EP-7/minus seven: angelic memory.
1
天使は目を閉じ、
エンドロールよりずっと前の、はじまりの記憶。何百年、何千年の時がたとうとも、その輝きが失われることはないだろう。
*****
まるで、学園ドラマの告白シーンのようだった。
「
その女子生徒は
まず、髪は銀色で、やわらかそうなくせ毛が腰まで
「……ううん、
彼女がもう一度呼びかける。
いきなり名前を呼び捨てにされた男子生徒は、しかし表情を変えることなく銀髪の少女を見返していた。やや
女子生徒が言葉を続ける。
「実は、わたし――
白羽七彩は天使である。
それがどういうことなのか、なぜそうなのか、七彩自身にもピンときていない。彼女とて、朝起きて、朝ご飯を食べ、制服に
「……天使? どういうこと?」
芙蓉はほとんど表情を変えずに、その声に少しばかりの
「いったん聞いて。実は、あなたにお願いがあって――」
美しい銀色の髪が、オレンジ色の夕焼けを
ゆっくりと、彼女はこう
「わたし以外の天使を、殺してほしいの」
*****
「わたしが言うのもなんだけど、本当に来てくれるとは思わなかった」
銀髪の女子生徒――
七彩と
すでに日は落ちかけ、空は紫とオレンジの美しいグラデーションになっている。
「どうしてついてきてくれたの?」
七彩が聞くと、芙蓉は
「可愛いからついてきた」
「え」
思わず声を上げた七彩を置いて、芙蓉が続ける。
「むしろ
「お
七彩が
「適当に言ってるでしょ?」
「ばれたか」
あっけからんと答えた芙蓉を、七彩がじっとりとした目で
「仲良くなれたら嬉しい、ってところは本当だけど」
と言ってきた。
みんなが言うには、七彩はとんでもない美少女らしい。芙蓉が言うように、一部では『お姫さま』なんてあだ名で呼ばれてもいる。だから、七彩が声をかければ芙蓉でなくともついてきてくれたかもしれない。
ただ、そう言う割に芙蓉の表情はほとんど動いていない。なんとなく気になって、七彩はこう聞いてみた。
「さっきの、告白されると思った?」
「うん」
「どきどきした?」
「かなりした」
芙蓉は素直にそう答えた。少し目を細めた彼は、どうやら
七彩にそんなつもりはなかったけれど、
「さっきの話、信じてくれた?」
「天使がどうとかって話?」
「そう」
七彩が答えると、芙蓉は数秒
「どうかな。本当に天使だとしたらすごいなとは思う」
「なにその小学生みたいな感想。もっと
芙蓉にジト目を向けた七彩は、軽く両手を広げてこう言った。
「ほら見て。わたし変でしょ、全然みんなと違うでしょ」
七彩の見た目は、現代日本の一般的な女子高生としてはかなり
芙蓉はそんな七彩を観察するようにじっと見てきた。そんなにまじまじ見つめられると、見られているこっちはかなり
「……あんま見ないでよ」
「そっちが見ろと言ったのでは?」
「うるさい」
七彩が言うと、視線を正面に戻した芙蓉がつぶやいた。
「別に変じゃないと思うけど。すごくきれいだと思うよ、髪の色も、目の色も」
その言葉を聞いた七彩は、顔を赤くして「そういうことじゃないからっ」と否定した。芙蓉は良くも悪くも『
「それで、今ってどこに向かってる?」
芙蓉があいかわらずの無表情で聞いてきた。
軽く頭を
「もうこの
と言った。
芙蓉が言われた通りに足を止める。左手側の林と右手側の
「これから『天使』が来る」
七彩が言う。
「わたしは今からそいつと戦う。ちょっと危ないけど、よく見ててね」
ぽかんとする芙蓉を置いて、七彩が前に
七彩は右手を前に出すと、その名を呼んだ。
「来て、“ロゴス”」
大気が
〈
七彩はこの『鎧』にそう名付けている。ここからでは白い塊に見えるその『鎧』は、よく見ればクラウチングスタートの
全高は約三メートル。アスリートのような
「え、なにそれ」
「これは『ロゴス』。本当は少し違うんだけど、天使の鎧みたいなものだと思っておいて」
「すご……」
七彩が真っ白な装甲に手をついて、右足を上げた時、
「
と芙蓉が後ろから声をかけてきた。
「なに?」
「今は見てないほうがいい?」
「……別に、いい」
七彩は天使のはずなのに、下着を見られるのは
その
――敵の
すぐ後ろには
前方十五メートル、左手側の林がかすかに
「そろそろかな……」
白い騎士の中で、七彩はお腹に力を入れる。小さく息を
「――!」
地面を
七彩が短く
〈ロゴス〉が
それが『敵』だった。
人型をしたその『敵』は、巨大な石像のような姿をしている。
身長は〈ロゴス〉と同程度。なめらかな灰色の鎧を
輝く剣と大きな盾を持った石像の天使は、〈ロゴス〉を
七彩は目を
この敵の名を〈虚像天使〉という。
見た目は〈ロゴス〉と似ているものの、〈虚像天使〉の場合は『
「“
七彩がそう命じると、
〈光剣ケオ・クシーフォス〉。
その剣を右手に持った〈ロゴス〉は、起き上がろうとする〈
〈ロゴス〉の下で〈虚像天使〉がもがく。
そのせいで
「おとなしくして……っ!」
言いながら、光剣を
ばがん、と大きな音がした。
七彩の悲鳴と共に、大盾に殴られた〈ロゴス〉が
頭がくらくらして、身体が重くなったように感じた。もうやめたい――
右腕をなくした〈虚像天使〉がゆらりと立ち上がった。武器を
それに気をとられている間に、〈虚像天使〉が目の前まで
殴られるたび、七彩の口から
「……あった!」
さっき落とした〈光剣ケオ・クシーフォス〉が見えた。近い、左手側三メートル。七彩は
すぐさま立ち上がった〈ロゴス〉が、〈虚像天使〉の方を向く。
大盾を構えた石像の天使は、畑へと降り立ちこちらの方に走ってくる。
「う……ああぁぁ――っ!」
〈虚像天使〉が盾を
二体の巨人がごろごろと田畑を転がっていく。
もがくように起き上がった〈ロゴス〉が〈虚像天使〉に飛び
がきん、とひときわ大きな音を立てて、光剣が〈虚像天使〉に突き刺さった。
「はあ、はあ――っ!」
たった一、二分の戦闘で、七彩の息は上がっていた。
〈ロゴス〉は石像の天使に光剣を突き刺したまま停止している。そして、〈虚像天使〉もその動作の一切を止めていた。
「はぁ……、はぁ……っ」
――やっぱりわたしには向いてない。
七彩が〈虚像天使〉と戦うのは、これで三回目だった。いつだって彼女に余裕はなく、今日まで生き残れたのはたまたまだ。次こそはもうダメかもしれない。
鎧のあちこちを
七彩が首をめぐらせて芙蓉を探す。
彼は十メートルほど
「……ご飯食べに行かない?」
そう声をかけると、芙蓉が我に返ったように
「そこでちゃんと説明するから」
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〈近況ノートにて機体やキャラの設定イラストを公開中です〉
・白羽七彩
https://kakuyomu.jp/users/kopaka/news/16818093089921642798
・ロゴス(白)
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