遊ぶために必要なもの:二人以上の仲間
第1話
TRPG、またの名をテーブルトークロールプレイングゲーム。
紙とペン、サイコロを用いてプレイされる対面式の会話型RPG。近年ではオンライン環境も整いつつあり必ずしも対面ではなくなっているでしょうか。
我らが『
わたくし
他の参加者ですが、学生さんから社会人、お年を召した方まで幅広い方々がいらっしゃいますね。ですからそんなに緊張する必要はありません、どうか気楽になさってください。
「ここまでで何か質問はございますか?」
喫茶店のカウンターにて、一二三と名乗った男は目の前に座るブレザー姿の少年と向き合う。平日の昼過ぎという時間帯ゆえか、はたまた入り組んだ道の途中にある隠れ家的な立地ゆえか、店内には彼らを除いて一組がテーブル席を埋めるのみであった。
「いや、うん大丈夫だと思います。誘ってくれた人からもちょっと話聞いてたんで」
「それはよかった。こちらはご注文のカフェラテになります」
シワのない白シャツが、ゆったりと手慣れた所作でカップを差し出す。それを両手で包みこむように持ち上げた少年が一息つくのを見計らうと、一二三はゆったりと口を開いた。
「れいちゃんからお誘いをしたとお聞きしています。わたくしはなんとお呼びすればよろしいですか?」
「あっ、自己紹介わすれてました。
カウンターにぶつからんばかりの勢いで頭を下げた少年に、一二三はくつくつと笑った。
「お気にせずに。すみません、必ずしも本名でなくてもよいのですよ。ここでは
「あはは、そっか。そうですね……PL名か」
「もし悩むようであれば、あちらを参考にしていただいてもいいですからね」
恥ずかしそうに頭をかく少年が、さらりと指し示された方へと目を向ける。
店内の奥、二階へと向かう階段脇のスペースが本棚になっていた。名付けの本や神話についての入門書もあれば、植物や星座、動物に武器などのバラエティに富んだ図鑑類。はてはカラフルな装丁のアニメ調の表紙や、おどろおどろしい怪物がデザインされた大判の本も並んでいる。
ドラゴンのフィギュアやサイコロの入った砂糖壺などの小物も棚の一角を飾り、独特の世界観を放つその棚はしかしながら喫茶店の空気によく馴染んでいた。
物珍しそうにそちらを眺めたものの、かといって手を伸ばすことはなくうんうんと腕を組んでひとしきり考えてみるようだ。天を仰ぎ下を向いてはせわしなく動いたあと、絞り出すような声で呟いた。
「一二三さんもれいちゃんもいるし……数字つながりでロクとかどうですかね。ほら、名前が陸だし」
「いいじゃないですか。ろっくんとお呼びしてもよいでしょうか」
「はい、よろしくおねがいします!」
先ほどとは打って変わってキラキラとした笑顔をみせるロクに、一二三も心なしか頬が緩んでいる。
「まだこの時間帯では忙しくもないですしお店の手は足りるでしょうね。今週末のセッション前に交流がてら少しお話しましょうか」
「ぜひお願いします。一二三さんのこととかもっと聞いときたいですし」
「そうですね……では、次回来られる方もご紹介できますし、まずは前回の卓の話でもしましょうかね」
穏やかな昼下がりに、ロクと一二三のやりとりはゆったりと弾んでいく。前回のセッションの話、参加者にはどんな人がいるのか。はたまた好きな作品やキャラクターについてなど、話題には事欠かくことがなかった。
ロクがカップ一杯を空けて店を後にするまでの小一時間、和気あいあいとした空気で一二三との初対面を終えたのだった。
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