第41話 彼女いない歴イコール年齢の童貞拗らせたクソ陰キャ野郎

 愛七から挑発されてから十数日。俺は敢えて愛七との接触を避けた。愛七がVRChatをしている時はもちろんのこと、俺がにゃんパラをしている時もだ。スクリーン透過機能をONにして、愛七が近づいてきても絶対に触れない様に注意した。切なそうに見上げてくる愛七の表情を見た時は非常に心苦しいものを感じたが、挑発してきたのはあちらである。心を鬼にして避けた。

 そんな日々が続いたある日のことである。


「ふ、ふわぁ〜〜。何か今日はすっごくねむたーい。疲れちゃったかなー? ごめんね達にい、せっかく来てくれたばっかだけど、あいにゃんちょっと寝るー。あいにゃんね、すっごく眠り深いから、多分何されても起きないと思うけど、何もしないでね?」


 これでもかと言うほどの誘い言葉を放って、愛七がベッドに横になる。


「まーぁ? 達にいが女の子に手を出せるとは思えないけど? ヘタレだしー? あ、そうだ。エッチなVRゲームやってても良いよー? だけど、あいにゃんの部屋に変な匂いつけないでよねー? クスクス」


 露骨だ。露骨過ぎる。だがしかし、そんな挑発が俺に効くわけが無い。


「やんねーよ。てか疲れてんなら俺帰ろうか? ごめんな、気が付かなくて」


 引くのだ。愛七の誘いに押しで対抗すれば、相手の手のひらの上だ。だからとにかく引く。


「あ、や、別に遊んてで良いから。あ、あいにゃん眠りめーっちゃ深いから!」


「そっか。ありがとうな、気を使ってくれて。俺が帰るときも起きなかったら外から鍵かけて、郵便受けから部屋の中に入れとくな」


「え、う、うん。ありがと。ちょ、ちょっと寝苦しいから、服緩めとこーっと」


 愛七は大げさな動作でうーんと伸びをして、上着のボタンを三つほど明けた。俺はそちらに興味なさそうにスマートフォンを触る。周辺視野に全神経を集中させているが、目線は向けない。


「ふぁ〜〜。むにゃむにゃ。おやすみーぃ、達にいー♡」


 甘ったるい声をあげて、愛七は寝た。いや、おそらく寝たフリだろうが。

 数分待ってからベッドの上の愛七を見る。こちら側に顔を向けて横向きに寝ており、胸元は緩み、スカートから覗く白い足が艶めかしい。

 そして時々悩ましげな声で、


「………………ん♡………………んぅ♡」


 なんて寝言を言っている。

 あーあ、なんてあざといんでしょうか。なんてわざとらしいんでしょうか。

 馬鹿馬鹿しい。ほんっとに馬鹿馬鹿しい。こんなに露骨な誘惑でまどわされる奴なんて、彼女いない歴イコール年齢の童貞拗らせたクソ陰キャ野郎くらいなものじゃないですかねぇ。


(それってつまり俺のことおおおおおおぉぉぉぉぉ!! 無良達哉にクリティカルヒットおおおおぉぉぉぉぉ!!!!)


 ヤバい。ヤバい。破壊力がヤバい。もうムラムラしちゃう。


(え? 眠り深いから何されても起きないんだよね? ナニされても起きないんだよねえぇぇぇぇ!?!?!?)


 今にも『あーいなちゃーん!!』とルパンダイブを決めそうになる体を必死に抑え込み、冷静に思考を巡らせる。

 ここで手を出せば俺の負けだ。愛七はおそらく起きていて、俺が触った瞬間に目を開き、


『あれれー? 達にいってぇ、寝てる女の子に手を出すんだー? サイッテー。人間のくーず。どうせ今までも私が遊んでる時も、盗撮したりお触りしてたりするんでしょー? プークスクス、童貞こじらせた陰キャ男子キモーイ』


 などと煽ってくるに違いない。それは屈辱だ。耐え難い屈辱である。


(心頭滅却すれば、エロもまたエモし。そう、これはエロスではなく芸術なのだ。問題ない。鎮まれ、我がエクスカリバーよ)


 そんな俺の決意を嘲笑うように、愛七が寝返りを打った。


「んーーぅ♡」


(え、エローーーーい!!)


 開けた襟から見えるブラらしきレース! 膨らんだ胸! スッと通った鎖骨! スカートはギリギリまで捲れ上がり、惜しみなく白い太ももが露わになっております!!

 耐え難い衝動に襲われ、俺は愛七に向けて手を伸ばした。

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