第16話 カーテンの付いている個室はOK
「……クス」
「由良ちゃん?」
しばらく頭を下げたままでいると、頭上から笑い声が聞こえてきたので顔を上げる。想像に反して、由良ちゃんは笑顔だった。何が可笑しいのか、クスクスとくすぐったそうに笑っている。
「えっと……怒ってないの?」
「うん、怒ってないよ。達哉くんだって、別に酷いことしようと思ってた訳じゃないんでしょ?」
「それはそうだけど……。えっと、じゃあなんで俺のこと探してたの?」
「それは……」
由良ちゃんは言葉を探すように一度言葉を切って、再び口を開く。
「一応伝えたからったから、かな? 私は大丈夫だよって。もしかしたら気に病んでるんじゃないかなーって思って。その通りだったみたいだね」
「うん。ずっと、気にしてた。俺が、その、殺してしまったんじゃないかと思ってたから」
「そうだね。あのときの衝撃は、本当に死にそうなくらいだったよ。今でも、まだ思い出しちゃう……」
由良ちゃんは四年前のことを思い出したのか、その身をキツく抱いて、ブルリと身震いした。思い出すだけで怖いのだろう。
「ご、ごめん! 嫌なこと思い出させて!」
「嫌なこと……? あ、ううん、大丈夫大丈夫! せっかくだから、一応あの時からのことを伝えておくね。私がアイドルになった理由でもあるし」
由良ちゃんは麦茶をストローで飲んでから続ける。
「あの日、図書館で達哉くんと話をしているときに意識を失って、目が覚めた時にはもうベッドの上だった。何があったのかは分からなかったけど、レベルがすごく上がってることに気がついて、それを両親に話したらものすごく怒ってて。私が無理矢理誰かに犯されたんだって勘違いしたみたい。そのままこんな町にいられるかって、転校することになったんだ」
「だから次の日から学校に来なかったんだね」
「うん。それから数日してから気がついたの。生えてきた髪の毛が真っ白になってることに。達哉くんに触れたときのショックで、多分白くなっちゃったんだね」
何でもないことかのように、自らの髪の毛をいじりながら言う。
「ごめん、俺のせいで……」
「え? ううん、気にしなくていいよ! 似合ってるでしょ? 白い髪の毛」
「うん、凄く似合ってる」
素直に感想を言うと、由良ちゃんはくすぐったそうに微笑んだ。
「それからしばらくは親が過保護でね、なかなか一人で外出も出来なくて。高校生一年生になったときにようやく少し自由にさせてもらえるようになってね。それなら達哉くんに会いに行こうって思って地元に行ってみたんだけど、当時の友達に聞いてもみんな達哉くんがどこに行ったか知らないって言うし。わざわざ達哉くんの家にも行ったんだよ? だけどご両親も答えてくれなくて。もう会えないのかなって思ってた時にアイドルにスカウトされたんだ。その時思ったの。アイドルになって活躍していれば、達哉くんも見てくれるかなって。もしかしたらファンレターとかで連絡くれるかなって」
結局、私が先に見つけちゃったんだけどね、と由良ちゃんは苦笑いをする。
「そう、なんだ……。俺のために、ありがとう。由良ちゃんが生きてるって知れて、本当に良かったよ」
今までずっと、由良ちゃんを殺してしまったんじゃないかという不安が消えなかったけれど、今日になってようやく気がかりは無くなった。
「あー、本当に良かったーー。ほっとして何だかお腹空いちゃったや」
時計を見ると午前六時。結局徹夜で朝を迎えてしまった。
「朝ごはん代わりになにか食べようと思うんだけど、由良ちゃんも何か食べる? アイドルだからこういうのって食べちゃだめなのかな?」
カラオケ屋のご飯メニューを眺めながら問う。カレーや唐揚げなどのガッツリ系が多いが、おにぎりなどの軽食もあるようだ。
「うん、私も食べようかな」
「何にする?」
顔を上げて問うと、至近距離に由良ちゃんがいた。
「もちろん、達哉くんにする」
「えっ……と……」
いつの間にか隣に座っていた由良ちゃん。その白い手は俺の太ももの上に置かれている。視界いっぱいに由良ちゃんの綺麗な顔が映り、いい香りがして思考がショートする。
「ずっと、ずっと探してたんだよ? 達哉くんのこと」
「そ、それは、俺に大丈夫だよって教えてくれるためだよね……?」
「うん。だけど、それだけじゃないんだ」
由良ちゃんは妖艶に微笑みながら、左手の甲をさする。まるでそこが性感帯かのように。
「あの日のこと、一日だって忘れてないんだよ? そういうことを全然知らない私に、暴力的な快楽を教えてくれたあの日のこと。あんなこと教えられたら、忘れられる訳ないよね」
熱に浮かされたように、その白い頬が赤く染まる。
「ねぇ、知ってる? 扉にカーテンの付いてるカラオケの個室ってさ、暗黙の了解でオッケーなんだって」
「オッケーって、何が……?」
由良ちゃんはクスリと笑い、俺の耳に口を近づける。
「エッチなこと、しても良いんだって。達哉くん、駄目だよ? 簡単に女の子と二人でカラオケに来たら。襲われちゃうよ? こんな風に」
由良ちゃんから離れようとするも、強い力で肩を掴まれて動けない。そのまま俺の膝の上に座ってきた。至近距離で見つめられる。蛇に睨まれた蛙の気持ちがよく分かった。
こんなに美しい白蛇にならば、飲み込まれても本望かもしれないが。
「クスクス。私、ダンジョンダイバーだよ? 男の人が逃げられるわけないよね」
「……駄目だよ由良ちゃん。また気絶しちゃうよ?」
「それならそれで、構わないよ。はぁ……はぁ……達哉くん、ごめん、もう、我慢できないかも……ねぇ、だって四年も待ったんだよ? ずっと探してたんだよ?」
熱に浮かされた様な瞳で由良ちゃんが見つめてくる。四年前の強烈な快楽体験から今までずっとお預けされていたようなものだ。こうなってしまうのも仕方がないのかも知れない。
「達哉くん……いただきます……」
由良ちゃんがその白い両手で、俺の頬を包み込むように触れた。
ビクンと華奢な身体が跳ねる。
「んあっ!!」
「由良ちゃん、大丈夫!?」
「ら、らいじょー……ぶっ♡」
いきなり両手で俺に触れたにも関わらず、由良ちゃんは意識を失わなかった。そのままゆっくりと顔を近づけて来る。
「き、キス……するんだもん……っ♡♡」
「由良ちゃん……」
「あ、あ、あ……ま、負けないん、だからああぁぁぁぁっ♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡」
由良ちゃんはアイドルダイバーだ。ダンジョンダイバーとしてのレベルも高いのだろう。快楽に耐えている。
ゆっくりと顔を近づけてきて、唇が触れるする寸前……
「あああああああっ♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡もっ……♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡むりぃっ!! ♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡」
※両手で頬に触れているだけです。
身体をブルブルと震わせ、一度大きく仰け反った。そしてフッとその身体から力が抜けて倒れ込んで来る。
「……あ」
由良ちゃんは俺の膝の上に座っている訳で。倒れ込んで来るということは俺の上に覆いかぶさると言うことな訳で。
意識を失った由良ちゃんの唇が、ブチュリと俺の唇と重なった。
「ッッッ♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡オオォォッ♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡ドォッ♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡リヒィ♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡ヘ♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡プフゥ♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡バ……ハァァァァァン!! ♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡」
「ゆ、由良ちゃああああああぁぁぁん!!」
気を失ったままビクンビクンと跳ねた後、由良ちゃんはソファに倒れ込んだ。
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