イレアの土産物カタログ(アドベントカレンダー2024)

綿野 明

12月1日 沼メノウのペン

 彼らはNPCなのかって? 何ですエヌピーシーって。はあ、そりゃまあ、彼らの人格を裏で操ってる人間なんていませんけど。彼らにも、私にも、あなたにもね。熱があるのならまた後日になさっては?


 ……まあ良いでしょう。本日ご紹介するのは、「塔」の周辺にある小さな街です。湿地の周辺の林に紛れるように存在していて、外観もかなり地味なので、街というよりは集落といった雰囲気なのですが、店ばかりで住居がないので便宜上、街と呼んでいます。


 武器や防具、サバイバル用品や、調査に役立つ資料を置いた書店兼文具店といった探索者向けの店ばかりですが、片隅にちょっとした民芸品なんかを並べているところもあります。探索者が家族へのお土産に買って帰ったり、探索者に憧れる若者達が塔を観にきた記念にしたり、そういうところで細々と需要があるそうです。


 とりあえず、そこの書店に入ってみましょうか。小物系の品揃えが一番いいんです。


 おや、さっそく気になるものがありましたか。それは沼メノウのペンですね。ガラスペンってあるでしょう、あれと同じようなのを、この湿地で採れる瑪瑙を削って作ったものです。


 沼メノウはご覧の通り、霧の向こうに見える苔みたいな地味でぼやっとした色をしています。装飾品にはそんなに向きませんが、使い方によってはこんな風にかなり上品な細工に仕上がるので、大きいのが採れた時には職人と探索者の間でよく取り合いになっています。


 なぜ探索者が宝石を欲しがるのかって? これ、とても良い火打石になるんですよ。火打石には石英系の岩石がよく使われますが、これはその中でも特別大きな火花が簡単に出ます。探索者達が湿地を歩いているところを観察すると、大抵下を向いて水の中の石を探しています。自分用にも欲しいですし、人気なのでいい小遣い稼ぎにもなるそうですよ。


そのペンも素敵ですが、あっちの店に行けば火打石用の原石も売ってます。火打金のデザインもなかなか素敵なのが多いですから、そちらも見てから購入をお決めになっては? いや、なくなる前に買っておく? それは結構ですが、また一文無しになっても私は知りませんよ。

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