〈蝶の舞〉四、【金鳳弓の主】
四、【金鳳弓の主(きんほうきゅうのあるじ)】
そしてその日の晩もまた、
「来てくださって嬉しいわ。旦那様は今日もなんとお可愛いこと」
「ううん、いい匂い。旦那様は今日も、お花の匂いがなさるわ」
金檀は垂れ目を細めて笑う。金檀の色は金。文淑が唯一外した色で、文淑は黒と予想していた。確かに小麦色の肌に美しい黒い瞳であることは確かだが、髪は茶色がかった色であるし、何よりもその艶のある甘い声は黒というよりも、優美で華やかな金の光沢を思わせる。
「旦那様。今日はなんの曲を弾きましょうか。それとも膝枕ですか?」
金檀は体を揺らしながら、ゆっくりと室の中に入っていった。金細工の調度が映えるこの部屋。金檀のために床を全部白い大理石に張り替えてあるので、ろうそくの光が一層つややかに見え、心做しか、金檀の奏でる馬頭琴の音色も美しく聞こえる気がした。入口を抜けると紅木の衝立は繊細な彫り細工が一面に施されており、花や葉を模した部分は金泥で彩色されており絢爛である。天井に吊り下げてある灯籠も金で作られた鳳凰の装飾がひときわ華やかで、壺までも金で絵付けされていた。文飛は金刺繍がされた白い布が貼ってある椅子に腰掛けて言った。
「では、金檀に任せよう」
その声を聞いて、金檀は寝台の横においてある馬頭琴を手に持ち、部屋の窓を開けた。一旦ひざの上に馬頭琴を置くと、付け爪を取り、膝の間に挟むようにしてから、弓を持って構える。
「じゃあ、お姉さんたちによく聞こえるように、力強く弾きましょうかね」
そう言って金檀が勢いよく弓を引くと、とたん大理石も歌い出すように震え、天上につけてある鳳凰の金細工も月下に歌うように輝き始めるが、それこそがこの室の名である「
「金檀、素晴らしい」
「ふふ、旦那様。そんなこと、今に始まったことじゃないでしょう」
金檀は髪にさしているかんざしをチラチラと光らせながら笑い、もう一曲と、弓を引いた。
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