ブライダルプランナーのお姉さん
第20話 万乳引力
「達哉君おつかれさま。今日は賄い食べてく?」
「頂きます!」
バイト終わりに穂乃果さんが声をかけてきた。今日は結婚式ではなく完全予約制のフレンチビュッフェだったため、終了後に余り物にありつくことが出来るのだ。決して品切れを起こさない様にシェフが多めに作っているため残り物も多く、満足に食べる事が出来る。食べ盛りの高校生男子にとってありがたいことこの上ない。
「せっかくだから一緒の席で食べない?」
穂乃果さんがポニーテールにしていたゴムを解き、首を振って髪を整えながら言う。少しおっぱいが揺れた。吸い寄せられる視線を無理矢理引っ剥がし、ニコニコと笑顔の綺麗で可愛い顔に目を向ける。
「もちろんです!」
真っ白なビュッフェプレートに料理を盛り付けてテーブルに座る。白身魚のフリット、オマール海老のグリル、アスパラとベーコンのパスタ、チキンマカロニグラタン、ローストビーフは多目に。
食べたいものを食べたいだけ乗せたビュッフェプレートは、ごちゃごちゃしていてあまり美味しそうに見えない。対して穂乃果さんのお皿は控えめで野菜が多く、それでいてとても美味しそうだ。
「……なんか穂乃果さんの方が美味しそうですね」
「ふふ。堅苦しい高級フレンチでもあるまいし、好きに好きなだけ食べたら良いよ」
穂乃果さんが俺の盛り付けた皿を見てクスクスと笑う。大人の女性と無知な男子の対比構図になおさら恥ずかしくなった。何となく穂乃果さんの顔を見られずに視線を下げ、大きな膨らみが視界に入ってきてしまい、慌てて横に逸らした。
「それじゃ、特別じゃないけど唯一の今日という日に、乾杯」
穂乃果さんがグラスを掲げて言う。
「なんすかそれ。めっちゃ格好いいですね。乾杯」
俺もグラスを掲げ、リンゴジュースに口をつける。そんじょそこらのジュースとはひと味もふた味も異なる味を堪能しながら、料理に口をつける。
「んっまー。はぁー、マジでバイト先にここを選んで良かったー」
「ふふふ、達哉君おおげさー」
食べながらも上品に笑う。ブライダルプランナーという職業上品、テーブルマナーも完璧にしているのだろう。
「達哉君、なんだか最近元気が無いように見えたけど、美味しくご飯を食べられるなら大丈夫かな?」
「え、そんな風に見えてました?」
「うん。なんだか大事なものを無くしたような、そんな雰囲気だったから」
確かに、凉夏さんが部屋からいなくなってから少し寂しい日々を過ごしていた。凉夏さんのお母さんが退院したから凉夏さんもバイトする必要が無くなって、コンビニに行っても会えなくなったし。
「もし何かやらかしちゃって悩んでる時は、あそこの懺悔室で話を聞いてあげるよ?」
穂乃果さんが部屋の隅にある木製のクローゼットのような一角を指差す。あれが懺悔室らしい。
「懺悔室なんてあるんですか。結婚式場としてはふさわしく無いんじゃないですか?」
「ここはもともと本当の教会だったんだ。わざわざ撤去するのも違うかなって思って残してるんだって。今じゃ使う人なんていないけど」
「そうなんですか。確かに、結構古……趣があるなーって思ってました」
「ふふふ、古いよね、この建物」
気を悪くした様子もなく穂乃果さんは笑う。
「まぁ、私で良ければ何時でも話を聞くから、何かあったら言ってね?」
どうやら俺のことを心配してくれていたようだ。
「ありがとうございます、穂乃果さん。でも、俺の方はもう解決したというか、どうしようもないというか。そのうち時間が解決してくれるので」
「そう? ならいいんだけど。ホールスタッフの主戦力が使い物にならなくなったら困っちゃうから、早く元気になってね」
俺を元気付けるためだろう。穂乃果さんが茶化すように小首を傾げて言う。
なんだかくすぐったくて、俺は話題を変えることにした。
「そういえば、近くに大きな結婚式場が建ちましたよね。営業に支障とか無いんですか?」
「多分大丈夫だと思うよ。私達のところは多くても三十人くらいの家族婚が主だから。あっちは百人を超える大人数の結婚式がメインだしね」
「なるほど、競合しないんですね」
「ふふふ。達哉君、心配してくれてたんだ。ありがとね」
「いえ、何となく気になっただけっす。……うわ、このローストビーフうま! おかわりしてきます!」
「たくさんあるから、ゆっくりいっておいで〜」
その日は美味しいフレンチビュッフェに大満足だった。俺ももし将来結婚式をするのなら、少人数でいいから美味しい料理を出してくれるところがいいなと思った。
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