12月2日 光石の首飾り

 次の店に入る前に、少し塔を見ていきましょうか。


 イレアという世界の中心に建っているこの塔には、「編者様」という方々が住んでいます。瞳面どうめんという一つ目模様の描かれた長い布の面で顔を隠した、神秘の存在です。世界中の情報を収集し、分析し体系立てて「何か」を編纂しています。百科事典とか風土記とかそういう系統のものだと思われますが、なにぶん規模が規模なので、正式な名前は別にあるかもしれませんね。


 彼らに会うことができるのはごく一部の限られた人間だけ。優秀な探索者であってもお目通りが叶うことはほとんどありません。探索者達は雇い主の顔も知らぬまま、塔の一階に張り出される調査依頼をこなして報酬をもらっています。黒怪〈こっかい〉を狩る戦闘力を持ちながら緻密なフィールドワークもこなす、文武両道でないと務まらない皆の憧れの華型職業なのですが、よく考えるとちょっと不気味でもありますね。


 不気味と言えば、この塔の外観もなかなか怪しげな雰囲気があるでしょう。冷たい灰色の石の塔にびっしりと刻まれた、青く光る何かの回路のようなもの。これが何の意味をもつのか、知っているのは編者様たちだけだと言われています。


 ただ、この青く光っている謎の素材に関しては、比較的簡単に手に入ります。光石こうせきと呼ばれるこれは、世界中のあちこちに点在する「光脈こうみゃく」から採れる鉱物です。色の割に人体には無害ですが、光毒こうどくといって探索者が黒怪を仕留める時に使う毒の原料になるので、まあ安価ではないですが普通に流通しています。


 さて、雑貨屋に入りましょうか。雑貨といってもサバイバルグッズばかりですが、見て回る分にはなかなか面白いですよ。


 お、さっそく見つけましたね。そうです、あそこにぶら下がっている首飾りが光石です。目玉模様が彫られているのは編者の瞳面がモチーフなんでしょうね。結構な光量があるのでファッションとしては微妙ですが、主に小さい子と男子にはかなりの人気らしいですよ。


 おや、買っていかれます? あっちに火打石もありますけど……あ、そっちもご購入されると。そうですか。石の方は角を出すために割りながら使うので原石そのままですが、打ち合わせる火打金の方はかなり凝ったデザインのものが色々ありますから、どうぞじっくりお選びください。片っ端から籠に入れない。重くなった荷物はあなたが全部背負うんですよ。

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