3
「初心者でも全然大丈夫だから!
「ありがとうございます」
ジャージを着た
学校指定の体操服――ショートパンツに
自分は運動がてんでダメらしい――七彩はそう
ポニーテールをほどきながら
理由は特に聞いていない。おそらくまた「可愛いからついてきた」などと言い出すだけだ。とはいえ、昨日は〈ロゴス〉の戦闘を怖がっていたようにも見えたので、それでも一緒に来てくれるのは七彩にとってはありがたいことだった。
ただ、体験入部自体は「もう別のに入ってるから」と断られた。七彩が下手くそなプレーをくりひろげている間、彼はコートの外に座ってなにかの教本を読んでいた。
「芙蓉」
声をかけるまで、彼は七彩の接近に気付かなかった。ようやく七彩に気付いた芙蓉は、本を閉じて立ち上がった。
「次は?」
「美術部に行きたい」
七彩が短く返事をすると、芙蓉は「いいね」とコメントして歩き出した。
「ほんとにいいって思ってるの?」
「思ってる」
「じゃあ、美術部は一緒に体験する?」
「それは間に合ってる。大丈夫」
あっさり断った芙蓉に、七彩があきれ顔を向けた。芙蓉はかなりマイペースだ。ずっと無表情だし、受け答えも
「間に合ってるって、なにが?」
口を
*****
続いて、ベキベキボンボンというエッジの
七彩は美術部でデッサンの体験をしたあと(結局芙蓉は参加せず教本を読んでいた)、最後に彼の
この教室にいるのは七彩と芙蓉の二人だけ。体操服姿の七彩は、彼にエレキベースの
「……こんな感じ?」
言いながら、机に腰かけた七彩が同じフレーズをスラップで演奏してみせる。そのあまりの上手さに目を丸くした芙蓉が、
「もしかして経験者?」
と聞いてきた。
「ううん。今日初めて触った」
七彩がそう返すと、芙蓉は
「天使ってね、『音楽』
「むむむ……」
自分の黒いベースに向き直った芙蓉が、
「それ、いつから
なんとなく気になって、七彩が聞いた。
「二年前。結構いいやつなんだよ、このベース」
「そうなんだ。わたしが使ってるのとどう違うの?」
七彩がさらに聞くと、芙蓉は
「これ一本でいろんなジャンルに対応できるし、引きやすくて音もいい。もともとはボルトオンパッシブっていうのを
「い、いっぱいしゃべるね……ちなみに、いくらだったの?」
「十万円くらい。かっこよくない?」
あいかわらず表情の変化には
そんな彼に
「わたし、今日は全部で四つ体験入部したんだけど……どうしてそんなにたくさん、って思わなかった?」
「そういうパリピなんだと思ってた」
「ちがう」
七彩は彼にジト目を向たが、ふいに表情を
「わたしは人間が好き。ヒトに興味がある。社会も、文化も、芸術もスポーツも。全部面白そう。全部楽しそう。だから、いろいろ試してみたいんだ」
言いながら、七彩は顔をほころばせた。
「そしたら、いろんな部活で体験入部できるって言うじゃない? でも、それをやってくれるのって春だけらしいから、今のうちに全部体験しときたくって」
「……そうなんだ」
そんな七彩の顔を見て、芙蓉が
「でも、芙蓉はわたしに興味なさそうだよね。さっきと全然テンションが違うじゃん」
「そういうわけじゃ――」
「また適当なこと言うんでしょ。別にいいよ。わたしのことあんまり好きじゃないもんね」
ぶーたれる七彩に、芙蓉が少しだけ
「なに、どうしたの? 急に立って」
「そろそろ行った方がいいんじゃない?」
そう言った芙蓉がエレキベースを片付け始める。
「もう日が暮れる。昨日、虚像天使の
「そ、そうだね……うん。言った」
「白羽さん、着替える? いったん外で待ってようか」
手を止めて教室の外に出ようとした芙蓉を、七彩は思わず引き止めてしまった。
「いいよ、別に。天使だから
「えっ、でも」
そう言った芙蓉は、ぽかんとした顔で七彩を見ている。
「いいからそっち向いててっ」
彼が言われた通り片づけを再開したのを見て、七彩は
天使にとって、
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