黒ノ遺跡

12月20日 変な鳥の彫られた石ころ

 そう、これが鹿ロク。舟を牽いていたのと同じ黒怪です。黒い胴体に黒い角、全身真っ黒ですが、角についている花の蕾は金色です。


 咲いたら綺麗だろうな、ですって? ええ、確かに美しいですよ。牡丹の花にも似た透けるように薄い花びらは、少しの木漏れ日でもキラキラと光を放つように輝きます。えもいわれぬ甘く芳しい香りがして、そしてその香りをかいだものは全員強い酩酊感で立っていることもできなくなるのです。


 鹿は気性の穏やかな草食の黒怪ですが、この能力のおかげで強力な肉食黒怪が跋扈する森で生き延びることができます。優しい性格に美しい角、群れになれば竜をも退けることがあるその特殊な能力を買われて、調教師には大変人気の黒怪です。森を走る舟をこの黒怪が牽いているのも、例えば狼の群れに囲まれたとき、鹿が一頭いれば危機を脱することが可能だと言われているからです。


 鹿花ロッカの香は鹿自身には効きませんから、野生だとだいたい咲きっぱなしです。ですがこうして調教によって自在に開いたり閉じたりできるようになりますからね。安心してください。


 さて、そんな鹿を七頭も連れているこの老調教師が、今回の案内人です。この方は、区域の端を覆う迷い霧の中を進むことのできる稀有な探索者で、我々を「失われた地」へ案内してくれます。


 しっ、口を慎みなさい。あなたが時折口にする〈NPC〉や〈プレイヤー〉、そして今の〈隠しエリア〉も、神の言語として使用が厳しく制限されているものです。みだりに口にしているところを聞かれれば、塔から目をつけられることになりますよ。


 ええ、しかしあなたの見解は部分的には正しいと思います。この霧の先にあるのは太古の時代、神がとある春の祝祭のためにお造りになった特殊な区域であると言われています。ですから祝祭が終わると共に区域への道は閉ざされ、神が世界から離れられた今は、こうして特殊な訓練を積んだ調教師に連れて行ってもらうしかないのです。


 さて、黒い石の門をくぐれば、封じられた地「黒ノ遺跡」に到着です。さあ、この無地の面でしっかり顔を隠してください。少々厄介な習性の黒怪がいますから──ああ、ちょうどそこにいいものが落ちていますね。拾っていきましょうか。目が三対、翼が三対ある可愛らしい小鳥の絵が彫り込まれているでしょう。この遺跡だけに住む黒怪ですが、そいつ、獲物の目玉を抉る修正がありまして。だからここでは決して顔を見せないように気をつけてくださいね。

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