4話
「これで……八十は殺したか」
俺が最初に目標としたのはレベル上げだ。
この世界にはステータスと呼ばれる存在があり、それらは某RPGゲームのようにレベルが上がる事で高まっていく。特に自身よりもレベルの高い敵を倒せばレベルが上がりやすく、逆にレベルの低い敵を倒しても上がりにくいという特徴がある。
ここでいうレベルというのは当たり前だけど個々人の持つレベルというものも含まれている。加えてアナザーヘルムにあるジョブシステムと呼ばれる存在があるから……まぁ、簡単に言えば演算的に面倒臭い結果になるという事だ。ランダムな数値分だけ上がるっていう要素もあるし……一概に上昇分を予測出来はしない。
だとしても、行動は変わらなかっただろう。
山を出てすぐあったのは奥すらも見えない程、広大な森だった。神域というのは魔物を誕生させない特徴がある。つまり、ミッチェルの傍にいれば楽しめはするが強くはなれないからな。
森の中には大量の魔素が立ち込めていた。その魔素を媒介にして魔物というのは誕生する。それがあるからこそ、俺は気兼ねなく最弱種であるゴブリンを狩っていた。逆に言えばゴブリンくらいしか囲まれたとしても倒せる相手がいないわけだが。
それにどのゴブリンも少なからず刃毀れしたナイフを持っているからな。仮に最弱種であったとしても油断すれば死ぬのは容易いだろう。それくらいアナザーヘイムという世界は生死が隣合わせの世界なんだ。でも……。
「もう少し気配は絶てよ」
「ギッ……!」
俺には糸魔法という固有スキルがある。
これは一言で言えば糸を創造して、自由に操作出来るだけの能力でしかない。それでも俺が想像しただけの強度を誇るような糸だ。例えば一箇所に設置でもしておけば誘導するだけで敵をサイコロステーキにだって出来てしまう。
まぁ、相手がゴブリンなのもあるけど。
これがゴブリンより一回り防御に硬いオークとかが相手にでもなれば簡単に殺せなくなる。サイコロステーキとは行かずに身体に縄目状の傷を付けるだけに終わってしまう。では、勝てないか、それも違う。
「ブルゥッ!」
「十二体目だ」
俺は武器創造という力を与えられた。
これは俺の知識の範囲、加えて俺の想像の範囲に収まってしまうが好みの武器を想像出来るという力だ。当たり前だけど適当に作った刀でさえも人並み程度の魔力、MPを使ってしまう。ただ、武器創造で作った刀ならば首を斬るくらいなら造作もない。それこそ、ギコギコなんてしなくてもいいくらいにすんなりと……。
「これで……六レベルか。ずーっと、ハヤトを敵にしているくらいには良い経験だったと思うのに、意外と上がりはしないんだな」
まぁ、強さで言えば短パン小僧なのかもな。
仮に鋼やゴーストタイプを初期に手にしているトレーナーが、ノーマルタイプに負けるかって話だよな。それだけの力を貰っているし、ミッチェルの説明を信じるのならば俺が与えられた力は人に負けない程のチートだという事だけ。
ってか、俺が雷タイプだっただけかもしれない。
世間じゃ飛行タイプのなんちゃらは電撃でイチコロとか言っていたしな。ゴブリンやオークのタイプとか毒以外の何ものでも無いだろうけど、簡単に殺せる相手な事には違いない。
「ギィィィッ!」
「悪い、知ってた」
飛びかかってきたゴブリンを縦に斬る。
さすがにチート能力として与えられた武器創造の力だな。雑に作った刀であっても俺の知っているものより圧倒的に高い火力を誇ってくれる。それこそ、こうして真っ二つにしてしまえるんだ。普通の刀では高度な技術が無ければ、ここまで綺麗に斬る事は不可能だと言っていい。
「はぁ……本当に爺ちゃんには感謝しないといけないな」
この感覚は爺ちゃんから学んだ経験だ。
どれだけの距離を詰められれば構えるべきか、相手の速度はどれ程のものか、他に見ておく要素は何も無いか……きっと、この世界を知っている爺ちゃんなら俺の考えはまだ甘いだろう。だから、俺は雑魚には負けられない。
「また何かかかったか」
俺は俺より下の存在を獲物にする。
仮に相手の経験値が千分の一程度になったとしても千人を殺せばレベルが上がるんだ。そう考えれば雑魚をどれだけ狩ろうとも何も苦にはならない。最初は自分と似た人型の何かに戸惑いは感じていたが、言っては悪いがゴブリンなんて見た目からして拒否感しか湧かないからな。
アレだ、例えるならイ〇ーク狩りだな。
ジム近くのトンネルの中で水タイプか草タイプで敵を倒し続けるのと同じだ。出現率は低いけれど序盤では破格の経験値を貰えるわけだし、その後の戦いが極端に楽になる。仮にイシ〇ブテが出てきても一撃で倒せるからな。
それに魔物は魔素さえあれば生殖行動を取らずとも勝手に増えてくれる。もっと言えばミッチェルの求める事を叶えるのならば同じ魔物を狩り続けるのは必要事項だ。人を殺すのならまだしも、別種で俺に殺意を持っている存在ならば殺す事を躊躇ってはいけない。
故にこうして多くの罠を張っておいた。
魔物によって魔力の形っていうのは大きく変わってくるからな。それを利用してゴブリンが持つ特有の魔力を持った存在だけに反応する糸の罠を三十箇所程度に張っておいた。森の中であれば勘の良い人間ですらかかってしまうような地面と同化させた罠だ。ゴブリンには躱せまい。
まぁ、弱点も多くありはするけどな。
それこそ、罠の対象以外は何も攻撃すらしないというのは明確な弱点だ。加えてゴブリン以外なら仮に踏んだところで殺し切る事は不可能だろう。対象者を増やせば消費する魔力も極端に高くなるという点もバットだ。
とはいえ、最低でも百体は倒しておきたい。
出来れば百体と言わずに千体は殺しておきたいけど時間的に無理だろう。ただ、そこら辺をどうにかする術はあるから……まぁ、目指すなら百体程度で十分だ。そこら辺は俺が走り回らずとも罠を設置しておけば勝手に達成出来る。
じゃあ、雑魚狩りに奔走した理由は何か。
最初にも言った通りレベル上げが一番の理由だ。だけど、同等クラスに求めていたのは俺の魔力操作の技術の向上だからな。それが上手くいってこそ、ようやく一歩目を踏み出したと言える。例えば糸魔法の操作、例えば武器創造による作成、例えば……未だに使用している魔力による網。
「本当にレベルアップによる補助効果が無ければ上手くはいかなかったな。そういうところを教えて貰えていなければ確実に時間がかかっていた」
レベルが上がれば体力と魔力が回復する。
当たり前だけど全回復とは言えない。量で言えばレベルが上がる事で手に入る増加幅分だけだ。それらを駆使して常時、魔力による簡易的なマップを常に作り出している。言っては悪いが初めてやるにしては難易度が高過ぎる、魔力の消費が酷いものでしかないからな。
でも、俺が求めている程度には整いはした。
俺が求めていたのは一時間にMPの消費を百程度に収め、半径三キロを正確に理解出来るマップを作り出したかっただけだ。ミッチェルの話では山、つまりはミッチェルの神域内での俺の魔力の回復量は一時間につき俺の魔力の半分程度……つまり、今の状態なら五百は回復出来る。
加えて、そこに与えられた力が活用出来る。
俺が与えられたジョブは使徒、そこに神域でありながらダンジョンとしての力を持つ山を与えられた事による力が乗る。その名は迷宮王、言ってしまえば倒した魔物を自由に制作、支配できるというイカれた能力だ。
そして今、罠で百体目のゴブリンが死んだ。
これで迷宮王の本当の力を扱える。人形創造と呼ばれる魔物を自由に作成出来る力の、一端の能力でしかないが……それが一際強過ぎるんだよ。同一の魔物を百体以上倒せば進化系統にある上位種を全て作り出せるという馬鹿げた能力だ。
とはいえ、進化系統と一言に表してもものによっては限定的な条件があったりする。そこら辺は千体は倒さないといけないから……今の状態では何も分かりはしない。ただ、少し面倒なだけで難しい話では無いだろうからな。ましてや、今は魔物の解放よりもダンジョンの作成の方を優先したいし。
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クロガネ炭鉱でイシツ〇テやイワー〇を倒していたのは自分だけでは無いはず……それくらいズガイ〇スが強いのが悪いんです……! まぁ、作者は猿を選んだせいで苦しんだだけなんですけどね!
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