六話 入学試験
晴天の青に、夕陽のオレンジ色が混じり合いだす時間帯。
初日の授業は特に、これといって難しいなどとは感じなかった。
背中に差し掛かる日を浴びながら、暗翔は整備された石道に足音を鳴らしていく。
「人殺し……」
自らの
足を前へと一歩出すと、立ち止まり思考した。
まず、人殺しという言葉はなんらかに例えた
それは違うだろうと結論付ける。
二人やクラスメイトたちの態度から、言葉の意味そのままだと思われる。
人を殺し、なおかつ周囲にバレているのにも関わらず、なぜあの少女は在籍し続けているのか?
……現在手元に存在する材料だけでは、これらを繋げることはできない。
「困ったな……」
なぜ、暗翔がこんなにもその少女にこだわっているのか。
それは――。
思考が止まる。
みどろみの意識を引き戻すと、視界に映った街並みの光景に息を
空へと自由に伸び立っているビル群に、都市を彩らせているのは
まるで、ここが海の上に存在しているなどとは思えないほどに、発展を遂げているではないか。
「人工島って言っても、なにも学園だけが建設されている訳じゃないのは知っていたけどな……」
島の面積がどれくらいかは分からないが、巨大なことには変わりないようだ。
金曜日だった今日。
明日は休日となるため、学校に通って必要がない。
「夕方を少し過ぎる程度に、街散策してみるか」
ついでに、夜ご飯も済ませよう。
この島に住んでいる間は、デバイス一個で物を購入可能だ。
お金も【
考えをまとめているうちに、ショッピングモールのような施設までたどり着いてしまった。
周りに目をやると、数人のグループで生徒たちが行き交いしている。
「ぼっちだと、入りづらいってのが不満点だな」
ため息を吐いた暗翔は、若干戸惑った後に中へと足を向ける。
「そういえば、電球買わなきゃな」
どんな店があるかを見回って歩いていたら、ふと思い出した。
デバイスの画面をタッチし、軽く検索をかける。
「……この施設内にはない、か」
一通り回った感じだと、カフェや服屋などのまさに学生受けを狙った店並びだった。
電気屋はどこにあるかと調べたら、なんとここら数キロ先に位置に。
既に夕陽が沈みかけている。
また、明日にでも行くとしようか。
「それじゃあ、食欲を満たして帰るとしよう」
■□■□
ピロリッ、と振動を立てながら光を失った部屋に音が響く。
反応したように暗翔はかけていた布切れをどかすと、枕元に手を伸ばす。
――早朝にごめんですにゃ。昨日すっかり伝え忘れていたことですにゃよ。暗翔君には入学実力テストを受けてもらうので、今日指定する時間にここへ足を運んでもらいたいにゃ。
「入学実力テスト……?」
目尻を擦りながら、下へとたれようとする瞳をなんとか持ち堪える。
口を開きあくびをした暗翔は、休めていた脳内に指示を出す。
それと同時に、ふかふかとした感触から身を起こすと身支度を整える。
部屋を出ると、適度に時間を潰しつつ先生に指示された場所へ向かった。
「突然のことでごめんですにゃ」
先生の声が、ドーム状の空間に反響していく。
観客席が囲うように設置されている二階は、この場所が競技場らしいことを示している。
「休日も俺の顔が見たいからってことですよね。分かります」
「分かりませんですにゃっ!」
この場にハリセンでもあったならば、暗翔の頭を叩いてそうな勢いで発する先生。
はっ、本来の目的を思い出したかのように横に首を振った。
「それで、入学実力テストっていうのはなんのことですか?」
「そうですにゃね。まぁ、早い話はこういうことですにゃ……ッ」
床を蹴り飛ばす音。
叫びながら、先生は暗翔に向かって腕を振り上げた。
突然なことにも、暗翔は片手で襲いかかる攻撃を弾き、続いてステップで距離を取る。
「そんなに俺が恋しいんですか? でも、教師と生徒の恋愛はご法度ですよ」
暗翔の軽いフットワーク言葉を、先生は黙って流す。
「入学実力テストは、要するに生徒の実力を測るテストですにゃ。普通は【ギフト】の能力を見るのにゃけど……」
「俺は所有していないから、戦闘力を確かめたいと?」
こくり、と先生はうなずく。
次いで、姿勢を猫のように低く床サラサラまで顔を近付けると、その体勢で素早く前進。
「私の【ギフト】は『
細かな動きで肉薄した先生は、手先を伸ばし引っ掻くような動作を。
これも【ギフト】の能力なのか、爪は細長く、ギラギラと鋭く光を反射していた。
受け止めるのは危険だと判断した暗翔は、地を蹴り上げ宙に逃げる。
――直後、身体下をヒュッ、と風が裂ける音が。
「危機一髪ってところか――」
「甘いですにゃっ!」
先生は足を軸に向きを変えると、空中に身を
「ッ……!」
「もらったですにゃ……な、にゃにゃ!?」
毛色の違う声。
先生が放った攻撃は、確かに暗翔の
しかし、攻撃が当たる数瞬。
暗翔の姿が、目の前から消失した。
続いて、どこからかつぶやき声が響く。
「やっぱり、これくらいの手抜きはしとかないと、すぐに終わっちゃいますね」
「ッ……っ」
先生の背後に回った暗翔は、蹴りを加えようと足を振り上げた。
これで、テストは終了だな。
心内で
狂った楽器のような音量が、鼓膜内に侵入して来た。
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