魔力特性 

「昨日、力を入れて体外に魔力が溢れ出ていたのを渦のイメージで抑えたのは覚えとるか?」




ロームが椅子に腰掛け、手に持った杖を軽く振りながら語りかけてくる。




「魔力の操作というのはな、各人のイメージに依存するところが大きい。人それぞれでやり方が違うんじゃが、まずはこの世界での魔力の基本について、しっかりと抑えていこうかのう。」




私はロームの言葉に耳を傾けながら、次第に自分の適性や制御法がわかってくることを期待して集中した。




「まず、魔力というのは『体内』『体外』、そして『自然』、この三つに分けられる。自然にある魔力が無意識に体に吸収され、それがいわゆる体内魔力じゃ。そして体外魔力というのは、自分の体の外に漂う、知覚していない自分の魔力のこと。そして最後が自然魔力じゃが、これは塔の外では密度が薄く、ほとんど認識もできんし、ましてやコントロールは難しい。」




「塔の中では密度が高いってことですが、それは階層や場所によって違うんですか?」




「察しがいいのう。そうじゃ、階層によって違うのはもちろん、低階層でも一部の特定地域で密度が高まる現象がある。この自然魔力、通称『裏魔力』とも言われておってな…非常に強大な力を秘めておる。だがこの裏魔力を無理に扱おうとすれば、過剰な力に振り回され、結果としてウォーカーになる危険もある。」




ロームはここで一呼吸おき、私を見やる。




「実は人は無意識に、得意とする属性だけを自然魔力から選び取って吸収しているとされておる。つまり、自分の体が一種のフィルターのような役割を果たし、扱える魔力の質だけを選り分けていると考えられとるんじゃな。」




私は興味深く、さらに身を乗り出してロームの話を聞いた。




「さて、昨日もやったように、魔力のコントロールには個人のイメージが欠かせん。魔力を感じるだけでなく、体内外の魔力を意識して動かし、やがては属性を発現させることが大事じゃ。例として見せてやろうかの。」




ロームは手元にあった紙にペンで小さな点を打ち、次に同じ場所に再び点を打った。私が目を凝らして見ると、二つの点は完全に重なり合っていた。




「お前も同じようにやってみなさい。」




私は言われた通りに試したが、どうしても微妙にズレてしまう。




「これが、最も単純な魔力制御の基礎じゃ。魔力を体に循環させ、体を動かすだけで、身体感覚が鋭くなり、意図した通りに動かす精度が増す。些細なことじゃが、この小さな差が戦いの場では生死を分けることもある。」




「つまり、まずは体内魔力を循環させて、意識通りに体を動かせるようにすることから始めるんですね?」




「そうじゃ。体内魔力を知覚してコントロールできれば、体外に出ている魔力にも意識を向けられるようになり、さらにその体外魔力に属性を発現させることが可能になる。こうして魔力を自在に扱えるようになれば、戦闘での強みとなる。」




ロームはさらに、目や髪の色によって得意とする属性がある程度わかることを教えてくれた。




「赤髪は火、青髪は水、緑髪は木、茶髪は土、そして黄髪は金。大体こんなふうに色が適性を示しておる。じゃが、後天的に変化することもあるし、例外も少なくない。特に教団の聖女は、代々銀髪でな、聖女に選ばれると後天的に髪が銀色に変わると聞く。さっき話した王国の血筋は皆金髪じゃ。この二者は特殊な存在で、全属性に適性を持つとされ、特に聖女は他者に特別な能力を与える異能を持っておる。」




「じゃあ、僕みたいに髪色が二色に分かれてたら、もしかして異能が二つあるとか?」




「その可能性は十分ある。異能を二つ持つ者は滅多におらんがな。しかし、結局は魔力を知覚してコントロールできねば意味のない話じゃ。」




自分の能力が特別なものであるかもしれないと知り、私は心の中で高揚を抑えきれなかった。




ロームは私の目を見つめ、にやりと笑った後、さらに属性の調べ方について話し始めた。




「さて、次に属性じゃが、これは簡単に調べられる。魔力を紙などに集中させてみると、何かしらの効果が紙に現れることが多い。たとえば、ワシがやってみると…」




ロームが手に持った紙に軽く魔力を込めた瞬間、紙はボロボロと崩れ、まるで腐るように朽ちていった。




「すごい…これは土属性?」




「その通りじゃ。土か木属性によく見られる現象じゃな。ほかにも、燃えたり濡れたり、硬くなったりとさまざまな反応が起こる。複合的に現象が起こる場合もあるぞ。やってみるか?ただし、魔力をコントロールして密度を上げねば、何も起こらんかもしれんがのう。」




「やってみます!」




さっきもらった紙を手に取り、ロームの見よう見まねで魔力を集中させてみた。しかし、紙には何も変化が現れなかった。何度か試してみたものの、ただの紙であり続けた…そう思い、落胆しながら紙を机に置こうとしたその瞬間、紙がゆっくりと宙を漂うように落ちていった。




「!?おまえさん、いま何をした?」




「何をしたって、言われた通りやっただけですけど…」




「いや、確かにお前の魔力が発現しておった。紙がゆっくりと落下したぞ。これは恐らくお前さんの魔力特性じゃな。まだ何の属性かは断定できんが、糸口としては大きな手がかりになるじゃろう。」




「これって、珍しいケースですか?」




「大抵の特性は5属性のどれかに当てはまるものじゃが、これはどれにも属さんように見える。それに初めての試みで特性が発現するとは…やはり転移者ということかの。もともと魔力量が桁違いに多いから、容易に発現したのじゃろうな。」


「まぁ魔力量が多いから移動石も割れたんじゃしそれもそうか」


ロームは割れた移動石を惜しみながら一人で納得していた。




「なんかすいません、でも最高です、自分にしかできない力があるみたいで」




思わぬ褒め言葉に心が高鳴り、つい微笑んでしまった。


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