第5話 とりあえずスケベしよっか

「あの、ちょっと片づける時間を……」


「気にしない気にしない。おじゃましまーっす」


 いや、俺が気にするんですけど。

 コンビニで適当な食材を買った後、金髪ギャルはそのまま俺のアパートに来た。夕ご飯を作ると言ったあの言葉は本気だったようだ。俺が制止する間もなく部屋に入っていく。


「おー、結構綺麗にしてるじゃん」


 サラサラとした金髪を揺らしながら、青い瞳で楽しげに部屋を眺める制服着崩しギャル。なんか緊張する。


「さてと。ちゃっちゃと作りますか。って、まな板のビニール開けてすらないじゃん」


 一人暮らしを始めた時に、料理をするぞと意気込んでいろいろ調理器具を買ったけど、結局一度も使っていない。コンビニの飯と、近くの定食屋で全てを賄っている。


「んじゃ、適当にひまつぶして待ってて」


 ギャルが鼻歌交じりに食材を切り始めたので、大人しくスマホでも弄って待つ。

 しばらくすると美味しそうな匂いが漂ってきた。


「はいお待ちー。てきとー肉野菜炒め定食ー」


「はやっ」


 三十分も経たずに出来上がったのは、野菜炒めとスープ。お米は無いのでレトルトご飯である。


「切って洗って炒めるだけなんだからこんなもんっしょ。それじゃ、いただきまーす」


「いただきます……んまっ」


 ギャルの料理なので少し不安だったが、普通に美味い。塩コショウと……なんか良くわからないけど美味い。ちょっとピリ辛だし。


「どうやって味付けしてるんすか、これ」


「塩コショウと鶏ガラと醤油と、あと豆板醤かな」


「プロじゃないっすか……」


「プロなめんなし。まぁでも、悪い気はしないかな〜」


 ニシシと笑い、その大きな口で野菜炒めを頬張るギャル。可愛いと言うより、かっこいい。


「でも、いいんすか? お家の人がご飯作って待ってるんじゃ。あ、もしかしてギャル子さんも一人暮らしっすか?」


「ギャル子さんってなんだよ。鳴瀬なるせ凉夏すずか。高二。凉夏でいいよ」


「俺は無良達哉です。同い年なんですね。俺も高二っす」


「よろしく達哉」


 距離の詰め方えっぐ。


「アタシも一人暮らしっつーか。まぁそんな感じ。今は一人で暮らしてる」


 なんだが迂遠な言い回しだ。あまり触れて欲しくなさそうな雰囲気だったので、適当に話題を変えながら晩ごはんを食べた。


「ふー、食べた食べたー」


「ごちそうさまでした。食器片付けておきますね」


「あー、良いよ良いよ。最後までアタシがやるからさ。それよりさ、腹ごなしも終わったし」


 立ち上がって片付けをしようとした俺の肩を、凉夏さんがドンと押した。そのままベッドに倒れ込む。仰向けになった俺に覆いかぶさるように、凉夏さんも倒れ込んでくる。視界いっぱいに凉夏さんが広がり、いい香りがする。細い金髪が俺の頬をくすぐった。


「経験値、もらっちゃうね?」


「えっと……」


「駄目じゃん、簡単に女の子を部屋に上げたら。襲われたって文句言えないよ?」


「いや、でも俺経験値無いんで」


「無いって言っても、ゼロじゃないっしょ?」


「誠に申し上げにくいのですが……」


 俺は凉夏さんに触れないように、二の腕の文字を見せる。【無】という文字を。


「ゼロなんすよね……」


「……マ?」


 キョトンとし、マジマジと【無】の文字を眺めたあと、


「マジかぁ〜〜」


 凉夏さんはボフンとベットに顔を埋めた。


「達哉いつも手袋付けてるか、経験値めちゃくちゃ多い人かと思って勝手に期待しちゃったよ」


「えっと、ごめんなさい……」


「いや、達哉は悪くないっしょ。完全にアタシが悪いし」


 やはり、男は経験値が全てである。落胆している凉夏さんを見ていると、とても申し訳無くなってきた。


「あの、本当にすみません」


「だから達哉は悪くないって。あーでもそっか、経験値なしかー」


 経験値のない男はモテない。微量でもあるのなら救いがあるが、全くのゼロの男に魅力などないのだ。

 凉夏さんはムクリと起き上がると、こちらを見て口を開いた。


「じゃ、経験値云々は置いといて、とりあえずスケベしよっか」

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