ポッキーを食べよう!

 11月11日。都内某所の探偵事務所にて。

 杏の部屋の扉を開け放ち、開口一番、心音が言う。


「杏ちゃん! 元気ですかッ!?」


 パソコンのキーボードを叩く手を止め、杏は今度は一体なんなんだよ……と言いたげな顔をする。


「……ハァ? 常識的に考えて、引き籠もりに元気があると思ってるの? 元気があるなら引き籠もりなんてやってないよ。……で、今度はなに?」

「今日はポッキーの日だからですよ! なので一緒にポッキー食べましょう!」


 とポッキーの箱を掲げる心音。

 杏は呻く。


「いや、1人で食べればいいじゃん」

「1人で食べるより2人で食べた方が美味しいですよ! というより。ポッキーは2人で食べるものなんですよ! だから一箱に二袋入ってるんです! 知らなかったんですか?」

「え。そうなの?」

「すいません、めっちゃ適当な想像でいいました! どうなんでしょうね? そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。みたいな?」


 小首を傾げて舌を出す心音。

 杏は半眼になる。


「……相変わらず、ウザいウサギだな」


 杏が机からリモコンの様なものを取り出した。

 それを見た心音は、


「おっとッ、同じ手は食いませんよ! 扉が閉められる前に中へ入ってしまえば問題ありません!」


 と言って、廊下から杏の部屋の中へ跳躍。

 何も言わず杏は、リモコンのスイッチを押す。

 すると乾いた音を立てて、杏の部屋の床が開いた。

 部屋の真ん中が落とし穴となり、心音は着地することができず、そのまま穴の底に落ちていく。

 心音の姿が消え、杏が満足げに頷く。


「……こんな事もあろうかと、部屋に落とし穴トラップを作っておいて正解だった……」


 杏がそう安堵の息を吐いた、その時だ。


「とうッ!」という掛け声と共に、落とし穴から人影が飛び出した。

 言うまでもなく心音である。

 鮮やかに杏の隣の床に着地した杏は、埃を払いながら言う。


「もう~杏ちゃんったら、またこんなトラップを張って。危うく落ちるところだったじゃないですか」

「いやいや、いま普通に落ちたじゃん。てか、どうやって上がってきたの?」

「そこは普通に、壁を蹴って三角飛びで……」

「三角飛びって、普通に出来るもんなの?」

「私これでもデスゲーム司会をやっていましたし! 以前はプレイヤーで参加もしていたので、落とし穴とか、落ちてくる天井みたいなトラップは慣れてます!」」

「慣れたくないな、それ……」

「という訳で話は戻りますが、今日はポッキーの日ですよ! なので一緒にポッキーを食べましょう! またはポッキーで遊びましょう!」

「ポッキーで遊ぶって何。どうやって遊ぶの。ポッキーゲームとか陽キャみたいなこと言い出さないよね」

「う~ん、ポッキーの早食いとか?」

「ヤだよ普通に。だからさ、心音1人で食べればいいじゃん。どうして私を巻き込もうとするの」

「それはですね! 私が杏ちゃんと仲良く一緒に食べたいからです! という訳で、ポッキー食べましょうよ!」


 心音に肩を揺らされ、杏は折れる様に言う。


「わかった、わかったから揺らさないでよ。じゃあ私、ポッキーは夕張メロンのやつが好きだから。それ買ってきて。それだったら一緒に食べても良いよ」


 それを聞いた心音が、目を輝かせる。


「本当ですかッ!? じゃあ私そのメロンのポッキー、何としても全力で探してきますので! そしたら一緒に食べましょうね! 約束ですよ!?」


 告げて慌ただしく杏の部屋を去って行く心音。

 その後ろ姿を見送って、杏は内心で呟く。


 ……馬鹿なウサギめ。ポッキーの夕張メロンは地域限定で北海道しか売っていないから、今日一日は精々、都内を頑張って探し回ればいいよ。


 心音の厄介払いに成功した杏。

 大きく嘆息して、再びパソコンに向う。

 ……。

 ……。

 ……。

 暫くして。

 落ち着かない様子で、杏は頭を掻いた。 


「……あーもう、本当にウザいウサギだな。なんかこれだと、また私が悪いやつみたいじゃん」


 杏にも何か思うところがあったらしい。

 机からスマホを取り出して、杏は心音に電話を掛けた。

 そして電話越しの心音に言う。


「ーーやっぱ普通のポッキーでいいや。一緒に食べるから帰ってくれば?」


 と言って杏は電話を切った。


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【あとがき】

 SSを読んで頂き、ありがとうございます! 作者の枢木縁です。


 本作ですが読者の皆様に推して頂いて、次にくるライトノベル大賞2024にノミネートされています!


 皆様の投票で決まる賞でして。投票して頂けると今後も、作品が良い感じに続けていけますので…! 投票して頂けると嬉しいです!

 下記より投票できますので、ぜひお願いします!


 http://tsugirano.jp

『横溝碧の倫理なき遊戯の壊し方』ノミネートNo.141となります。

 引き続き、横溝碧をよろしくお願いします!

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