第31話 ブライダルプランナーのお姉さん

「それじゃ、クリスマスビュッフェの成功を祝して、カンパーイ!」


「「「カンパーイ!」」」


 バイト先のアンジュールテラスに、職員たちの乾杯の声が高らかに響く。いろいろとトラブルはあったが、クリスマスビュッフェは無事に終わり、今から祝賀会である。

 無事に終わったと言っても、今回のクリスマスビュッフェはお店としては大赤字らしい。七面鳥こそ確保できたものの、千佳さんがダンジョンに潜れなかったため買い付けたダンジョン食材は多く、多額の出費となったらしい。それでもコース料金は据え置き。まともに利益を出そうとすれば、お客様一人当たり10万の請求は必要だろう。それを据え置きの3万円。赤字も出るというものだ。

 まぁ、そんなものをタダで食べられるのだから、俺が一番幸せなんだけれども。

 穂乃果さんが勘違いして取って来たガチョウの肝臓を使ったフォアグラのソテーをパクリ。信じられない程美味しい。ありがとう穂乃果さん。貴女が七面鳥とガチョウの違いの分からない女で良かった。


「……達哉君、なんか失礼なこと考えてない?」


「え? いえ、そんなことないですよ。フォアグラが美味しいなって思ってるだけです」


 妙に勘が鋭い。追及されても嫌なので話題を変えることにしよう。


「千佳さんのダイバーライセンスの停止も解除されて良かったですね。でも、誰がダンジョン管理局に嘘の報告をしたんでしょうね。ダンジョントラフグを無許可で捌いてるだなんて嘘を」


「それなんだけどね、前に達哉君が懸念していたことが当たってたみたい」


「俺が、ですか?」


「ほら、近くに大きな結婚式場が建ったって話をしたじゃない? どうもあそこの関係者が動いてたらしいよ。お母さんのパーティメンバーの引き抜きの誘いもあそこからだったらしいし」


 どうやら嫌がらせされていたらしい。


「でも、規模が違うから競合しないって言ってませんでした?」


「うん。それはそうなんだけどね。近くにあるってことで、どうしてもアンジュールテラスとあそこの式場が比較されてるみたいで。見学にきたお客さん達の多くが、『アンジュールテラスの料理は安くて美味しいのに、どうしてこっちはこんなに高いんだ』って言ってるらしくて……。それで潰しにかかって来たみたい」


 穂乃果さんが言いながら苦笑した。


「アンジュールテラスは小さくて建物も古くて、料理くらいしか取り柄が無いだけなんだけどね」


「まぁでも結婚式なんて、ゲストからすると料理がメインですからね。気持ちも分からなくは無いです」


「だめだよそんなこと言ったら。幸せな結婚式は女の子の夢なんだから」


 そこまで行って、穂乃果さんはため息を吐いた。


「あー、私ももう22歳かー。いつか結婚できるのかなぁ。ウチで式を挙げる人も、年下の人も結構いるし、なんか焦っちゃうな。どこかにいい人いないかなー」


「穂乃果さん美人だし、優しいし、彼氏さんなんてすぐ出来そうですけどね」


 ちょっとポンコツなところも可愛いし。おっぱい大きいし。


「ブライダルプランナーは出会いが無いんだって。あーあ、転職しようかなー」


「ダンジョンダイバーとかですか?」


「それもいいかも。って、ダンジョンダイバーだって女性だけだから結局出逢いないじゃん!」


「あはは、本当ですね」


「もう、ちゃんと考えてよー」


 ぷくーっと頬を膨らませて怒った後、穂乃果さんが身を乗り出して聞いて来た。


「ね、ソンさんって彼女いないの?」


「いないですよ。前にも言いませんでしたっけ?」


「え? 聞いてないよ? 達哉君が彼女いないって話は聞いたけど」


「ん? ……あ」


 間違えた。ソンさんは俺であって、俺じゃないのに。思わず普通に答えてしまった。


「ふーん。ソンさんって彼女いなんだー。優しそうな人だったし、丁寧だったし、普通におしゃべりしてみたいなー。達哉君からお願いできない?」


「……無理ですね。もう国に帰っちゃったので。穂乃果さんによろしくって言ってましたよ」


「クスクス。そっか、残念」


 残念と言いつつも、穂乃果さんはどこかおかしそうに笑っている。


「あ、そうそう! 話は変わるんだけどね、私が一人でダンジョンに行ったときに、生命樹の樹液があってね、珍しいものだから持って帰ったんだ。それをお父さんに飴にしてもらったんだけど」


 穂乃果さんがポケットから飴玉を取り出して、俺の方に差し出した。琥珀色で透き通っている綺麗な飴だ。


「生命力が上がる飴で、ダンジョンに潜る時に持っていくと助かるんだけど、そんなことよりめちゃくちゃ美味しいの! 達哉君にもいくつかあげるね!」


「ありがとうございます。食べるの楽しみです」


 受験勉強で死にそうになったら食べることにしよう。

 その後は他愛ない会話をしながら食事を楽しんだ。どれも最高の料理で美味しかったけど、どんどん自分の舌が肥えていくのが少し怖くなってきた。

 食べ終わり、片付けも終わって家に帰ろうかと言う時、穂乃果さんが話しかけて来た。


「達哉君。今回は本当にありがとう。達哉君がいなかったら、アンジュールテラスも終わりになってたかもしれない。お母さんが無茶して死んじゃってたかもしれない。達哉君のおかげで、本当に助かったよ」


「いえ、僕は何も。知り合いに経験値が多い人がいたってだけですから」


「ううん。それでもありがとう」


「そうですか。なら、どういたしまして。それじゃ、帰りますね」


 家に帰ろうとする俺に近づき、俺の耳元で穂乃果さんが妖艶な声でささやいた。熱っぽい吐息が耳にかかる。


「ねぇ、達哉君。懺悔室、使いたい時はいつでも言ってね。その時は、付き合ってあげるから。昼でも、、ね」


 そう言うと穂乃果さんはパッと離れて、明るい声で言う。


「じゃ、また次のバイトの日に! またね!」


 いい香りだけを残して穂乃果さんは去って行った。


「……俺がソンさんだって事、バレて、無いよね?」


 それは穂乃果さんに聞かないと分からない。だけど、そんなこと聞けるわけもない。 

 俺の心にモヤモヤとムラムラを残して、クリスマスビュッフェは終わった。



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