6話
当たり前だけど遊んでいたわけではない。
確かにミッチェルと動画を見て楽しんではいたが、それは仕事をした上で休んでいたに過ぎない。それに仮に俺が休んでいたとして配下が魔物を倒してくれれば俺の糧になる。休んでいても休んでいない状態だからな。
だから、一時間寝た後に人形創造を行っている。
神域内のデバフはスキルの経験に関してのみ。裏を返せばスキルのレベル上げや獲得条件以外ならば問題無く使用出来るからな。そこで作ったのはゴブリンアサシンとは別の、言ってしまえばゴブリンの正統進化種であるゴブリンソルジャーだ。個々の強さであれば強いとは言えないが……別に長所が少ない訳でもない。
一応、十体作って簡単な剣術は教えておいた。
本当に簡易的なものでしかないから護身程度にしかならないだろう。それこそ、刀の持ち方や振り方などを教えただけだし。ただ、今だってどれも倒されていない時点で意味はあったんだと思う。時間の立ち方が違うとはいえ、どれくらい魔物を倒したかは感覚で分かる。
リーダーにはナオマサと名付けておいた。
サスケと同じく消費魔力は他の二倍だ。それでも強さ的にはサスケとどっこいどっこい、体躯だってゴブリンに近しかった。まぁ、顔に関しては綺麗な男性といった感じだったけど……それが強さに直結しない。作成後は七時間程度の睡眠を取り、俺の扱えるスキルの感覚を掴むために使っていた。
ミッチェルと動画を見ていたのはしておきたい事を全て終わらせたからだ。それこそ、時間にして二時間も経っていないだろう。もっと言えば動画を見ながら配下達の配置や指示だって行っていたわけだし。それにサスケを媒体として少なくなった糸魔法の罠も設置している。……まぁ、弱点も多い罠だけど無いよりはマシだ。
一先ず、三分程度でサスケの地点まで到着した。
既にサスケの指示で他のゴブリンアサシン達は所定の位置まで動いているようで、例えば俺が右手を振り下ろしただけで目の前の存在を殲滅してくれるだろう。でも、それはしない。やったとしても分が悪いのは目に見えているからな。
「く、殺してやるッッッ!」
「待ちなさい! 他の仲間が!」
そんな言葉と共に一人の男が切られた。
ただ傷としては深くは無さそうだ。いや、無理やり体を逸らして掠り傷で抑えたと言った方が正しいか。このまま生き残れば簡単に治せる程度の傷でしか無さそうだ。まぁ、見た感じ四名のうちの二名、魔法使いである男と盗賊の男が死んでいる時点で、二人が勝てる見込みなんて無さそうだが。
「ギィィィッ!」
「く、来る!」
敵対していた相手はオーガという存在。
簡単に言えばサスケとナオマサが共に戦ったとしても倒せはしない存在だ。それが二人に減らされた兵士と神官では相手になるわけも無い。まぁ、俺にとっては有難い話であるけどな。オーガは自然発生し難い魔物だから探すのは手間だった。
にしても……オーガにとっては不運だったな。
手を抜いていない今の俺なら容易くオーガを屠れるだけの力を持つ。だが、未だにどうするべきかは決まっていない。分かっている事があるとすればこのままでは、死という一時の苦しみを味わう事になるくらいだろう。……それはそれで対応するのも面倒臭い話か。
「ふぅ、間に合ったか」
「……え?」
「すまない、助けが遅れたようだ。後で多少は手助けしてやるから今だけは下がっていてくれ」
俺は使徒だ……そこに言い訳は必要無い。
別に俺は名誉も名声も欲しくは無いからな。そんなものを求めてしまえば自分の私腹を肥やしたいだけの奴等と何も変わらない。俺が求めていたのは最終的に世界を平穏へと導いてくれるような最高の存在だ。別に完璧を求めてはいない、完璧から逸れれば指導者より下の者が動くだけだからな。
「これ、は……!」
「軽い回復魔法をかけておいた。戦えるのなら援護を頼みたい。どうにも近場に他のオーガがいそうだからな」
「はは……任せてくれよ!」
性格としては良し……戦士寄りか。
腕も二人の見通しと違わず、才能に関しては人一倍はありそうだ。後衛にいた女の子は……まぁ、義体様がいるから気にするだけ無駄だろうな。あっちに向かった時点で何もせずに消し炭にされる。
「シッ……!」
「速い……いや! それが先の世界かッ!」
「着いていけている時点で誇っていいと思うぞ。俺は少しばかり見えている世界が違うからな。少なくとも追撃を行えている時点で誇っていい」
この世界の剣術のレベルを知りはしない。
それでも近くで振るう剣の中に技術が無いとは少しも思えはしないからな。俺の剣の三割は真似出来るだけの技術を叩き込まれていると言ってもいい。俺の師匠が師匠だ、他の弟子が陸上自衛隊で他隊員を叩きのめしている時点で察しがつく。
「助かるよ、君のおかげで早く事が済んだ」
「……その見た目で私よりも圧倒的に強く、剣を知る者に言われては皮肉しか聞こえないですけどね。それでも、貴方に助けられて私達、兄妹が助かったのは事実です。ただ感謝を」
「君達パーティ、の間違いじゃないかな」
確かに君の反応は間違いでは無いと思うよ。
仮に俺が同じ立場だったならば目の前で起きている光景を少しも理解は出来なかっただろう。俺の剣の腕に関してはどうとでも言い訳がたつ。それでも目の前で起きる光景に関してはただの奇跡でしかない。
「俺の仲間は全属性魔法の継承者だ。特に聖魔法に関しては誰よりも高い才能があると言っていい。対して俺は誰よりも、近接戦に関しては負ける事の無いほどの自信がある」
「あ、ああ……なるほど……貴方方は英雄となり得る存在だったのですね」
「違うな、俺達は一つの目的のために動く仲間でしかない。誰よりも世界平和を願うからこそ、他の手段を見捨てただけの臆病者だな」
そう、俺は確かにそうでしかなかったんだ。
剣を知れば全てが正しくなると思っていた。爺ちゃんが俺を初めて勇者と評した時には確かに嬉しかったというのに……今の俺は誰よりも汚れてしまっただろうな。だって、英雄と呼ばれたとしても俺は少しも嬉しくないんだ。
「さて、第二陣が出てきたようだが」
「オーガが六体……これは……!」
「安心してくれていい」
とっくの昔に糸魔法を仕掛けてある。
それも罠で使う数倍の粘性と切断力を持ち合わせた本物の糸だ。別にその先になにかあろうとも刀を振るえばどうとでもなると思っていたが……なるほど、これだけの力があればオーガ程度なら簡単に倒せるって事だな。
「どうせ、死ぬ」
「オーガの首が……飛んだ……?」
「物理攻撃に寄せた糸達だ。俺は魔法に関しては劣るだろうからな。それでも剣という一点に関しては今の世界にいる全てに負けないだけの自信がある」
俺の剣に勝てるとすれば爺ちゃんレベルだ。
あの人を超える剣があるとすれば、それは世界全てを叩き込ませるだけの力があると言っていい。少なくとも俺は孫としてでは無く、一人の武人として剣を振るおうと思えば勝てる訳のない化け物だと確かに思ったんだ。
「俺の師匠は剣聖だぞ、世界が認める存在だとかは無視して最愛の弟子が言う化け物だ。その全てを叩き込まれた存在が剣聖足り得ぬ存在な訳が無いだろう」
「剣、聖……それは……酷く高い世界の話をするのですね。剣などとは世界において……魔法に満たない存在でしか無いというのに……」
「それは剣を知らないからだろ。魔法を知る者が魔法の弱みを知るように、剣の弱みを知るからこそ、剣で負けない事実を作るんだよ」
というか、半端者が何を言うのだか。
剣というものを語るには剣の全てを理解しなければいけないだろう。だが、その全てを知る者なんて誰一人として存在しない。要は剣が魔法に劣るという理由を口に出来る存在なんているわけが無いんだよ。それに、な……。
「少なくとも俺は剣という一点においては誰が相手になろうと負ける気は無い。その自信の無さからしても君は勝てないと思い込んでいるんだな」
「それ、は……!」
「二度も言わせないでくれ。才能のある存在から口にされる言い訳は気分が悪い。……仮に君の言葉が真実ならば言える事は一つだけだ」
爺ちゃんの剣の腕は世界随一のものだ。
俺が剣を学んだのだって……物心がついた時に見た剣を振るう姿に感銘を受けたからだし。もっと言ってしまえば同じような剣を振るえるようになりたいと思っただけ……その剣ですらも全てを知ったとは言えない深さがあるんだ。だから、言える。
「剣は無限だ。剣以外に剣が満たさない利点があろうとも、剣という一点においては全てを満たせる何かを持ち合わせている。それ以上の何かは俺にだって分かりはしないが……ある事が分かっているから俺は剣を何よりも好む」
「なるほど……ご口授ありがとうございます」
「気にしなくていいさ。ご高説を撓まれる程の地位は俺には無い。教えたのは先の景色を見たいと思った時に糧となれば良いと思ったからに過ぎない。じゃあ、話は終わりだ」
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