第43話 ざぁこざぁこ♡♡♡♡♡
「達にいー。経験値、ちょーだい! ……あんっ♡」
「お前なぁ……」
愛七に屈辱的敗北を喫して依頼、愛七は躊躇なく俺に触れてくるようになった。俺がVRゲームしている時はもちろんのこと、愛七がVRChatをしているときでさえ自分から俺に触れに来る。
最近ではメタフォーカスそっちのけで俺に絡んでくることも多くなった。
「ちょっとは遠慮とか無いのかよ」
「えー?♡ だって達にいの経験値量激ヤバなんでしょー?♡ んはぁ♡♡♡ ケチケチしなくて良いじゃんー♡」
俺の腕をギュッと抱いて、愛七はニヤニヤとした顔をこちらに向けてくる。悔しいけと可愛い。
「それにぃ♡ 例のギャルだって全然来ないしー♡ フラれちゃったんでしょー?♡ 達にいかわいそー♡♡♡ あいにゃんがなぐさめてあげるにゃん♡♡♡」
「……別にフラれた訳じゃないよ」
俺が答えると、愛七は動揺したような表情になり、手を離した。
「え、あ、えっと。もしかして、まだ付き合ってるの……?」
「ちげーよ。そもそも付き合って無いんだよ」
「……へ? あ、そ、そーだよねー! いくら経験値が多くても、達にいみたいなヘタレがあんなに可愛いギャルと付き合える訳ないよねー! かわいそー! あいにゃんが慰めてあげるー♡」
「なんでそんなに嬉しそうなんだよ……」
愛七は満面の笑みになるとガバっと抱き着いて来た。完全におもちゃにされている。
「あっ♡♡♡ ヤバっ♡♡♡ 達にいのくせにっ♡♡♡ 達にいのくせにぃっ♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡ んんんんんっ♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡」
ひとしきり経験値を吸って満足したのか、ようやく愛七が俺から離れた。
「はぁーっ♡ はぁーっ♡ 達にいの経験値まじヤバっ♡ レベルアップ完了なのにゃん♡ にひひひっ」
荒く息をしながらも、わざわざ最後にあざと可愛いポーズを決めて、愛七はベッドにボフリと横になった。
「なぁ愛七。なんでそんなにレベルアップしたいんだ?」
「んー? レベルアップしたいのはダンジョンダイバーなら当たり前だよ?」
「いやほら、何か前に『
「あれ、達にいにその話したっけ?」
「VRChatで話してたのが聞こえたんだよ」
「あー……あいにゃんがVRChatしてるときに達にいがお触り痴漢してきた時だっけ」
「お触り痴漢言うな」
確かに冷静に考えると、VRChat中の女の子の肌に触れるってかなりやばい気がする……。
「別に大した話じゃないよ。あいにゃんね、双子の妹の
「……」
突然の重たい話に何も言えずに黙ってしまった。
「ちっちゃい頃から、あいにゃんだけ見えて、さーにゃんは見えなくて。お父さんもお母さんも、さーにゃんも『愛七は何も悪くない』って言ってくれるんたけどね。だけどどうしてもそうは思えなくて。せめて片目だけでもさーにゃんにあげられたら良いのにってずーっと思ってたんだ。どうしてお母さんのおなかの中にいる時に、さーにゃんにお目目をあげなかったんだろうって。あいにゃんは悪い子なんだなって」
「そ、そんなことないだろ! そういうことを考えられるだけで、愛七は優しい良い子だよ!」
思わず声を大きくして叫んでしまった。愛七はそんな俺を驚いた様に見て、そして苦笑した。いつもの意地悪な笑い方じゃない、どこか淋しげで儚げな笑み。
「ふふふ、達にいはやさしいね。大丈夫だよ、分かってるから。あいにゃん、もう小さい子供じゃないんだし」
愛七はいつもつけてる猫耳カチューシャを外し、指で弄りながら続ける。
「中学一年生の時にね、ダンジョンで発見されるアーティファクトっていう物があることを知ったんだ。ちなみにこの猫耳もそこそこレアなアーティファクトなんだよ? 聴覚が補強されるの」
どうやらただの飾りでは無かったらしい。
「それで、『
「だから妹の為に、危険を冒してでもダンジョンに潜ってるってことか……」
「さーにゃんのためじゃないよ。あいにゃんの為。さーにゃんが喜ぶ顔が見たくて、さーにゃんの目を奪ってしまった贖罪がしたくて、やってるだけ。だってお父さんもお母さんもさーにゃんも、危険だからダンジョンダイバーにだけはならないでって懇願してきたもん。だから東京の高校に行きたいって嘘吐いて、お父さんとお母さんに負担をかけて、さーにゃんにさみしい思いをさせて一人暮らししながら、黙ってダンジョンダイバーやってるの。だから、あいにゃんはとーっても悪い子なんだにゃん♪」
猫耳カチューシャを装着し、いつもの笑顔を無理矢理貼り付けて、愛七はふざけて猫のポーズをする。
ただの生意気な少女だと思っていた愛七は、俺なんかよりずっと賢明で努力家な女の子だった。俺は真面目な顔で愛七を見て言う。
「協力するよ。俺の経験値なんかで良ければ、いつでも愛七にあげる。だから、絶対に『
俺がそう言うと、愛七は少しだけ泣きそうな顔になった。
「達にいって、ヘタレだけど、すっごく優しいよね……」
しばらく俯いた後、顔を上げた愛七はいつもの意地悪な笑顔だった。
「そんなこといってー、本当は可愛いあいにゃんにお触りしたいだけなんじゃにゃいのー?♡」
湿っぽい空気を終わらせようとする愛七。俺もそれに乗ることにした。愛七には儚げな笑みよりも意地悪な笑顔の方が似合う。
「……生意気な猫にはお仕置きが必要みたいだなぁ!?」
両手で愛七のほっぺたを摘む。柔らかなそれをムニムニ、ムニムニ。とても触り心地が良い。
「あぁんっ♡♡♡ ……にひひ♡♡♡ そこで変なところに触らないのがぁっ♡♡♡♡♡ 達にいのヘタレたる所以だよねー♡♡♡♡♡♡ ざぁこざぁこ♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡ んあぁぁぁっ♡♡♡♡♡♡♡ 達にいのヘタレざぁこぉ♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡」
「誰が雑魚だこらぁ!!」
「にひひひひっ♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡ ね、ねぇ♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡ 達にいー?♡♡♡♡♡♡♡♡」
「なんだよっ!!」
「うひひひっ♡♡♡♡♡♡ ぁ、ぁん♡♡♡♡♡♡♡♡ あ、ありがとねっ♡♡♡♡♡♡♡ たつにいっ♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡」
俺は愛七の感謝の言葉を、聞こえないふりをした。
だってこれは愛七のためじゃなくて、俺が愛七にお触りしたいからやっているだけだから。感謝される必要なんて、全くないのだから。
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