第26話 何でもしてあげる
「達哉君おはよう! 今日はちょっと人数の多い結婚式だから、お仕事気合入れてやろうね!」
「……はい、がんばりましょう」
土曜日にバイト先のアンジュールテラスに行くと、穂乃果さんが輝かんばかりの笑顔で挨拶してきた。
「あれ? 達哉君、元気ない?」
「あ、いえ、そんなことないです。がんばりましょう!」
小首を傾げる穂乃果さんにハリボテの笑顔で返事をする。先日聞いた穂乃果さんのエロい声が頭に響いてしまって、まともに穂乃果さんの顔が見れなくなってしまった。この元気で明るい笑顔の人が、あんな声を出すなんて……。さらに最近散々穂乃果さんのエロい夢を見てしまっているのだ。思い出すだけで俺の怒りん棒が戦闘態勢になってしまう。流石にそんな状態でホールスタッフの仕事なんて出来っこない。
穂乃果さんは再び笑顔になると、俺の耳元に口を近づけて言う。
「ソンさんの件も、本当にありがとう。私は毎日でも大丈夫だから、都合の良い日にお願いしますって伝えておいて」
「……オーウ、コッチノ身ガ持チマセーン」
「え?」
「あ、いえ、何でもないです。ソンさんに伝えておきますね」
俺がそう答えると、穂乃果さんは綺麗なウインクを残して笑顔で去って行った。貴女は良いですね、つやつやしてて。こっちはげっそりですよ。
◇
「……………………………………………………ん♡……………………………………………………………………………………………………ぁ、はぁ♡……………………………………………………………………………………………………もっと♡」
「天ニ、マシマス、我ラノ、乳ヨ。願ワクバ、オパーイヲ、アガメサセタマヘ」
薄暗い教会の懺悔室に、穂乃果さんの嬌声と俺の祈りの声が響く。無心で祈りをささげることで穂乃果さんのエロい姿を想像しないようにしているのだが、あまり効果は無い。
あれから数回ほど穂乃果さんのレベルアップのためにこうやって懺悔室で密会しているのだが、回数を重ねるほどに穂乃果さんはヒートアップしていく。
まるで俺の手が愛おしい何かの様に、さわさわなでなでとしてくるのだ。当然触る表面性が増えれば移行する経験値も増え、つまり穂乃果さんの快楽度も上がっていくわけだが、さすがはむっつり穂乃果さん、そのすべてを受け止めているように見える。
「……………………………………………………ぁ♡…………………………………………………………………………………ん♡………………………………………………………………………………」
「穂乃果サーン、レベル、ドーデスカー?」
「……………………………………………んぅ♡…………………………………………………………………………………はぁ♡はぁ♡………………………………………………………………………………ぁ、ぁ、ぁ♡」
「ホノーカサーン?」
「…………ッッッ♡ あ、はい! 25になりました!」
何度も何度も俺の右手を摩り、最後に強く恋人つなぎをした後に、穂乃果さんが正気に戻った。この手は洗わずに帰ろう。別に何をするわけでもないけど。ナニを。
「順調デースネー」
「はい! ありがとうございます! あの、ソンさん。明日も大丈夫ですか?」
「……乳トコノ金玉ノ御名ニオイテイ、ザーメン」
「え?」
「ァ、イエ。大丈夫デース」
「よろしくお願いします!」
しばらく、そんな天国で地獄な日々が続くことになった。
◇
「達哉君、大丈夫?」
「……あ、はい」
性欲で悶々としすぎて寝不足が続き、バイト中にバックヤードでボーっとしてしまっていた。そんな俺を心配して穂乃果さんが顔を覗き込んでくる。
「私で良ければ相談に乗るから、悩んでることがあったら何でも言ってね」
「……はい、ありがとうございます」
悩みの現況は貴女なんですけどね。むっつり巨乳お姉さん。
穂乃果さんが心配そうに俺の顔を覗き込んで、顔を近づけてくるものだから、穂乃果さんの良い香りがふわっと広がる。これは股間に効く。良くない。歩くバイアグラかお前は。
「お、おれ、グラス片しときますね!」
穂乃果さんから離れようと、急いでグラスに手を伸ばし、その指先がグラスに当たって床に落ちた。
「大丈夫!?」
「あ、す、すみません! いま片づけます!」
「達哉君だめっ!」
慌てて割れたグラスを拾おうと、しゃがみ込んで右手で破片を掴む。
「つっ!!」
見事に指先が切れた。ツゥと流れる赤い液体。ポタリと床に落ちた。
「達哉君!? 立って! 応急処置しに行くよ!」
「あ、あの、ごめんなさい、大丈夫です。あ、自分で行けますから!」
「ちょっと、達哉君!」
引き留める穂乃果さんを無視し、裏に下がる。申し訳ないが割れたグラスの片づけは穂乃果さんにやってもらおう。
出血こそあったものの、怪我はそこまで大きくないようで、綺麗に洗って強く握っていたらすぐに傷口が塞がって来た。後は開かないように絆創膏で留めておけば問題ないだろう。
「えーっと、救急箱はどっかあったかなー?」
「はい、達哉君。これ」
事務室をうろうろしていると、穂乃果さんが絆創膏を差し出してきた。グラスを片づけた後に心配してきてくれたのだろう。
指を丸ごと覆えそうなほど大きな絆創膏を、苦笑しながら受け取る。
「穂乃果さん、大げさすぎますよ」
「大きいに越したことは無いでしょ? 達哉君らしくないね。割れたグラスに素手で触るなんて」
「あはは、ちょっと寝不足で……」
「あんまり夜更かししたらだめだよ?」
だからあんたのせいなんですって。
ていうか穂乃果さんは毎日仕事して夜は
そんなことを考えていると、穂乃果さんの顔が悲し気に伏せられた。
「達哉君。私、頼りないかもしれないけど、何かあったら何でも相談してね。私は達哉君に助けられたんだから、私だって達哉君を助けてあげたいの」
「穂乃果さん……」
「達哉君の頼みなら、何でもしてあげるからね!」
そう言って、穂乃果さんは胸元で腕をキュっとした。おっぱいがむにゅってなった。
「……な、何でも?」
「うん、何でも! だからいつでも相談してね! あ、私、次司会に行かないと! じゃあね達哉君、もうホールは落ち着いてるから、今日はゆっくり休憩してていいよ!」
穂乃果さんはそう言うと走ってホールに向かった。
「何でも……」
決してそういう意味ではないと分かって居つつも、どうしてもその単語が頭から離れなかった。
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