第3話

私は訳あって、電車で通勤に1時間以上かかる場所で働いている。

暑い時寒い時は、誘惑に負けて車で通勤する事もあるのだが、うっかり曜日を忘れて車で出勤してしまった月曜日は、必ずと言っていいほど通勤渋滞に遭う。

その度に「家出て1時間半経ってまだ着いてないって、何なん!?」と、車の中で独りで悪態をつきながら何十分かを過ごす。


そして、職場に着くと今度は体力オバケの子供達と過ごす「先生」なのだ。

なので金曜日の夕方は、精魂尽き果ててクタクタになっている。

それでも、しばし自分の時間を過ごせる「週末」というオアシスに辿り着いた事で、若干足取りは軽くなっている。


そう、その日もそんな金曜日で。

最寄駅に着いた電車を降り駅を出て、軽くなった足で青信号の横断歩道を渡っている時だった。

半分ほど渡ったところで、聞き慣れない轟音を耳にした。

無意識に音の方を見ようと左に顔を向けようとした時、もうそれは目の前にいた。凄いスピードで。


ここまで子供に話した時「あ、ほんで異世界転生したんやろ?」と、呑気な反応が返ってきた事は、きっと一生忘れないと思う。


結論から言うと、私は運良く助かった。

咄嗟の出来事に硬直しながらも、少し後ろ跳びに跳んだらしい。暴走右折車は私の身体の5センチ前をかすめて、そのまま走り去った。

道ゆく人達が「大丈夫ですか!」と慌てて近寄って来た所を見ると、やはり轢かれていてもおかしくないタイミングだったようだ。


守られた、生かされた、と思った。

同時に「あぁ、こんな風に突然人生が終わる事もあるんだ」と、ストンと胸に落ちてきた。

じゃあ、自分の生きたい様に生きないと、と。


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