第4話 得たもの・失ったもの


 いつの頃からか、こうした風習は途絶えた。都会へ出稼ぎに行く者が増えてきたのである。

 人口の減少と裏腹に、村は豊かになっていった。

 毎月、仕送りが届く。テレビが普及し、扇風機や冷蔵庫、洗濯機なども競って購入された。


 それまでの農耕牛に代わって、小型の耕運機が導入され、農作業は楽になった。農薬も強力なものが出回り、生産性は上がった。


 田畑から害虫は激減した。気が付くと、ヘビやカエル、ドジョウ、タニシ、トンボや蝶なども歩調を合わせて、視界から消えていた。


 ホタルも見かけなくなった。小学生の頃はいながらにして蛍狩りができた。田んぼや泉の上で浮遊する光。時には家の中まで迷い込んでいたものが、すっかり遠い存在になっていた。


             ◆

 家の奥の野山は、幼い隆にとってワンダーランドだった。

 隆が小学校低学年の夏休み。朝起きると、虫かごを手に近くの林へ行くのが日課だった。

 クヌギの幹を蹴ると、バサバサとクワガタやカブトムシが落ちてきた。その中で、形の良いものだけを虫かごに入れた。


 クヌギ林の奥にはいろいろな種類の木が生えていた。それらの木の実を求めて、ウサギやタヌキ、リス、きじ、山鳥などが集まる。隆は獣道にくくりワナを仕掛け、ウサギと山鳥を獲ったことがあった。

 また、幼い頃、草原くさはらで雉の巣を発見し、ひなを持ち帰った。雛たちは庭で放し飼いにされ、仲良くエサをついばんでいた。分身のように可愛がったが、生育したかどうかは不明である。


             ◆

 しかし、ここにも田畑同様、変化の波は押し寄せていた。

 クヌギに群らがる昆虫や蛾、蝶、蜂などが、目に見えて減ってきたのだ。ことさら寂しいとも思わなかった。子供は概して気まぐれだ。学年が進むにつれ、小動物に対する関心は薄れてきていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る