12月21日 葉っぱ

 ここは雨の区域ですから、ずぶ濡れになる前にあそこの建物に入りましょうか。ええ、見たまんまです。遺跡周辺には店も宿もありません。この区域全体が完全な無人です。


 ああほら、向こうの大樹の枝に例の鳥の群れがとまっていますよ。枝の上で身を寄せ合っていて可愛らしいですね。観察するのに面がかなり邪魔ですが、決して布を捲らないように。あっという間に急降下してきて両目ともなくすはめになります。


 さて、黒い柱が並んでいるここは、太古の神殿と思われます。そこの亀裂から中に入れるので、下に降りてみましょうか。そう、ここは地下神殿なんです。


 階段は真っ暗ですが、断崖集落で作った首飾りをかけているおかげで、ぼんやりと足元が見えますね。ところどころ崩れている箇所もありますから、転げ落ちないように気をつけて。


 長い階段を降りると、向こうに青い光が見えてきます。どうやら大きな部屋があるようですが、天井に穴でも開いているのかと思いきや──ほら。


 黒い岩盤が剥き出しになった床から、土もないのに無数の樹木が生えています。ここは光脈〈こうみゃく〉の森。ほら、木立の奥に一際青く光っているところがあるでしょう。あれは光石の鉱脈です。光石のエネルギーで、栄養のない岩盤に森が育っているのです。


 ここの植物は光脈に根を張って育ちますから、木々の葉をよく見ると、葉脈が青く光っています。この光は葉が枯れても失われることがありませんから、いくつか摘んで押し花にしておきましょう。これが今日のお土産です。あとで本の栞にするといいですよ。


 枝をかき分けて森の真ん中に進むと、青く光る花がどっさり咲いた藤の巨木が生えています。枝ぶりが巨大な鳥籠のような不思議な形になっているので、もともとこの中には何か入っていたのかもしれませんね。


 滝のように乱れ咲く藤の花は、一房採ると大きすぎますから、花をいくつか摘んでいきましょうか。もう少し見て回ったら、門のところで調教師と合流しましょう。なにしろ宿も店も何もありませんから、そこそこの時間でここを出て、今日は隣の花園集落に宿泊です。美味しい魚を用意してもらっていますから、お楽しみに。



 

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