二十四話 報告
「はぁぁあッ!」
円形状に覆われた空間内は、地震に
先程まで【
一階で、戦闘を見守る暗翔の視界には、激しい攻防戦を広げている二つの影が。
「
絶え間なく炎を飛ばす紅舞に、夜雪は
「そんなこと言って、本当は攻める手段がないだけよねッ!」
「ふふっ、ご察しの通りですこと」
叫びながら、紅舞は【ギフト】――『
領空が一色赤で染まっていく。
暗翔の目には、炎で形成された鳥たちを捉えていた。
これら全てが、紅舞の【ギフト】によって作られたものなのか。
「あたしの攻撃を耐えられるかしら?」
「ッ……って、俺にまで被害を及ばさないで欲しいんだが」
まるで、意識を持ったように、一匹一匹の鳥が羽を広げて飛び。
群れを作って、夜雪を。
一部は暗翔にも、敵意を向け襲いかかっていく。
「【ギフト】の力に頼った戦い方では、高みを望めませんこと」
暗翔は眉をひそめながらも、次々と近寄ってきた鳥を墜落させていく片手間で。
夜雪に目をやる。
やはり、紅舞の相手は簡単過ぎたか?
迫り来る炎たちは、火花を散らしながら、真っ向に標的へと突撃。
夜雪が握りしめた刃を振ると、剣先が炎を滑るようにして走って。
幾度となく
「こっ……このッ!」
「まだ続けるつもりでして?」
紅舞は唇を噛み締めると、再び【ギフト】を発動。
現れた炎のごとき雨は、重量に引かれ無作為に落下していく。
だが、夜雪の刀身は、ただ振るうだけで持ち主の身体を守り続ける。
闇をも切り裂き、しかし、刃先は輝きを放つどころか黒を宿した武装。
微かに曲がりを経ている見た目は、もはや例えるまでもない。
刀である。
「紅舞は確かに強いと思う。だがな、それは持ち合わせた【ギフト】に限定しての意味だ」
「ッ……!」
はっ、と息を飲む紅舞。
次いで、白い砂浜のような首元から、一滴の朱液がそそり落ちていく。
一瞬で肉薄した夜雪は、刀を横手に持ち紅舞に王手をかけていた。
「兄様の言う通りでしてよ? では、一つ答え合わせをするですこと」
紅舞の皮膚に当てた刃先は動かさずに、言う。
「この【
「単純な身体能力で負けた。そう言いたいのかしら」
えぇ、と肯定する夜雪。
対して、打つ手なしの紅舞は、勝ちを諦めていないかのように、ふっ、と口元に笑みを浮かべ。
「確かに、あたしは【ギフト】に頼った戦い方をしているわ。でもね――」
言いながら、上に腕を伸ばした紅舞は。
ぐっ、と拳を作って
「なにも、作戦一つもなく格上に挑むほど愚かものでは、ないわよ?」
「……なるほど、これまでの戦い方は陽動ってことか」
真上に首をやりながら、暗翔は軽く笑う。
灼熱をもたらす起源のエネルギー。
天井に穴を開けながら、競技場へと迫り来る太陽の姿が、暗翔の瞳に映る。
「ッ……わたくしの意識を守りに誘っている間に、でしてッ」
「受け止めてみなさいッ。あたしの『
「つか、このままだと……この建前ごと破壊するぞ?」
暗翔の何気ない呟きに、観客席で見守る生徒たちに、ざわめきが広がる。
だが、内心では真逆の思考を巡らせていた。
ま、その心配は無用だろうな。
視線の先で捉えた夜雪は、腰をかがめ刀を一度
「素直に一勝一敗ですこと。勝負は、次に持ち越しでしてよ」
床が、踏みしめられ爆ぜる音。
宙に躍り出た夜雪は、刀を手に落下してくる太陽に近付き。
目に止まらぬ速度で
人の身を越え打ち出された神速は。
刀身が光に当てられ一瞬だけ輝くと同時に、太陽は一刀両断され、熱風とともに巨大な爆発音が空中で鳴り響いた。
『片方の降伏宣言により、【模擬戦闘ゲーム】終了。勝者――弥生夜雪』
■□■□
黒く染りきった天空から、一筋の月光が窓ガラスを抜けて入り込む。
夜雪を背中に浴びる暗翔は、ふかふかの座り心地に癒されながら、デバイスをいじり倒していた。
言うまでもなく、夜雪の自宅である。
「二人が行った昼間の戦闘に対して、結構な数の反応があることに驚いたぞ」
実際に、あの場で一部始終を目に焼き付けたのは、クラスメイト三十人程度。
だが、書き込まれた生徒たちの声は、二百を越える勢い。
画面をスクロールしていると、隣に腰掛けてくる夜雪の姿が。
「それだけ、ランク五の注目度は高いですこと」
暗翔の
次いで、短く整えられた銀髪を指でかき上げ。
「兄様は相変わらず、といった様子でして?」
「……あぁ、仕事の方もな」
扉へと視線をやる暗翔。
夜雪は思考を読んだように、望む答えを口にした。
「紅舞さんなら、シャワーを浴びていますこと」
暗翔は目線を戻すと、横に座る夜雪へと移す。
こちらに向ける瞳には、一切の感情をまるで宿していないようで。
意図したタイミングであることは明確だ。
「それで、なにか組織から命令は?」
「合流後は、兄様の仕事――『一ノ瀬紅舞』の護衛及び観察を手伝え、とのことでしてよ」
了解、と返す。
「それで、夜雪は俺よりも早くこの島を訪れていたな?」
「なにをしていた、と?」
「あぁ、純粋に気になっただけだ」
暗翔には、全くと言っていいほどに情報が届いていなかった。
夜雪は左右に目線を巡らせ。
潜めたような声色で、発した。
「……反乱分子を二名。また、その他五名も同じように。うち三名は、将来的に邪魔となるであろう人物。それか、【ギフト】を所持した者ですこと」
「そう、か……」
淡々と、まるで事務報告のように語っていく夜雪の姿に。
暗翔は、表情を消して歯切れ悪く話す。
もしもこの場に、誰かが居たならば、疑問を抱くだろう。
挙げられた数人が、なにを意味しているのかと。
「兄様には及ばずとも、わたくしも
チクリ、と胸元に感じないはずの痛みが走る。
だが、すぐに暗翔は首を横に振ると。
「これからも頼んだぞ、夜雪」
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