2-2
その
大学の
〈アーヴィン〉が、その
「そろそろ敵が来ますけど……本当に一人でやるんですか?」
その十メートルくらい後ろを小走りで追いかけた
『先輩に任せとけって。てか、なんでわかるの?』
「ささやかなチートです。ちなみに敵は全部で三体います」
モスグリーンの二脚兵装が、右手にアサルトライフルを構えて道路を進む。体育館の横を通り過ぎると、付属高校の正門が見えてきた。
『確かに、
理亜がそこまで言ったとき、
『――来た』
〈アーヴィン〉の十数メートル先に、灰色の天使が落ちてきた。
しかし、理亜に迷いはなかった。
ほぼ同時くらいに、左腕を
着弾、爆発。
主力戦車すら撃破できる
『……九十五ミリでもだめかー』
大盾で防御した〈ガナン・タイプ〉は全くの無傷だった。
『さすがに
「やっぱり手伝います」
『いいよいいよ、まだギブってわけじゃ――』
発砲。
だだだだ、と工事現場のような
〈ガナン・タイプ〉が大盾に火花を散らしながら走ってくる。その動きは素早く、あっという間に距離が
敵との距離、四メートル。
モスグリーンの機体が射撃をやめ、ライフルを持った右腕を引き寄せる。
敵との距離、二メートル。
〈ガナン・タイプ〉が長剣を振りかぶった。すれ
そして、
長剣が振り下ろされるコンマ数秒前――重心を下げ、機体を安定させた理亜は、左腕のロケットランチャーで
発射、着弾。
炎が
割れるような
「――まじか」
芙蓉には
理亜が発射したロケット弾が、剣を振り下ろした〈ガナン・タイプ〉の右腕に直撃し、その
『お、いけた』
理亜が短く声を上げる。
右腕を失いバランスを
だだだん、という
灰色の鎧に
〈アーヴィン〉は静かにアサルトライフルを持ち上げ、今度はその砲口を虚像天使の
さすがの天使もこれには
アサルトライフルの砲口から
『なるほどねー、だいたい聞いてた通りかな』
ギリギリの駆け引きをしたというのに、理亜は少しも呼吸を
理亜が
「理亜さん、まだ……」
『わかってるってー』
校舎の屋上に二体目の虚像天使が現れた。弓を持った
ガスタービンエンジンが
〈トルカン・タイプ〉が弓を引く前に、黒煙を吐き出した〈アーヴィン〉が走り出す。その背中から
虚像天使が後退する。
そこに、空中から落ちるように飛来したミサイルが着弾。屋上の一角が吹き飛ばされ、
『あと二体だよね?』
「そうです。今のやつもまだ生きてます」
『おっけー!』
がちゃがちゃと
『うわ』
理亜が間の抜けた声をあげる。
中庭の向こう側で、〈トルカン・タイプ〉が弓を引いて待ち
〈アーヴィン〉はすぐ近くの建物の裏に飛び込んだ。虚像天使が発射した光矢が、後ろの建物に直撃して爆発を起こす。がらがらと激しい音をたてて建物の一角が崩れ落ちた。
『すっごい火力……ミサイルみたい!』
今度は正面の建物の角部分が
『いち、に、さん、し……』
その間、彼女は
〈アーヴィン〉がロケットランチャーを捨て、ずらりと長い武器を背中から引き抜く。
30×173ミリ
これはいわゆる『失敗兵器』だった。アサルトライフルに比べて
『――よし』
理亜が呟いた。
敵の四度目の射撃で、隠れられる場所が全て吹き飛ばされる。同時に〈アーヴィン〉が駆け出し、中庭の向こうにいる〈トルカン・タイプ〉と
虚像天使が弓を引く。逃げも隠れもできない距離だ。コンマ数秒後、光矢が発射されれば間違いなく理亜は死んでしまう。
それに
――発射。
爆発のような
マッハ三・五でかっとんだ
三十ミリライフル砲は、理亜ですら使いこなすのが難しい『じゃじゃ馬』だ。一発で当てるには重心を下げて機体を安定させる必要がある。
だから彼女は敵がリロードにかける時間をカウントして、機体の安定を待てる時間を計算した。当てられる――そう判断したからこそ、理亜は攻撃をしかけたのである。
もちろん、誰にでもできることではない。それは彼女が最も得意とする、ありえないほどに高精度な『計算』だった。
『次でラストね』
変わらない調子で理亜が言った。
〈アーヴィン〉が校舎裏の
『確かにいい盾だけど……』
勢いよくかっとんだ八十四ミリロケット弾が、〈ガナン・タイプ〉の大盾に着弾して
しかし――
『……大きすぎるのも、考えものだぜ?』
ロケット弾は大盾の上の方で
その時には、〈アーヴィン〉は
三十ミリライフル砲が火を噴く。
一発目は
「……やばすぎる」
少し離れた場所でその様子を見ていた芙蓉が
がちゃりと音をたてて立ち上がった鋼の巨人は、宇宙服のヘルメットみたいな頭部を回転させてこう言った。
『これでわかってもらえた?
おそらく、理亜は
こんな戦闘を見せられては、彼女が秘密組織のエージェントであり、優秀な操縦兵でもあることを認めるしかない。芙蓉は
「えっ」
『うそ』
二人は同時に声を上げ、
そこに、いるはずのない四体目の天使が立っていたのである。その
――間違いなく、それは『本物の天使』だった。
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