4-2
「待ってください」
言いかけた
「先に、あなたの
「いいけど、なんで?」
プリズムキューブのペンダントを取り出してギメルに見せながら、芙蓉が聞いた。
「やはり、まだ
ギメルがそう言うと、芙蓉は目を丸くした。
「いいの? ロゴスは天使からしたら『
「たしかに、この制圧躯体はいけません。恐らく、
「それは困る」
「はい、わかっています。ここでロゴスを取り上げてしまうのは
ギメルが優しげな
「人間を助け、
彼女はあくまで公平だった。
善なるものを救い、悪なるものを
「もちろん、天の
「……わかった」
優しい声色で告げたギメルの方に、芙蓉はプリズムキューブのペンダントを置いた。すると、彼女はそれを手に取ってじっと見つめた。
ぐらり、と空間が
芙蓉はそれを
「終わりました」
そう言うと、ギメルはふわりと笑った。
「芙蓉さんはわたしを信じてくれました。素直ないい子です。なので、ご
「ありがとう」
礼を言いながら、芙蓉はプリズムキューブのペンダントを受け取った。ギメルを
「さて、お待たせしました」
ギメルが芙蓉の目を見て言った。
「ご期待に
知らず、芙蓉はごくりと
「……ギメルとそっくりな、
「はい。完全にではありませんが、
アレフ、ベート、ギメル。
それはヘブライ数字の『一』、『二』、『三』にあたる。『ギメル』とは、『三番目』というシンプルなコードネームだったのである。
「僕は、二か月前まで七彩と付き合ってた」
「それは天使としての
言いながら、ギメルは少しだけ目を細めた。
「七彩は二か月前に
芙蓉はそこで一度言い
「七彩は今、この街にいるのか、いないのか。それも教えて」
ぽたり、ぽたりと、
「……残念ながら」
グレースケールの世界で、ギメルの金色の
「天使アレフはこの街にはいません。これはわたしの直感のようなものですが、二か月前にこの街を去ったきり、彼女が帰ってきたことは一度もないと思います」
ギメルが申し訳なさそうな顔をして言った。
彼女の言葉を理解するのに、芙蓉はしばらくの時間を
けれど、まだできることはある。七彩がいないのは最初からわかっていたことだ。もっと
芙蓉は表情を
「じゃあ、なんで七彩が出ていったのか、わかる?」
「その説明は少し長くなります。なぜわたしが天使アレフと似ているのか。なぜこの世界に再び天の
芙蓉は
ギメルはそんな芙蓉を見返して、説明を始めた。
「実は、天使は現代においても
彼女が灰色の
「『現代の天使』は、様々なかたちをしています。人間の背中を少しだけ押す、ぼんやりとした温かさだったり。誰かにふとしたインスピレーションを与える声や影だったり。
ギメルが芙蓉へと
「そんな『現代の天使』にも、ある
「じゃあ、七彩は?」
白羽七彩も現代に生まれた天使だ。
しかし彼女は
「それが問題なんです。アレフは天使の
以前、七彩から同じ説明を
「そしてその
「ああ……」
天使ベート。
実は、芙蓉と七彩は、高校一年の終わりごろにその天使と交戦して
「しかし、ベートもまた、問題のある天使でした。彼はアレフの『修正』を早々にあきらめて、その存在をなかったことにする選択をした。つまり、『
それを
「でも、おかしいと思いませんか?」
「なにが?」
「本来、この世界に強い
「そうなんだ」
「そうなんです。天使が力を失ったこの世界に、力を持った天使を安定的に
ギメルの金色の
答えあぐねた彼を見て、天使は説明を続けた。
「天使が力を失った一番の原因は、人間と天使の関係性が遠いものになったからです」
「人間が天使を必要としなくなったから?」
「その通りです。ですが、この街のとある場所だけは、再び人間と天使の関係性が近くなっていた。それがここです。この学校です」
「……!」
七彩が友人を作り、
『力を持った天使』が、人間との交流を深めた場所。
それがこの
「ベートはそこに目を付けました。アレフが人間と仲良くなるという
「じゃあ、七彩が人間と仲良くなればなるほど――」
「はい。アレフがこの学校で過ごすことは、虚像天使たちが生産される
そこで一度言葉を切ったギメルは、少し言い
「……そして、芙蓉さんとアレフが――白羽七彩が『恋人』関係になった。それを受けて、ベートは二人の
「僕と七彩が付き合ってたのが、その原因だった……」
「そうです。そして、ベートは二人の恋人関係を利用した新しい
つまり、
「もちろん、この現代において、古代の天使を発生させるのは
「ある方法って?」
「
ギメルが言った。
芙蓉はそれで、彼女の言いたいことの
「つまり、その『コピーシステム』を使って、七彩のコピーであるギメルが生まれた」
「……はい。ベートはもういませんが、その
ギメルが顔を上げ、芙蓉を見た。
「七彩は
「でも、七彩はギメルほど強くなかった。めちゃくちゃ運動オンチで、ロゴスに乗っても虚像天使に負けそうになってたし」
「いえ……わたしも同じです。わたしもきっと『めちゃくちゃ運動オンチ』です。同じ条件でロゴスを使ったら、虚像天使に勝てるかどうか」
「じゃあ、なんであんなに強かったの?」
「それはわたしの制圧躯体の性能です。わたしは七彩と違って、
そう言われて、ギメルとの戦闘を思い出した。
あの時一対一の
「わたしには、芙蓉さんのような恐れ知らずの
言った後で、ギメルが
「すみません、話が
「いや、大丈夫。だいたいわかった。僕と七彩が一緒にいると、ベートが作ったシステムのせいで天使が生まれる。だから七彩はいなくなった」
「……はい。二か月前の時点で、わたしは完成しかけていました。それに気付いた七彩は、
ギメルが困ったように肩をすぼめる。
芙蓉はほとんど表情を変化させなかったが、内心ではまとまらない思考がぐるぐると
「ギメル」
芙蓉が顔を上げる。
「なんとかして、七彩の
「えっ、と……」
身を乗り出した芙蓉が言うと、ギメルが手を組んで
「ごめんなさい。今は難しいみたいです……でも、もし天の
「だったら僕も手伝う」
「え?」
芙蓉が立ち上がり、ギメルの目を見て言った。
「なんでも手伝うよ。なにかできることはない?」
「……本当ですか?」
ギメルがぱあっと明るい表情を浮かべて、芙蓉の手を取る。彼女は「では……」と言いかけたが、
「芙蓉さん、ダメです。
「どういうこと?」
「とにかく、いまの言葉を取り消して――」
彼女がそこまで言ったとき、芙蓉のポケット内のスマホが
「……ごめん、待って」
ギメルと話している間も数分おきに何かしらの通知がきていた。今までそれを
芙蓉がポケットからスマホを取り出す。その画面には、
《
と表示されていた。
「……!」
ギメルがハッとして窓の外を見た。それにつられて、芙蓉も同じ方向を見る。
外に広がる灰色の景色。
そこに、完全
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます