魔力操作、とは?
食事を終え、水晶に魔力を吹き込もうとするが、いまだに魔力の感覚がはっきりとつかめない。
「これかな?」と思える微かな感覚はあるものの、それを意識的に操るのは容易ではない。
私は目をつむり、楽な体勢を取る。そして、昨日ロームに教わった方法を思い出しながら、まずは魔力を「認識」することから始めることにした。
何度か試行錯誤するうちに、自身に留まる魔力と、空気中に漂う魔力のようなものを微かに感じられるようになった。
この魔力が、呼吸するたびに少しずつ体に溜まっていっている感覚がする。それはあまりにも微細で、深呼吸したときに唇に感じる風の流れに似ていた。その感覚が全身を通して起こり、体の内側に何かが蓄積されていくのを感じる。
「これは……魔力ってやつなのか?」
疑心暗鬼になりながらも、私はその感覚に集中した。
次にビー玉を利き手に持ち、様々な方法を試してみる。力を入れてみたり、完全に脱力してみたり、念じたりもしたが、ビー玉はまったく反応しない。
「これ、ロームに茶化されてるんじゃないか?」
不安と苛立ちが頭をよぎるが、諦めるわけにはいかない。
試行錯誤の末、ふと思いついた。
「中心を手のひらに集中させて、ビー玉に直接流せばいいんじゃないか?」
私は目をつむり、手のひらに魔力の渦を作るイメージを重ねる。
すると、ビー玉がじわじわと温かくなってくるのを感じた。
「お、来たか?」
勢いづいた私はその流れを早めようと試みる。
「アチッ!」
突然、ビー玉が熱を帯び、思わず手を離してしまった。
目を開けると、目の前には見覚えのある部屋が広がっていた。
「ロームの書斎だ!」
「マジかよ……なんの前触れもなく来ちまったじゃん。いや、でも確かに熱くなったよな?」
私は半ば呆れたように笑い、転がっているビー玉を探す。しかし、そのビー玉は真っ二つに割れていた。
「一回しか使えないのかよ。何回も使えそうな気がしたんだけどな……」
独り言が口から漏れる。ふと視線を上げると、目の前でぽかんと口を開けたロームが座っている。
「お前さん、まさか本当に飛んできたのか?」
驚愕したように、ロームが私を凝視していた。
「どう見てもここにいるだろ?」
私は肩をすくめながら答えた。
「まったく、普通は数日かかるもんだぞ。お前さん、何かとんでもないことをやらかしてくれたようだな」
そう言いながらも、ロームは楽しそうに笑みを浮かべる。
「そっちが教えた通りにやっただけなんですけどね。やっぱり俺、素質あるんじゃないですか?」
冗談半分に言った私の言葉に、ロームは肩を揺らして笑った。
「いやいや、お前さん、そう簡単に調子に乗るなよ。これはほんの基礎だ。これからが本番なんだからな」
笑いながらも、その目には何か期待するような光が宿っていた。
「まぁまずは昨日の事だ。あの後ワシも現地を見てきたが、ありゃ酷いな。何したらあんな壊し方ができるんだ?審判の部屋はぶっ壊れとったが、塔ってのは不思議なもんでな、自然修復が始まっとったよ」
「自然修復?」と私は首を傾げる。
「そうじゃ。塔には自分で壊れた部分を元通りにする力があるらしい。ワシも初めて見たが、まぁ貴重なもんを見せてもらったわい」
ロームは肩をすくめ、椅子にどっかりと腰を落ち着ける。
「だがな、お前さんの話はそれだけじゃ済まん。審判の部屋の事故以来、外ではお前さんをどう扱うかって話が大騒ぎになっとる。『チームに入れるべきだ』だの『危険だから始末するべきだ』だの、あちこちで議論が巻き起こっとるぞ」
「おいおい、まじかよ」と思わず声を漏らす。冗談だろ?
「だからな、これからしばらく外出は禁止じゃ。今日からはアカデミーの寮で寝泊まりしてもらう。安全のためでもあるが、移動用の水晶もぶっ壊されちまったからな」
ロームは溜息をつきながら、机の上の割れた水晶の破片を示した。
「あれ、高いんだぞ?」
私は無意識に顔をしかめた。高いものを壊してしまった罪悪感と、あの水晶が一回きりの使い捨てだったことへのがっかり感が入り混じる。
「いや、これ本格的に天才ってやつなんじゃないか?」と私は冗談めかして言った。
「バカタレが。お前さんはただ魔力操作が下手で、魔力の器が大きいだけじゃ」
ロームが笑いながらそう言うと、私も自然と笑顔がこぼれる。思っていた以上にこの老人は人間として器の大きい人だと思った。
「チームに入れるだの、自然修復だの、寮生活だの……なんかいろいろ言ってたけど、全部ロームさんに任せるよ。正直、面倒くさいし」
情報量が多すぎて頭がついていかない。それが本音だった。
「ワシが言いたいわい。面倒くさいったらありゃしない。だが、まぁ、これも教育者の務めってやつかのぅ」
ロームはぼやきながらも、どこか楽しそうに話を続ける。
「さぁ、昨日の続き、歴史編パート2じゃ!」
急に切り替わるその様子に、私は内心「ほんとに急だな、この爺さん」と苦笑するしかなかった。
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