五十話 初めての殺し
初めて人を殺したのは、六歳の時。
大型テロ組織の幹部。国家転覆を目論む動きがあったため、組織総員が駆り出されたのだ。
小柄な身体を利用して、幹部の幼児愛好家に接触。ホテルで一晩過ごしたのちに、寝て居るところを絞殺。情報を全て集めた上で。
自分の手で命を奪うのに、抵抗感はあった。しかし、これが自分自身の人生なんだと、改めて深く実感もした。
無論、暗翔には住所や生年月日、出生情報がない。情報を掴ませないためだ。それゆえに、組織から抜け出すということは、暗翔にとって死を意味する。
出生情報が分からない人間の身元は、間違いなく社会において異物。
気が付けば、殺した数は千人を超えていた。そんな感覚が麻痺してきていた時に、夜雪を拾った。
組織での地位や配偶も高くなり、いつの間にか組織が居心地の良い居場所へと変化。初めて、家族という暖かさを知った。そして、無性に悲しさが押し寄せた。
普通に生まれ、家族と暮らし、喜怒哀楽を共にしながら成長していく。そんなありふれた日常。何度も願い、サクトにも相談したが一蹴されてしまった。
ただただ普通の人生を、暗翔は欲していた。だが、決してそれは届かない。
暗翔の肩に、なにかが置かれる感触。
「終わったよ。どうやら、多くは持ち逃げされたみたいだ。けど、暗翔君や夜雪君に関する情報は見つかったよ。ま、大したものではないさ」
「あの……わたくしの妹についての情報はどうでして?」
恐る恐るといった様子で、夜雪が尋ねた。
「見る限りはないね。そっちに関しては、別日構成員を導入する予定だから安心していいよ。
不安げな表情を浮かべた夜雪は、月が覗く窓枠に手を伸ばした。重ねるようにして、暗翔が自身の手を合わせる。
なぜこんな行動をしたのかは分からない。ただ、届かない月に向かって手を伸ばすことで、気が紛れるような感じがした。
■□■□
夜雪視点
先に自宅へ帰宅した暗翔。夜雪はサクトの移動を手伝うため、朝方まで拘束されていた。ランク争奪戦の後半戦は明日に行なわれる。そのような旨の勧告が、先程届いた。一刻も早く睡眠を取らなければ。
「その前に髪の手入れをする必要がありまして」
白銀の毛先を弄ると、家の鍵を差し込む。今があるのは、兄様のおかげだ。純粋に家族として、兄妹として接してくれる。そこに下心は見当たらない。
誰とも知らない親の遺伝である髪色を、兄様は綺麗だと褒めてくれた。気分が良い時には、手櫛で解いてくれたりもした。不器用な手つきだったが、一生懸命さが可愛いのだ。
大嫌いだった髪色を、兄様は好きだとも言った。自然と目で追っていた。
これが家族愛とは別感情であることに、薄らとは気が付いていた。
「今日こそ兄様と逢瀬を……って、まだ早いですわね」
暗翔の扉を開けると、ふんわりと男の香りが鼻を叩く。だが、ベットには姿がない。不思議に思い、家中を駆け巡ったが、どこにも見当たる気配がない。
それどころか、紅舞の姿も同じく消えている。着信を掛けるも、圏外だと跳ね返されてしまう。
「……嫌な予感がしますわ」
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