第15話 浜野由良
「どうしてゆらりんがこんなところに? え、本物? どうしよう……あ、サイン貰わなきゃ!」
大人気アイドルが突然目の前に現れたことに慌てふためいてしまう。サインを貰おうにも紙とペンなんて気の利いたものを持っている訳もない。ワタワタしていると、ゆらりんが困った様な笑顔で小首を傾げた。
「えっと、私のこと、覚えてないかな?」
「え? いや、だって初対面ですし……」
言いながらゆらりんの顔を見る。細く白い髪に、綺麗な肌。アイドルというには少しおとなしそうな顔。だけどすごく整っていて、俺の好きなタイプの顔。どこか、初恋の人に似ていて……
「あ」
そこでようやく気がついた。似ている。そっくりだ。髪の色こそ違うけれど、俺の初恋の人。殺してしまったんじゃないかと、ずっと不安に思っていた人。
「もしかして……由良ちゃん……?」
俺が名前を呼ぶと、彼女がパァッと笑顔を咲かせた。
「うん! 久しぶりだね、達哉くん! ねぇ、少しお話できない?」
人気大爆発中のアイドルのゆらりんは、どうやら俺の幼馴染だったようです。
◇
初恋の人と衝撃的な再開を果たしたあと、そのまま近くのカラオケへと連れられて来た。
「えっと、なんでカラオケなんですか?」
「ごめんね。喫茶店とかの方が良かったよね。だけど今は人目を気にしなくちゃいけなくて……」
「あ、そうですよね。人気沸騰中のアイドルが同い年くらいの男子といるところなんて、見られたらまずいですもんね」
「うん。カラオケは個室だし、防音も効いてるから。というか、なんで敬語なの?」
「なんでって言われましても……」
確かに目の前にいるのは、浜野由良ちゃん、俺の初恋の人で、まぁ幼馴染と言っても差し支えない女の子だ。でもそれは四年前までの話。いまや遠い世界の人である。そしてそんな子とカラオケという密室で二人きり。緊張して敬語にもなるというものだ。
「もう。前みたいに普通に喋ってよ。さっきも私に気がついてくれなかったしさ」
「だって、由良ちゃん変わりすぎだもん。昔は髪が黒くて長かったのに。雰囲気もすごく明るくなってて……なんというか……」
「可愛い?」
「え、あ、うん。すごく可愛い」
「えへへ、ありがと」
可愛いなんて言われ慣れてるのか、由良ちゃんは照れることなく笑顔で礼を言う。
「実はね、ずっと達哉くんのこと探してたんだ。四年前にいきなり別れたっきりだったから」
由良ちゃんのそのセリフに、心臓がキュっと締め付けられた。俺はどうして楽しくお喋りをしているんだろうか。
四年前、俺は由良ちゃんの手に触れた。そして経験値移行による快楽によって、由良ちゃんは卒倒してしまったのだ。そしてそのまま転校。恨まれていないはずがない。
「中学一年生のときに、図書館で……」
「ごめんなさい!!」
俺は由良ちゃんの言葉を遮って、大声で謝罪して頭を下げた。机におでこをゴンとぶつける。
「え? た、達哉くん?」
「本当にごめんなさい! 悪気があったわけじゃないんだ! 酷いことしようと思ったわけでもなくて! 本当に! 信じて!」
「達哉くん、何を言って……」
「中学一年の時、由良ちゃんのことが大好きで! 付き合いたくて! 馬鹿なことをしてしまって!」
「え、あ、好きって……突然何を……」
「そしたら由良ちゃんが倒れて! どうしたらいいか分からなくて! だから本棚の影に隠れて、先生が来て、救急車の音が聞こえて……」
そこまで言って、急に涙が出てきた。加害者のくせに涙を流すなんて、烏滸がましいにも程がある。けれど、当時のことを思い出すと、すごく情けなくて、怖くて、だけど由良ちゃんが生きてたことにホッとして、涙が溢れてきた。
「ぐすッ……由良ちゃん……生きててくれて本当に良かった……四年前は、本当にごめんなさい……」
「達哉くん……」
何故、由良ちゃんは俺のことを探していたのか。俺を断罪するために決まっている。
今、由良ちゃんはどんな顔をしているだろう。怖くて顔が上げられなかった。
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