2話

「洋平、改めて主に聞く。……妾の手を取ってはくれないじゃろうか。こんな力すらも……失ったような惨めな神のために……命を賭けると誓ってくれるかのぅ……」

「取らなかったら俺の妹が苦しむ事になるんだろ。そしてミッチェルも消滅してしまう。……分かっていて聞いているのなら死ぬ程、性格が悪いんじゃないか。俺は……神でも何でもない、ただのミッチェルが大好きなんだよ」

「性格が悪くなければ神になんてなれはしまいよ。それに主が……妾の手を取ってくれる事は分かっておったのじゃ。じゃって……妾は主を愛しておるし、主は妾を愛しておると知っておるからのぅ」


 その言葉を否定する事は出来ない。

 だって、この心臓が再度、鼓動を開始したのは間違いの無い事実なんだ。だからこそ、余計に性格が悪いように思えてしまう。いや、そういう風に動くよう俺が幼い時から策を弄していたんだ。もしかしたら俺の好意だって作られていた可能性だって無くはない。でも、俺はそれでもいいんだ。仮にそうだとしてもただ素直に褒めて認めよう。


「今日から俺は貴方の使徒となる。その代わりに貴方の神域である山を、いや、このダンジョンを俺の物にさせてもらおう。とはいえ、俺の意思によっては命令に従わない事もあるからな」

「構わぬよ、妾は主が欲しいのじゃ。それに主に与えるのは神域と妾の両者、じゃから、主はただ妾と共に道を歩んでくれればそれで良い。まぁ、すぐに行動出来るほど何もかもが整ってはおらぬがな」

「分かっているよ。初恋の人からの頼みだ。いや、初恋の神からの頼みか……まぁ、どっちでもいいけど、俺は俺のために貴方と同じ道を歩くと約束するよ」


 静かに膝を付いて手の甲へと唇を添えた。

 忠誠なんてものはありはしない。ただ一瞬であっても愛してしまった人へ向けた告白と少しも変わらないだろう。なのに……その瞳に映る少し頬を赤らめて喜ぶ姿は確かに……俺が愛した存在と同じだった。それを隠すかのようにミッチェルは一つ大きな咳払いをして口を開く。


「では、詳しい話をしようではないか」

「分かったよ。それで」

「ああ、主の理解に関しては妾も分からない事が多くあるからのぅ。一先ずは簡易的なチャットシステムとやらを脳内で作っておいたから念じてみるのじゃ」




 ……で、これがチャットシステムですか。

 最初の印象は純粋なMMORPGによくあるネットゲームのチャットをイメージしていたのに……いざ、姿を現したのはほぼほぼL〇NEだ。しかも、チャットの最上部に【使徒である洋平の最愛の最高神ミッチェル】とかいう、少しヤバめな名前を付けられているし。


 ……ってか、名前を変えようとしても拒否されるんだな。こういうところは本当に隙が無いというか何というか……大好きなミッチェルとかに変えようと思っていたのにさ……。




「って、俺の心を読んでいるだろ」

「な、何の事じゃろうなぁ……妾分かんなーい」


 ああ……うん、そうだろうな……。

 だって、いきなり名前が【大好きなミッチェル】に変わったんだ。心を読めでもしなければ時間すら空けずに変える事は出来ないだろ。まぁ、大層な名前よりは本心から来る名前の方が嬉しいから良いけど……いや、心を読まれるのは面倒だな。


「な、何を考えておるのじゃ!」

「え、普段、唯からされている事だけど」

「そんな事を兄妹でするものじゃない! せめて! 二人とも成人してからするものであって!」


 うん、それに関しては俺も同感だな。

 でもなぁ、両親のせいで人間を、詳しく言えば男を信用出来なくなった妹だ。幼い時から俺にベッタリだったし多少は許してやらないと……本当に何をされるか分かったものじゃない。特に夜の面で……うん。


「それともミッチェルに関して見た夢でも思い出してやろうか。幼い時は可愛い夢だったけど、中学生になった途端にピンク色のものに」

「分かったのじゃ! 勝手に見ないから許して欲しいのじゃ! いや! 妾とのピンク色の夢に関しては後々で見せて欲しいのじゃ!」


 ミッチェルって……色恋に弱いのか。

 え、いきなり、俺にキスをしてきた存在が色恋に弱いって……純粋にデートとかに誘ったら、どんな反応をしてくれるんだ。なんというか、それはそれで気になってきてしまうな。まぁ、そういう事は時間が空いたら聞いてみるか。


 まずは送る文章について纏めておこう。

 前提として俺が知っているのはミッチェルは力を失った神であるという事。そして、その力を失った原因は信仰心を失って数億年が経っているという事だろうか。その点から自身の信徒を増やすように動いてくれる使徒を探していた。


 他の部分であれば、金倉家というのは元来より家の裏にあった山の所有者であり、その山の神であったミッチェルを慕う守人であった事か。特に山を神域としている中で何もせずにミッチェルを見れる存在は稀有だという事だな。その点で言えば俺は使徒として才能があったと言えるだろう。


 それこそ、より治安の悪かった平安や室町時代にはミッチェルから力を借りて、戦火が広がらないようにしていたらしい。まぁ、そこら辺は本当であってもどうでもいい事なんだけど。


 そこら辺の話を箇条書きにして纏めてチャットに送っておいた。脳内だけ何だろうけど確かにピロンという音が聞こえた気がする。そこから即座にピロンという音がして文章が投稿された。えーと……。




「隙←これなんて読むのじゃ?、じゃねぇッ!」

「ふふん、それで何と読むのじゃ」

「スキだよ、スキスキ!」

「妾もじゃ!」


 何で惚気ようとするんだよ!

 しかも! 情報が二回りくらい古いんだよ! ブロック確認のために無料スタンプを送ろうとしてみるくらい古いって! アレか! 可愛い女の子から彼女いるのって聞かれたら脈アリだとでも思っているのか!?


「はぁ……はぁ……で、真面目な返答をして欲しいんだけど。まさか、両思いかどうかを探る一昔前の中高生の惚気話をしたくてチャットシステムを作った訳じゃないだろ」

「え、そのためじゃが。まぁ、言葉で説明しても忘れてしまいそうじゃから確認出来るようにって意味合いも数パーセントは含まれておるがの」

「普通は後者だな! ってか! 俺がミッチェルの事を好きなのはバレてんだろ! 唯と同じくらい好きなんだから! 真面目な話くらいは真面目に返してくれ!」

「そ、そこまで惚気けられてしまったら……妾も真面目に返すしか無いのぅ……」


 そうそう、惚気なら後で幾らでもするからさ。

 お、新しいライ……チャットが来たな。文章の前に見せたい映像があるから先に見て欲しいか。なるほど、金倉家の歴史とかを見せてくれるとかかな。さすがは神様、俺が惑わないように……。




「って! 勉強が嫌いだーじゃねェェェッ! おジャ〇女カーニバルに合わせたMADとか! 俺がスマホを持つ前のものじゃねぇかッ!」

「いーわけ」

「ねぇぇぇだろッ! って! 突っ込ませんじゃねぇよ! あの子に聞く前に俺がミッチェルからそっぽ向いちゃうじゃねぇかッ!」


 二つ目の動画ファイルが来たな。

 さすがにこれは意味のある……って!


「ヘルプミー」

「エーリィィィィィンッッッ! じゃねぇ! パッド長は出て来ねぇよ! しかも! 最新版だと消えているっての! どちらかというとてっててっててーれれってっての方が好きだわ!」


 三つ目……これならさすがに……!


「ウッディ」

「どっちだ! 俺の相棒だぜぇか! それともYouを歌うべきなのか! マジでどっちだよ! ってか! 後者かよ! 動画が始まる前にネタバレするんじゃねぇよ!」


 はぁはぁ……何だこの疲れは……!

 身体が疲れる前に精神的に疲れているのか。俺が精神的に疲れているだと……あのダジャレ魔人であった爺ちゃんに突っ込み続けた俺が……さすがは神というべきだな。でも……さすがに本気で疲れた。


「いい加減……本気で怒るぞ。ってか、俺が魔力の銃弾を撃ち込む前に本当の事を話せ」

「それはまるで将棋だな展開を望んでおるのか。それとも妾を新世界の神だと見立てての発言かの」

「後者だ、後者。ってか、前者は原作に無い分だけ触れたくねぇよ。小説版は結構、好きだったんだよ」


 ……って、何の話をさせるんだ。

 いや、勝手に話したのは俺の方か。少なくともネットミームになった時にそんな展開あったかと思った事は覚えているが……今はそんな事は本当にどうでもいい話でしかない。いや、楽しいとは思うけど今するべき話では無いよな。

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