?」
「それはダメ」
「なんで?」
「なんでも! というか、愛華はこいつとは友達って言ってたじゃない」
「でも、彩羽が何となく付き合ってるだけなら、恋人として奪うかもね」
愛華は余裕のある笑みを彩羽に向けている。
彩羽は焦り、困惑した顔を浮かべながらも、好きにしたらとヤケクソ染みたセリフを口にしていた。
「私、もう帰るから」
三人で食べ始めてから一〇分が経過した頃合い。ケーキを食べ終えた彩羽はムスッとした顔を浮かべ、席から立ち上がる。
「もう帰るの?」
「ええ、そうよ。今日はちょっと用事を思い出して」
「じゃあ、また明日ね」
「ええ、また明日ね」
彩羽は愛華の質問に淡々と返答しており、ケーキを食べたからなのか二人の間で争いは起こらなくなっていた。
彩羽は店内の会計エリアにて店員に事情を説明し、自身の分だけを支払い、お店を後にして行ったのだ。
「彩羽は……もういなくなったわね」
愛華は店内の窓から外を確認し、彩羽の帰り姿を眺めていた。
「それで二人は仲がいいの? 悪いの?」
「そうね、どっちでもないって感じ。まあ、互いの意見を言い合える関係だし……んー、まあ、わからないかな」
愛華はテーブルに肘をついて悩ましい顔を浮かべていた。
「わからないのかよ」
千楓は口に含んでいたケーキを食べ終えると、彼女にツッコみを入れていた。
「そうね。でも、一番の相談相手でもあるし、苦しい時も一緒に乗り越えてきたし、何か腐れ縁って感じかな。ある意味、そういうのを親友っていうのかも。実際の意味は違うかもだけど」
「そうなんだ。俺には、そういう相手なんていないから。逆に羨ましいかもな」
「そうかな? でも、本気で喧嘩した時もあったけど。二週間くらい会話しなかったし」
「それは大変だな」
「すぐに仲直りはしたんだけど。大体の喧嘩のきっかけってのが、同じモノに興味を持った時だったかな」
愛華は再び窓からの景色を見る。
すると、彼女はフォークでブルーベリーのチーズケーキの一部を掬い、それを千楓の口元まで運んでくるのだ。
「ねえ、私の食べてみなよ」
愛華は急に妖艶な笑みを見せ、ケーキを食べるように促してくるのだ。
千楓は彩羽のいなくなった店内で、彼女のそれを受け入れる事にしたのである。
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