12月12日 調教師の笛

 宿の夕食の時間までもう少しありますから、近所の店を見て回りましょうか。


 「最強の武器屋」の隣は楽器屋です。主に調教師向けの笛を扱っているので、ここもある意味武器屋と言ってもいいのかもしれません。


 店内の壁にはほとんど隙間がないくらいぎっしりと、大小様々な木彫りの笛が並べられています。とはいえ大きくても尺八サイズくらいなのは、やはり探索者として森の中を持ち歩く調教師のためでしょうね。


 笛は縦笛型と横笛型の両方があります。ガラス瓶に唇を当てて音を出せますか? もしできないなら、縦笛の、特にリコーダーのようにただ息を吹き込むだけで音が鳴る形のものがいいでしょう。瓶を吹くくらい余裕でしたら、このフルート型の横笛もなかなか素敵ですね。


 この店の笛はどれも、黒い塗装に金の装飾が施されています。漆黒の体のどこかに金の模様を持つ黒怪をモチーフにしているのでしょう。一般人にとっては恐ろしい獣ですが、調教師にとって黒怪は大切なパートナーです。笛の色だけでなく、例えば鹿ロクの角に巻いているのと同じリボンを髪に結んだりと、相棒とお揃いのファッションを楽しんでいる調教師も見かけます。


 店には楽器だけでなく、調教用の楽譜も豊富に取り揃えられています。初心者向けの基本の挨拶のメロディーから、上級者向けの細かい指示の出し方まで、馬術家が馬に脚で指示を出すように、調教師は音で全てを指示しています。


 ちなみに、ここ樹上集落の調教師達は笛ですが、銀花神殿の神官達は歌を使うようですね。地域性だけでなく、調教師個人によっても竪琴を使ったり舌打ちのリズムで指示したりといろんな方がいますから、本質的には拍子やメロディーがどうこうというより、相棒といかに心を通わせるかなのでしょう。


 その綺麗な箔押しの表紙がついた楽譜を買うのは結構ですが、あなたの知っている楽譜とは全く違うものかと思いますので、演奏するつもりなら読み方を教わった方がいいですよ。

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