ゆぅくんとゆぅくんが大好きな私
羊谷光尾
狂喜の少女
かりかり、かりかり。少女は爪を噛んでいた
(ゆぅくんの隣は
がりがり、がりがり。少女は首を掻いていた
(文音の隣はゆぅくんなのに)
ざらざら、ざらざら。その日は雨が降っていた
(ゆぅくんは文音の物なのに)
少女は悩む。これが「恋」ならば心はどんなに晴れていたか、これが「愛」ならば人々はなぜあんなにも朗らかな顔をしているのか、これが「好き」ならばなぜ涙が溢れてくるのか───少女は佇む、己の部屋で。少女は見据える、椅子に拘束された男を。
「ゆぅくん、おはよう。まだねむいかな?今日からココがゆぅくんのお部屋だからね」
男に与えられた部屋は云うなれば少女趣味の…ピンクまみれの部屋だった。ベッドにはフリルが散りばめられており、クローゼットに男物と言える服は無い。それ以外のインテリアは西洋人形のみだった。人形の目線がじぃっ、と男を見つめている。
「ん"ーっ!ん"ーっ!」
「あぁ、ごめんねゆぅくん。息苦しくて怖かったね。」
少女はよしよし、と男の頭を撫でながら口に貼ったガムテープを剥がす。
「…ひっ、姫だよね?」
「ゆぅくん、恥ずかしがり屋なのは分かるけど名前で呼んで欲しいな?」
「文音…ちゃん。」
「わぁ!ゆぅくん文音の名前言えてえらーい!」
「と、当然じゃん。姫の名前くらい覚えてるって」
「そうなんだ!ゆぅくん凄いねぇ、姫の名前全員言えるんだよね?記憶力いいもんねぇ」
「言えるよ、それくらい。文音ちゃん、冴子ちゃん…」
ぐさっと鈍い音がして男は自分の下半身に目を向ける。太腿に、アイスピックが刺さっていた。
「ああああぁあああ!!」
「で?他には?」
「いだいっ!痛いっ!ぬ"っ、抜いてっ、抜いて!や"め"ろ"っ!」
「…次他の女の名前言ったらゆぅくん女の子になっちゃうからね。」
少女は青い笑顔で悍ましい言葉を発する。女性になる…それ即ち男性器が切り落とされること。ホストとしても雄としても自信がある男にはこの脅しはとても堪えるものがあったらしい。先程の痛みも忘れ、怯えた眼をしている。
「わっ、わかった、わかったからこれ抜いて、ね?文音ちゃん、こういうキャラじゃなかったじゃん?」
男の白い肌に汗が浮かぶ。
「うん!いいよ!」
そう言いながらも抜かず、少女はぐりぐりと刺した傷を深めていく
「い"っ?!な"んでっ!、?あ"やねちゃんや"ぇてっ"、痛い、ぃだい!」
「ゆぅくん。文音はね、ゆぅくんの色んな表情が見たいんだ」
少女は男の唇に口付けをする。歯茎をなぞり、無理やり舌をねじ込む。男の唾液を吸い込むように、もしくは自身の唾液を植え付けるように。
「んっ…んぐっ。」
「んー、ちゅっ、ちゅぷ」
ぷはぁ、と同時にお互いの唇から糸が引き合う。
「これからね、ゆぅくんはここで暮らすんだよ。文音と一緒にね、文音の作ったご飯を食べたりおしっこするんだよ。」
「…は?」
少女の異常な物言いに背筋が震えた。だがここで何か言うとまた、いやそれ以上の痛みが襲いかかってしまうかもしれないと考えると男は口を閉じた。
「最初は慣れないかもしれないけど、ゆぅくんがこの生活に適応できるように頑張ろうね♡」
────
「はい、ゆぅくんあーん♡」
「ぅ、あ…あ、ん」
男はろくに抵抗もできず、黒い髪が横にぱさぱさと揺れ涎がべとべとと垂れ流す様を少女はまるで赤ん坊をあやすように愛しく見つめていた。
「ゆぅくん、可愛いね。かわいい、かわいいよぉ」
「あっ、あぁっ、ぅ…」
もう何度目かも分からない撫でられに思わず身を委ねる。
「あやねっ、あやねちゃん……」
「なぁに?ゆぅくん」
「すきっ、好き…」
「えへへ、嬉しいなぁ」
───────
『█月█日午後2時頃、██市内の山奥で男性の遺体が発見されました。警察は他殺の線で進めているらしく…』
ふーっ、はぁ。
結局口だけだったな。
ゆぅくんとゆぅくんが大好きな私 羊谷光尾 @wooooooaini831
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