第2話 如月雪

 見つめ合ったまま沈黙が訪れる。

しばらくした後に如月雪が口を開く。

 「いつから......見てたの?」

 「3分ぐらい前だと思う。久々にこの丘に登ったら泣き声が聞こえてそれで......」

 俺は正直に話した。

 「そうだったんだ。ごめんね、こんなみっともない姿見せちゃって」

 如月雪はどこか儚く消えちゃいそうな笑顔を見せた。

 


――如月雪は何を抱えているのだろう


 俺は直感でそう感じた。

別に何を抱えていようが俺には関係ないが泣いていた理由が気になってしまう。

 「なんで泣いてたんだ?」

 「それ聞いちゃう? まぁ、泣いてるところ見られちゃったし少しだけ教えてあげる」

 如月雪から告げられた言葉それは......


 「私ね......病気なんだ」


 如月雪は病名までは教えてくれなかった。

ただ俺は茫然と立っていることしかできなかった。

どんな言葉をかけてあげればいいのか分からない。

下手に発言すると彼女を傷つける気がした。

 「ご、ごめんね。気まずくさせるつもりはなかったの! 私自身まだ元気だし大丈夫だよ!」

 如月雪が慌てて場を和ませようとする。

そんな慌てる如月雪を見て思わず笑ってしまう。

 「なんで笑うのさー」

 「面白くってつい。ごめん」

 笑いながら謝ると如月雪は不服そうな目でこっちを見てくる。

 「そういえばなんだけどさ、病気のこと家族以外の人は知らないんだよね」

 「分かってるよ、如月さんの病気のことは他言しない。そもそも話す友達すらいないから言う機会すらないと思うけどね」

 自虐を混ぜながら答えて少し虚しくなる。

 「本当かなー? 君とは今日初めて話したからイマイチ信用できないなー」

 意味深な笑みを浮かべている。

俺は嫌な予感がした。

 「弱みでも握りたいのか?」

 「そんなんじゃないよ。ただ本当に君が信用できる人か確認したいからな......あ、そうだ!」

 「君、私の彼氏になってよ」


――は?


 俺の嫌な予感は気持ちいいほど見事に的中するのだった。

 

 しばらく脳が思考停止し我に返ってようやく言われた言葉を理解する。

つまり、恋人という一番近い距離で俺を監視するってことなのか?

頭の中で思考を巡らせながら

「いやいや、如月さんと俺は今まで接点がなかったわけで......急に彼氏になれって言われても」

「私の名前知ってるんだ。制服が一緒だったから同じ学校だとは思ってたけど」

「如月さんの名前なんて嫌でも耳にするよ」

 そう、如月雪は学校の三大美女とも言われている超絶人気の清楚系美女だ。

そして俺と同じクラスでもある。

大事なことだからもう一度、俺と同じクラスである。

「如月さんは俺のこと知らない感じだよね。一応同じクラスなんだけど」

「え、同じクラスなの?ごめんね思い出せない」

 申し訳なさそうに顔を俯かせている。

まぁ無理もない。

俺は自分から人と関わろうとしないで学校での集団行動をする授業があったときは必ずと言っていいほど欠席している。

もちろん普通の授業は出ているが先生に当てられるのも数えれるぐらいだ。

「別に大丈夫だよ。俺は白石優人って名前だ」

 軽く自己紹介をした。

別に人と関わらないだけで決してコミュ障ってわけではない。

そう、決して。

「白石君ってあの窓際の席の?」

「そうだよ」

 俺のことを思い出したのか、顔をあげてこっちを見てくる。

「てか名前は知らないのに席の位置は知ってるんだな」

「名前を聞いて思い出したんだよ。正直私が興味ない人は眼中にないっていうか、どうでもいいから」

 「酷いな」

 「でも白石君だってそうでしょ?いつもつまらなさそうに窓の外を眺めてるじゃん」

 眼中にないとか言って俺のことちゃんと知ってるじゃんっていうのは言わないことにした。

言ったら如月さんがとてつもなく面倒なことになる気がする。

「私達って案外似てるかもね」 

 如月さんが子供っぽく笑う。

「そうかもな」

 如月さんにつられて俺も笑みが零れる。


「話が脱線しちゃったね、それで返事は?」

「返事?」

「彼氏になってってやつだよ。もう忘れたの?ついさっき言ったのに?」 

 すっかり忘れていた。

正直如月さんは俺から見ても分かるぐらい容姿端麗でさすが学校の三大美女って感じだ。

ただ、ここで付き合ってしまうと陰キャな俺が如月さんと付き合っていると知った男子たちは何かしらしてくるであろう。

面倒事はさすがに避けたい。

ので、ここは丁重に断らせてもらおう。

「ごめんだけどそれは――」

「あ、言っとくけど拒否権なんかないから。白石君にある選択肢は私の彼氏になるか、私の恋人になるかの二択だから」

 俺の発言を遮るように言葉を被せてくる。

てかそれ二択じゃなくて一択だろ。

「それで返事は? YESかはいで答えてよ」

「答えなかった場合は?」

 恐る恐る質問する。

「そうね......私の仲良しグループの皆に白石優人に弱みを握られたって言って嘘の噂でも流してもらおうかな」

 悪魔みたいな笑みを浮かべている如月さんに恐怖を覚える。

なにこの人やること悪魔すぎるよ怖いよ。

「わ、分かったよ。如月さんの彼氏になるよ」

「賢明な判断ね。これからよろしく優人君」

 そして俺に彼女という監視役ができるのだった。

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儚く生きた君に何年も恋をする りおん @Lion_

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