第14話 渋谷ダンジョン
まだ朝日も登っていない渋谷の街。そのど真ん中にポッカリと空いた直径百メートルほどの大穴。それが渋谷ダンジョンの入口だ。昔は人が頻繁に行き交うスクランブル交差点だったらしい。
世界各地にあるダンジョンの中でも、かなり攻略が進んでいる方らしく、現在の最高到達点階層は312。
30階層くらいまでの中継ポイントが、近くにのビルの壁面に設置された大型ディスプレイで見ることもできる。
装備や荷物を大量に持った人達が頻繁に行き交う中で、明らかに浮いている凉夏さんの姿。青いセーラー服に、茶色い革のリセサック。
どう見ても場違いなのに、多分、この場にいるほとんどの人よりは強いだろう。
昨日凉夏さんが達したレベルは210。軟金桃のある階層まで行っても、問題はない。多分。
凉夏さんは入り口のダンジョン管理局の職員にダイバーカードを見せ、一歩足を踏み入れて、振り向いた。
「達哉。アタシ、行ってくる」
「うん。無茶しないでって言っても無駄だよね。だからさ」
一度言葉を切って、拳を前に付き出す。
「お母さんのために、絶対見つけてこいよ!」
涼夏さんが一度目を丸くして、ニィと笑い、コツンと拳をぶつけてきた。
「ったりめーだよ! んぁっ♡ ニシシ、211! 行ってきます!」
第一回層に降りる階段を、凉夏さんはひとっ飛びで降りて行った。
しばらくダンジョンの入り口で、ビルの壁面に映し出される大型ディスプレイを眺める。まだ日は登っていないというのに、そこかしこのビルとディスプレイの灯りおかげでこの街に夜は来ない。
凉夏さんは一度も立ち止まることなく、中継ポイントをどんどん駆け抜けていく。そして30階層を駆け抜けたところでどのディスプレイにも映らなくなった。ここから先はもう見ることは出来ない。凉夏さんは最低でも一週間ほどはダンジョンを駆け回ることになるだろう。
一部のダンジョン配信をしている人達のDTUBEにはもしかしたら映るかもしれないけれど。わざわざ探して見る必要も無い。
俺に出来るのはここまで。あとは運良くすぐに目的を達成できるように祈るだけだ。
しばらく煌々と光るディスプレイを見るともなしに見ていると、アイドルダイバーの映像が流れていることに気が付いた。
「そりゃ流すか。今人気大爆発してるらしいし」
前に凉夏さんと一緒に見たアイドルダイバーのトリニティスパークという三人組の女性アイドル。中でも目を引くのがセンターのゆらりんだ。イメージカラーは自身の白髪と同じ白色。少しだけ青みがかかった白いオーラを纏わせて踊る姿は、まるで妖精の様に美しい。トリニティスパークのダンスが終わり、フリートークへ。
『私、探している人がいるんです。アイドルになって目立っていれば、いつか私に気がついて連絡くれるんじゃないかなって』
『へーー! もしかして、初恋の人!?』
『いえ、そういうのではないですけど……』
やいのやいのと会話している美少女と司会者。
「なんか、遠い世界の話だなぁ」
片やアイドルでダイバーな美少女で、片や経験値移行もまともに出来ない冴えない男子。住む世界が違う。
なんとなく感慨に耽っていたら、背中から声をかけられた。
「達哉くん……?」
「ん?」
振り返ると、フードを深くかぶり、サングラスをかけた女の子が。お忍びの芸能人といった雰囲気だが、身に着けているものはローブであったり篭手であったりとダンジョンダイバーそのものである。
そしてなにより目を引くのが、フードから覗く真っ白な髪。そう、まさに今ディスプレイに映っている、今をときめくアイドルダイバー、ゆらりんのような。
「えっ……と……?」
「あ、ごめんなさい。サングラス外してなかったね」
「ゆ、ゆらりん!?」
フードとサングラスを外した女の子は、紛れもなくゆらりんであった。輝く白い髪、くすみ一つない肌、大人しそうな雰囲気なのに強い意志を感じる瞳。
そんな大人気アイドルの彼女が、何故か俺の名を呼んでいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。