天帝君臨

 海面が、不自然に波打つ。

 最初は少し違和感がある程度だったが、段々と大きなうねりへと変わっていく。うねりは広範囲、恐らく半径数百メートルほどの規模で生じていた。

 目にした直後、めだかはあまりの奇怪さに知的好奇心が僅かに疼いた。だが大きくなるうねりと共鳴するように、不安が増大していく。怪魚が傍にいる死が間近にある状況でも湧かなかった恐怖さえ蘇る。

 それが『何』かは分からない。

 だが人が知るべきものではないと、本能的に感じてしまう。


「ね、ねぇ! もう良いでしょ!? 殺すならさっさとしなさいよ!」


 恐怖から逃げたくて、衝動的に怪魚に掴み掛かろうとする。

 しかしぬるぬるとした体表の粘液によって、必死の攻撃は全て跳ね返されてしまう。そしてこの抵抗は怪魚の機嫌を損ねるどころか、むしろ滑稽に見えたのか楽しげに笑われる始末。

 そうこうしている間にも海のうねりは一層激しくなり、ついに『何か』が海中から姿を表す。

 見たくない。そう思えども大きな不安は制御出来ず、めだかは立ち尽くす格好で凝視してしまう。

 現れたのは、巨大な魚だった。

 体長は推定五十メートル。世界最大の魚類であるジンベエザメは体長二十メートル、世界最大の動物であるシロナガスクジラさえ体長三十メートルが最大級である事を思えば、圧倒的な巨体だ。夜なので体色は分かり辛いが、恐らく黒か紺色と思われる。

 外観は一見して、巨大なナマズのようだった。ずんぐりとした体躯と、身体の割に大きな口が特徴的である。しかし口許にヒゲはなく、背中には怪獣を思わせる鋭い背びれが、鰓の辺りから尾の先まで並んでいた。体表面に鱗は見られず、ねっとりしたゼリー状の粘液で覆われている事が光沢から察せられた。

 途方もない大きさの魚だ。見た目だけならそこまでおぞましくない筈だが、めだかの中では生理的恐怖が止まらない。確かにここまで巨大な生物が存在出来る事、今まで発見されなかった事に異様さは感じるが、だとしてもここまで怖く思うのは何かがおかしい。

 直感的に、この巨大な魚こそが島民の語っていた神――――ミユーラなのだとめだかは思う。

 一旦、巨大魚をミユーラと呼称する。名前は付けたが、しかしこの魚は一体なんなのか。恐怖を疑問で塗り潰し、めだかはどうにか冷静さを取り戻そうとする。


「……ハロー……ヒューマン……」


 その思考は、を聞いた瞬間に吹き飛んだが。


「……えっ……………え?」


「オア……コチラ、ノ、コトバ、ナラ、ツウジルカ……ヒューマン、ノ、コトバ、シュルイ、オオク、メンドウ、ダ」


 呆けるめだかに、今度は日本語が語り掛けられる。

 饒舌な口振りではない。

 しかしそれは知能の低さを意味しない。魚には声帯なんてないのだから、言葉を発する事自体が困難だからである。むしろ少なくとも二ヶ国語を、それぞれが別言語だと理解した上で使っている点に注目すべきだろう。文法や単語選びにも、大きな誤りはない。

 最低でも平均的な人類と同程度、二ヶ国語をこうも卒なく扱える点を鑑みればそれ以上の言語能力がある。


「……………ええ。この言葉、日本語の方が良いわ。私の母国語だから」


 一旦頭が真っ白になったからか。めだかは辛うじて、平静を装った回答をする事が出来た。

 ミユーラはしばし黙る。何かを考えている様子だった。


「…………ボコクゴ。シラナイ、ガイネンダ。ナルホド、クニ、ゴト、ニ、コトバ、チガウ。ナルホド、ナルホド」


「むしろこの言葉を何処で覚えたのかしら……誰かに教わった?」


「キイタ、ダケダ。ヒューマン、コトバヲ、タレナガス。ダレモ、キイテナイト、イツモ、ミクビッテ、イル」


 尋ねると、ミユーラはあっさりと方法を白状する。どうやら人間が船や潜水艦で発していた声を聞き取り、そこから学習したらしい。

 恐るべき学習能力である。しかも人類側の会話が筒抜けなのに対し、ミユーラの事は、今日まで人類は知らなかった。一方的に知られていた訳だが、人類はそんな可能性を考えた事もない。確かに「見くびっている」と言われても仕方ない、間抜けな状況だ。


「……成程。あなたは随分と賢いのね」


「アア。ヒューマン、ト、オナジ、ヨウニ」


 謙遜か、嫌味か、事実か。

 交わした数言から判断すれば、恐らく嫌味寄りの事実だろう。


「サテ。ホンダイ、ニ、ハイロウ。ワタシ、ト、ハナシ、ヲ、シテ、ホシイ」


 そして自慢話はそこそこに、本題に自分から戻るだけの理性がある。

 この時点で下手な人間よりずっと賢いのは、確定したと言えるだろう。


「……話、ね。後で私の質問にも答えてほしいけど」


「フム。ナラ、シツモン、ケイシキ、ニ、シヨウ。ハナセル、ナラ、ヤリカタ、ハ、トワナイ」


 要望を伝えたところ、質問形式で話そうとミユーラは提案する。

 思った以上に理性的な対応に、僅かに面食らう。考えてみれば、自分はミユーラ達について何も知らない。前提知識なしに話を聞いても、何度も話の腰を折る事になるだろう。

 その意味ではこちらから聞きたい事をぶつける方が、ミユーラにとっても都合が良いのかも知れない。めだかとしても自分の知りたい事を確認出来るのだから願ったり叶ったりというもの。


「そうね。ならご厚意に甘えてそうさせてもらうわ……早速質問だけど、どうして私達人間を殺すの? 何か、そっちに悪い事をしたかしら? それともこの行為は、あなたではなくこの魚達が勝手にした事?」


 その提案に乗り、めだかは一番の謎――――どうして米軍人や自衛隊員、フィリピン軍人や島民までも殺されたのかを問う。


「ワタシ、ガ、メイジタ。エサ、ニ、スルタメ、ダ」


 ミユーラはあまりにも呆気なく、答えを返した。

 「餌にするため」。

 つまり食べるために殺したと、ハッキリ言葉にする。


「ワタシ、ノ、セイチョウ、ニハ、オオク、ノ、ヒューマン、ガ、ヒツヨウ、ダ」


 ミユーラ曰く、人間を食べる事で成長出来るらしい。

 その詳細な理屈も、ミユーラは話した。

 ミユーラの一族は海底深く……とある海底火山付近に数百万年前から生息していた種だという。地下から吹き出す豊富な資源は様々な小動物を養っており、ミューラの一族はそれらを豪快に食べて暮らしていた。何種かのライバルもいたらしいが、基本的にはその地域の支配者はミューラ達だったらしい。

 『彼』――――めだかの前にいる個体はその一族の中で、特に大きな脳を持っていた。

 ただしそれは単なる突然変異の一つであり、種を変革するほどの進化ではないらしい。元々ミユーラ達は魚類の中では優秀な知能を持っていたので、彼の頭脳も精々天才児程度のものだとか。ともあれ彼は種の中でも特に優れた知能を持ち、その賢さを活かして悠々と暮らしていた。

 だが今から三千年前、海底火山が噴火。

 噴火の威力は凄まじく、大多数の個体が死滅。生き延びたのは離れた位置にいた少数個体と、持ち前の賢さで噴火の予兆を察知した彼だけ。

 尤も、彼自身は同種の死など大して興味もなかったが。生き残り達も同族意識など特になく、住心地の良い場所を求めて散開。種としては絶滅寸前の状況……ひょっとすると彼以外は死滅しているかも知れないとの事だ。

 なんにせよ生き延びた彼は自由な行動を始めた。彼等の種族は数万年の寿命があり、彼はまだまだ若い。悠々と遊ぶ事が出来た、が、一つ問題があった。

 彼等の種族は脳の肥大化に合わせて、身体も大きくなる。そしてこの脳を大きくするには特定の栄養が必要なのだが、その栄養素を含む動物が海底火山の噴火により絶滅してしまったのだ。

 生きるだけなら魚やクジラを食べていれば良いが、脳が小さいままでは身体を大きく出来ない。身体が大きくならないと『力』も弱いまま。

 力が弱ければ、過去の大噴火のような自然災害に巻き込まれてしまうかも知れない。そもそも何かに怯えながら暮らすなど


「ニンゲン、ノ、アタマ、ニハ、ソノ、エイヨウ、ガ、アル。ダカラ、エモノ、ニ、シタノダ」


 つまりミユーラは、ただ自分が自由に生きたいから、人間を殺し、食っていた。

 臆面もなく語る言葉通りなら、それがこの災厄の動機らしい。

 常人ならば恐怖するだろうか。武彦のような勇ましい者なら、怒りや義憤の感情が込み上がるかも知れない。

 しかしめだかは、成程と思った。

 人間は『特別』な生物ではない。生物学的にはただのサルであり、よって他の動物からすれば「サルの一種を好んで食べた」だけだ。未確認生物がサルを食い荒らしていたと聞いても、大半の人間は特にどうとも思わない、精々なんとなく薄気味悪く感じるだけだろう。人間以外の生物にとって、人間を食べる事というのはその程度の事柄だ。

 故にミユーラの意見は、めだかには納得出来た。少なくとも島民達が話していた「信仰対象の岩を壊したから」云々よりは遥かに合理的だろう。

 ……だがそれにしては、怪魚達の殺し方はあまりにも残虐だ。弄ぶようだったと言っても良い。


「餌にするにしては、コイツらのやり方はかなり残酷過ぎない? 遊びで殺しているような気がするけど」


「ヤリカタ、ハ、カンヨ、シテイナイ。ノウ、ヲ、エルナラ、カテイ、ハ、コダワラナイ……ショウショウ、アソビ、スギル、トハ、オモウガ。マイド、ソウジ、ヲ、メイジル、ミニモ、ナッテホシイ、モノダ」


 その点については把握しており、結果的に殺せば良いので放置しているようだ。ただしあまりに身勝手なのはミユーラ(と顔を背けた怪魚自身)も理解しているようだが。

 あの無惨な殺し方は、怪魚達が勝手にしている事らしい。人間で言うなら、猟犬がウサギを遊びで殺しても、狩人の管轄外というようなものか。躾などで止めさせる事も出来るかも知れないが、なんだかんだ仕留めれば良いのであれば、わざわざ止める理由はないだろう。

 殺しに支障が出たり、更にエスカレートすれば苦言ぐらいは呈するかも知れないが、現状を改善する気はなさそうだ。また基地内に死体や血の跡がなかったのは、ミユーラが命じた結果らしい。


「成程。ちなみに私はなんで殺さないの?」


「キマグレ、ダ。ワタシ、ノ、ソバ、マデ、キタ、ノハ、オマエ、ガ、サイショ、ナノモ、アル」


 めだかが生きているのも、ミユーラの気紛れに過ぎない。

 過去に襲われたであろう米兵や島民達の中で、先にミユーラと接触した者がいれば……恐らく、めだかは殺されていた。此処まで辿り着けなくても、殺されていただろう。


「……そういう事。じゃあ次の質問。コイツらとあなたの関係はなんなの?」


 ここまでの話通りなら、怪魚はミユーラの指示によって人間を殺し、基地の掃除や遺体の片付けをさて、めだかオモチャを殺さずにいる。力関係は一方的なものに思えてならない。

 自然界には共生関係というものがあるが、この知的な二種の間に、本能的な繋がりがあるとは考え難い。


「ワタシ、ノ、ドレイ、ダ」


 ミユーラが返す奴隷という言葉は、とてもしっくりと来るものだ。


「ゲンミツ、ニハ、ヒューマン、ノ、ドレイ、トハ、コトナル。ワタシ、ガ、チカラ、ヲ、アタエ、ヤツラ、ガ、ウゴク」


「力を与える……?」


「ソノミ、ニ、マトウ、ネンエキ、ト、ヤマヌ、アメ、ダ」


 どうやら怪魚が纏う銃弾さえ弾くゼリー状の粘液は、このミユーラから与えられたものらしい。

 なんでも二千年前にミユーラが海底を散策していた時、怪魚のコロニーを発見。勇ましく襲い掛かってきたが返り討ちにし、以来便利だから仕えさせているそうだ。

 力によって従属させたが、こちらの力を一部与え、狩りなどの仕事をやってもらう。確かに奴隷と言うには、もう少し契約的な関係性を感じる。傭兵や労働者という方が的確かも知れない。だが一方的な力関係は例えの通り奴隷的だ。確かに人間が使う『奴隷』の一言で説明出来るほど単純な関係ではないだろう。

 両者の関係は、生物学的に興味は惹かれる。だがそこを一旦脇に置いてでも、問い詰めねばならない事があった。

 「止まない雨」という物言い。

 まるでと言いたげではないか。


「……あの大雨も、あなたが降らせていたの?」


「ソノ、トオリ。ワレラ、ノ、イチゾク、ハ、テンキ、ヲ、アヤツル」


 訊けば、返ってくるのは肯定の言葉。

 まだ、めだかはミユーラの『人となり』を理解したとは言えない。

 しかしここまでの会話の淀みなさからして、恐らく嘘は吐いていない。現状の圧倒的有利さを思えば、嘘を吐く必要すらない筈だ。仮に不都合な事を訊かれたなら、怪魚に指示を出すなり、自らの力を使うなりして殺せば良い。

 だから本当にこのミユーラは、自由に天気を操れるのだろう。


「(って、流石にそれは納得出来ない!)」


 知能が高いのも、言葉を話すのも、人間という『前例』があるのだから否定するものではない。多少能力が上回っていても、人間が一番ではなかったというだけだ。

 だが天候を操るのは、人類でも為し得ていない技術である。確かに人工降雨や人工降雪などの技術はあるが、あれは雨雲に対して雨や雪を促す程度のもの。無から雨雲を作り出す訳でもなければ、災害級の豪雨を引き起こす事もあり得ない。

 ミユーラがこの島の豪雨を操っていたとすれば、それは間違いなく人智を超える力。人類では到達出来ない領域である。


「フゥム。コレ、ハ、ヒューマン、ニモ、リカイ、デキヌカ。ナルホド、ナルホド」


 その考えをミユーラは見透かし、嘲笑うように口ずさむ。

 聡明なこの生物は気付いたらしい。人間は天候を操れない。だから辿と。


「そ、そんな凄い事、本当に出来るの? どうやってるのか、教えてくれる?」


「ソレ、ハ、ヒミツ、ダ。ダレカ、ニ、キカレテ、ハ、コマル」


 秘密を聞き出そうとしてみたが、誤魔化されてしまう。本当に困るから答えないのか、或いは余裕を見た上で制限しているのか。ここまでの聡明さからして、恐らく後者だろう。


「ソレ、ト、アメ、ニハ、ボウガイ、ノ、ヤクワリ、モ、アル。ツウシン、ヲ、トメル、ヤクワリ、ダ。ブンダン、スレ、バ、ヒューマン、ノ、チカラ、イカセ、ナイ」


 更に雨には、通信妨害の力があるという。

 一体どんな原理なのか。ミユーラが答えてくれない以上、めだかには想像も付かない。本当だと信じる根拠も、現に通信が出来なかったという状況証拠だけ。

 だがもしも本当ならば、ミユーラは意図的に通信を妨害していた事になる。仮に嘘でも、通信妨害の重要性を理解した上での嘘だ。

 即ち人間が何故強いのかも、このミユーラは理解している事になる。

 人間の強みは、コミュニケーション能力だとめだかは思う。異なる立場の相手とも言葉を交わし、利益と目的を共有する。例えば中国内陸部で採掘された鉄鉱石を、日本の沿岸部で製鉄し、日本内陸の工場で猟銃へと加工して、老人しかいない山奥の農村に猟銃を販売する事で、田畑を荒らすクマを撃ち殺すように。何処かで『情報』が寸断されれば、農家はクマ相手に生身で挑まねばならない。

 ミユーラは人間の強さを理解している。だからどうすれば人間が困るか、無力化出来るかも分かっている。単に自分の強さに自信があるだけではない、論理的に『勝ち筋』を見出している。

 驕りや隙がないとは言わないが……ここまで理性的に勝ち方を考えている相手に、何も知らないが勝てるのか?

 『勝ち』の定義次第だろうが、めだかには到底そうは思えない。


「イママデ、コノ、ムラダケデ、カツドウ、シテイタ。ダカラ、トウミン、ヲ、ミナゴロシ、ニ、デキナカッタ」


 今までは、人間を安定的に喰うため島民は全滅させなかった。

 だから島民達は生き残り、伝承として後世に伝える事が出来た。


「ダガ、フィリピン、ヤ、アメリカ、ニホン、ノ、ヒューマン、ガ、オシエテ、クレタ。ヒューマン、ハ、マダマダ、タクサン、イル。ヒューマン、ハ、イクラデモ、タベラレル」


 しかしミユーラは知った。人間はこの小さな島以外の、世界中に食べきれないほど生息していると。

 そこで喜び勇んで手を出さなかったのが、彼の聡明さの現れ。

 ミユーラは自衛隊(時代的には日本軍だろう)や米軍の観察に長い時間を費やした。元より数万年の寿命を持つミユーラにとって、その程度の時間を待つのは苦ではないだろう。注意深く、念入りに、人間を調べた。それこそ通信や言語を解読出来るほどに。更に通信の遮断方法なども研究したのだろう。

 そして対処法を考え、ついに行動を起こした。念には念を入れ、すぐには調査・救援を行えないこの島での『実証実験』という形で。


「(不味い……コイツ、人間の事を本当に理解している……!)」


 人間を知らなければ、出し抜く方法もあったかも知れない。

 だが注意深い性格により、ミユーラは人類を理解した。情報を秘匿し、一方的に攻撃する方法を編み出した。通信も解読されては、不意打ちすら難しい。少なくとも今しばらくは、奴は思うがまま動ける。

 島の人間を食い尽くしたら、別の島を襲うのだろうか。人間を食べるほど脳が育ち、身体が大きくなり、力が強くなるという。果たしてミユーラの成長は何処で打ち止めなのか? 自称突然変異体の限界が何処なのか、彼の寿命が何時なのかは分からない。

 人類が彼の存在をどうにか知った時、ミユーラの力は人類の手に負える水準で収まっているのだろうか。

 ミユーラは人類を絶滅させる気なんてないだろう。だが好き勝手に食い荒らし、多くの被害を出す事は厭わない。早く軍や政府に知らせなければ、どうにもならなくなる。

 だが、コイツがそれを許す間抜けとは思えない。驕りも隙もない。


「サテ、ソロソロ、シツモン、ハ、オワリ、カナ?」


 用なしとなった人間を、慈悲深く逃がすなんて真似をするとは思えなかった。


「え、あ、えっと、あの」


 他に聞くべき事はないか。時間は稼げないか。考えようとするが、再び迫ってきた『死』の予感がめだかの口を強張らせる。

 果たしてそれをミユーラは時間稼ぎと受け取ったのか、はたまた単に飽きただけなのか。


「ヤレ」


 ただ一言ミユーラが命じた。

 瞬間、めだかは自分の身体がように感じ。

 痛みを感じる間もなく、その意識は闇に消えるのだった。

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