第三話 あなたのせいで

 え、、あ、、どうしよう。

 

実家から少し遠目のアパートに越してきてから誰も家に呼んだことがなかった。

 私にとって、誰かが自分の部屋にはいってくるというのは落ち着くものではない。兄が私の部屋に入ってくるのを思い出してしまうからだ。


過呼吸気味になっていた呼吸を落ち着かせる。


はぁ、ふぅ、はぁ、ふぅとゆっくり頭を空っぽにして、ただひたすら心を落ち着かせることにだけ集中して。


そうしているところに、ピンポーンという音を立てて、あかねさんの声が聞こえてきた。


「小羽ちゃん大丈夫、?鍵開けられる?色々買ってきたんだけど、」


「あ、ありがとうございます。今行きますので」


重たい頭と体を持ち上げ、玄関まで行く。

遠くないはずの玄関も今は長い長い道に思えた。

色々とかなり限界らしい。


ガチャという音を立ててドアを開ける。

そこには心配そうで、何か言いたげなあかねさんがいた。走ってきてくれたのだろう、手に白い袋を下げ、息を切らしていた。


「小羽ちゃん、、!早くベッドにいこ!」


そう言いながら私の体をお姫様抱っこという抱きかたでベッドに運ぼうとするあかねさん。

え、、?!ちょ、、?!


咄嗟のことでパニクって、されるがままお姫様抱っこされ、口をパクパクさせることしかできない私。

え、、へ、、?あ、あかねさん、、?!


「はいはい大人しくしててね、今看病してあげるからね」


そんなことを言いベッドにそっと私をのせる。

まずい、今の出来事と熱も相まってクラクラしてきた、、


「色々と言いたいことはあるけど、今は熱を治さなきゃね」


そう言い残して、キッチンの方へ歩いていったあかりさん。

 部屋に入られるのがどうこう思っていたはずなのに、すっぱり忘れて今の出来事と最後の優しそうな顔と、どこまでも見透かしてしまいそうな目で頭がいっぱいになってしまっていた。


あぁそうか、私まだあかねさんのことが好きなんだ。。

 あなたのせいで思い出してしまった、この胸が高鳴っていくような感覚。けど、この思いは知られてはいけない、明かしてはならない気持ちだ。


そう思いながらベッドに体を沈め、なんとも言えない気持ちに浸っていた。



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