EP4: angel side.
4-1
彼女の名前は
「わたしね、ヒトが好きなの」
彼女は
「ヒトが好き。ヒトの世界が好き。ヒトが作ったものが好き。社会も、文化も、芸術もスポーツも。全部楽しそう。全部
ジャージを着て、教室でJポップを歌う女子高生の天使。それが
*****
窓の外では、さめざめと雨が
七月十八日、土曜日の
校舎にいるのは二人だけ――
窓際の机を二つくっつけて、芙蓉とギメルは向かい合って座っている。
教室の電気はついていない。ギメルは知ってか知らずかスイッチには手を伸ばさなかったし、雨とはいえ最低限の明るさではあったため、芙蓉もそのままにしておいたのだ。
完全なモノクロ。
全部が
「おにぎりというものは、思っていたよりも食べにくいですね。ですがわたしは許します」
二人はコンビニで買った昼ご飯を食べている。
芙蓉は一応制服を着てきていた。そしてギメルも、昨日と同じく制服姿である。白い夏服セーラーに
「
おかかのおにぎりを
ギメルは
「……そうなんですか?」
「うん。それ食べると絶対
彼女は悲しそうな顔をしながら「わたしは許します」と
「ギメルはいつ生まれたの?」
「その日時を
「想像以上に赤ちゃんだった」
芙蓉が小さく笑うと、
「わたしはそれも許しますけど、できれば笑うのはやめてほしいです」
ギメルは七彩と本当にそっくりだ。気を抜くと、芙蓉はこの少女を七彩と呼んでしまいそうになる。
『わたし以外の天使を、殺してほしいの』
七彩との約束を守るなら、ギメルも『殺す』対象に含まれる。
「とり五目は食べやすいですね」
ギメルはおにぎりを飲み込むと、りんごジュースのストローに口をつけた。そんな彼女に芙蓉が問いかける。
「聞いてもいい?」
天使はジュースを飲むのを中断し、机にパックを置いた。
「なんでしょうか?」
「天の
「はい。その通りです」
「それって、なんで?」
そう聞くと、ギメルは
「芙蓉さんは、天使とは何か、知っていますか?」
「美少女」
芙蓉がそう返事をすると、ギメルは「えっ……」と言って固まってしまった。もちろん
「その認識は間違っていますが、わたしはそれを許します」
「ごめん。冗談だよ」
「むぅ……」
ギメルは頬を膨らませて、小さく笑った芙蓉に
ぽたぽたと、
「天使とは、
「カウンセラーみたいな?」
「……どうでしょう。ちょっと違うかもしれません」
芙蓉が聞くと、ギメルは少し考えてからそう答えた。
「主の
それを聞いて、芙蓉は昔
「わたしはこの数日で、人間に関して様々なことを学びました。とても、とても
ギメルがスカートのポケットからスマホを取り出す。白い、
「スマホ持ってるんだ」
「はい。少し
そこで、ギメルが
彼女の金色の
「ですが、わかってしまいました。人間の世界は
しばらく目を
「その昔、天使たちは、人間を
芙蓉は理亜の言葉を思い出す。
『現実にそういうファンタジーを見かけないのは、みんな
――
それらが人間の
「もしかしたら、ですが。天使たちは
「天使でも間違えるんだ」
「わたしたちも、人間と同じく『選択する力』を与えられた存在です。正しさは、
ギメルは小さく息をついてから、続けた。
「わたしの計画も、うまくいくかはわかりません。ですが、人々が
「じゃあ、それが天の
「はい。人々を
芙蓉は彼女の説明に
そんなことを思案していたら、ギメルがおずおずといった様子で声をかけてきた。
「あの……芙蓉さん。すみません」
そう言った彼女は落ち着かない様子で
「えっと……お話の途中でごめんなさい、でも、
「どうしたの?」
「これ、
顔を赤くして
「なにかを
だから昨日の夜は何も履いていなかったのか、と芙蓉は納得した。そして今日ギメルがそれを履いているのは、昨日の『
「ダメでしょうか」
「ごめん。ぜんぜんいいよ」
「ありがとうございます」
礼を言った彼女は、いそいそと
「……」
自分で気付かないうちに、スカートがずり落ちて
「あの、大丈夫ですか? 顔色が悪くなって……やっぱり脱いじゃダメでしたか?」
靴下をきれいに
「いや。なんでもない」
そろそろ
しかし、逃げてばかりはいられない。
「聞きたいことがあるんだけど――」
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