第2話 チノリちゃんとクダン

 いっぱい、怒られてしまいました。


「なんで、こんなことしたの!」とおかーさんはプンプンとして、「ごめんなさい」と、わたしも何度もあやまりました。


「そう言えば最近、この辺りに通り魔が出るって噂だしな。王平さんも、事前に連絡なんかはしないで家に来てたんだろ?」

 おとーさんが首をひねり、「そうね」とおかーさんも答えます。


「町内会の家を何軒も回ってたみたいだから。その場の思いつきで来たみたい」


「じゃあ、とりあえず、って感じかな。この辺、監視カメラもないしな」

 おとーさんはポンと両手を合わせ、一人でうなずきました。


 それで、おじいさんの話は『カイケツ』になりました。





 今日もおサンポです。


「また、ヨーカイさんはいないかな?」

 コウエンの中に入って、キョロキョロと辺りを見回します。


「あ」と、その途中で声が出ました。


 すみっこの方に、ネコさんたちの家があります。でも、いつもと少しちがっていました。


「赤ちゃんだ」


 ネコさんのところには、赤ちゃんがいっぱい生まれていたのです。「ミー、ミー」とお母さんネコに頭をくっつけて、ミルクを飲んでいるところでした。


「あれえ?」


 でも、すぐにフシギになりました。


 ネコさんの赤ちゃんは、イチ、ニ、サンと、ぜんぶで五ヒキいました。

 でも、右のはしっこにいる赤ちゃんだけは、他の子とは何かがちがいます。


「あ!」


 その赤ちゃんは、体がネコさんなのに、顔だけが『人間』のものになっていました。

 それも、けっこう大人の顔です。おじさんみたいな顔をしていました。


「こんにちは」と、人間の顔をしたネコさんは、わたしを見てあいさつします。

「あ、こんにちは」と、わたしも気づいてペコリと頭を下げました。


「教えてあげる。これから二ヶ月後、この世界には『恐怖の大王』がやってくる。強大な破壊の力を持った魔神が、この世界を焼き尽くすだろう」


「ふうん」


 それだけ言うと、フシギなネコさんは目を閉じてしまいました。そのまま動かなくなったかと思うと、体からポワンとキイロの光が出てきます。


「あ、死んじゃった」


 ヘンだなと思いつつ、出てきたタマシイを追いかけました。

 別のコウエンの中まで飛んでいき、ジャングルジムの近くの木の上で消えました。「うんせ」とジャングルジムをのぼっていくと、木の上にはカラスさんの『家』がありました。


「あれえ?」と、わたしはフシギに思いました。





 ネコさんが何者だったかは、その日の内にわかりました。


『ヨーカイずかん』の中に、答えが出ていました。おばあちゃんが買ってくれたもので、今までも何回も読んできたお気に入りの本です。


『クダン』という名前が書いてあります。


 顔だけは人間なのに、体がウシさんとか別の動物のものになっている。生まれてすぐに『預言』として未来のことを話し、その後ですぐに死んでしまうそうです。


「へえ、すごいなあ」

 クダンと会えた。これはすごい発見だと思います。


「でも、この後はどうなるんだろう」


 クダンは死んで、タマシイが飛んで行きました。

 あのタマシイは、これからどうなるんでしょう。





 でも、『結果』はあんまり面白くありませんでした。


「教えてあげよう。チノリちゃんは数日後、道端で『通り魔』に遭うよ。鎌を隠し持っていて、チノリちゃんに襲いかかってくるんだ」

 カラスさんの家を見に行きましたが、またクダンがいました。


 ぽわん、とクダンの体から光が出てきます。

 今度は、近くの家に入っていきます。おなかの大きなワンちゃんがいました。


「教えてあげよう。近くの道路で、車にひかれる人が出るよ」

 次の日に行くと、ワンちゃんの体をしたクダンが言いました。

 それからまた、クダンのタマシイが飛んでいきます。


「教えてあげよう。明日の天気は晴れだ」

「教えてあげよう。チノリちゃんの明日の晩ごはんはハンバーグだよ」

「教えてあげよう。『名探偵コナン』が放送されるのは、明日の夜六時だ」


「なんか、つまんない」


 クダンはヨーカイです。それが死んだら、次はどんなヨーカイになるんだろう。そういう風にワクワクしてたのに、クダンはいつもクダンにしかなりません。


「うーん」と、わたしは首をひねります。

 もうちょっと、面白いものが見たいです。





 そうだ、と一つ思いつきました。

 クダンは、『預言』をすると死んでしまうそうです。そしてまた、クダンに生まれます。


「じゃあ、こうしたらどうなるのかな」

 ネコさんの家を見に行くと、またクダンが生まれていました。


「教えてあげよう。明日は東京の円相場が……」


「えいっ」


 預言を話すより先に、木の枝をさしました。「ひいっ」と声が聞こえて、隣にいたお母さんネコもびっくりしたように毛を逆立てます。


「これで、どうなるかな」


 ふわふわと飛んでいくタマシイを、ゆっくりと追いかけます。

 タマシイはまた別のネコさんの体に入っていきました。


「今度は、長生きできるといいね」

 やっぱり、生き物はすぐに死んだらカワイソウです。





 次の日に歩いていると、泣いている男の子が見つかりました。


「どうしたの?」と声をかけます。


「喉が痛いんだ。怪我をしちゃって、ずっと血が止まらないの」


「どこかで、ケガをしちゃったの?」

 男の子の横へと行き、顔を見ようとします。


 そこでようやく、男の子は顔をあげました。


「お前がやったんだ!」

 男の子は、顔だけがネコさんになっていました。





 フシギだなあ、と思います。


 クダンは生まれ変わって、化けネコになったみたいです。体がネコさんで顔は人間だったのに。次は体が人間で顔だけがネコさんでした。


「今度は、ちゃんと生まれて来られるといいね」


 トガった木の枝を見つめて、わたしは幸せをいのります。





 そう言えば、と気になったことがありました。


(教えてあげよう。チノリちゃんは数日後、道端で『通り魔』に遭うよ)


 クダンは預言をするヨーカイです。本当に、これまでに預言された通り、晩ごはんがハンバーグになったり、天気が晴れになったりしました。コナン君も見ました。


 じゃあやっぱり、この預言も当たるのでしょうか。


 夕方の時間になって、町が暗くなってきました。


 そうして家に近づいた時、「ねえ」と声をかけられました。


 電信柱の後ろから、女の人が出てきます。


「ねえ。ワタシ、キレイ?」

 顔には大きなマスクをして、まっしろな長いコート。


「あ!」とわたしはすぐに気づいて、女の人にニッコリ笑います。


 多分、この人が『通り魔』です。


「どう。ワタシ、キレイ?」


 そうなんだ、とすぐに答えがわかりました。

 この人は、『クチサケ女』なんです。つまりはヨーカイさん。


「えいっ」

「ぐぴ!」と声が聞こえます。


 ふわふわ、とタマシイが浮かび上がりました。


「うん、とってもキレイだよ!」

 クチサケ女さんの『シツモン』に対し、はっきり答えを言いました。

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