第21話


「橋?」


「そう橋。境界橋だよ」




梛木くんが当たり前のように話す聞き覚えのない単語に首を捻る。




「境界橋ってなに?」


「あーそっか空木さんここら辺の出身じゃないんだっけ。なら知らなくて当然か。

説明…は、ここ出てからでもいい?」


「あ、うん」






急かすつもりはないし、優先すべきは裏からの脱出だってわかっているので全然かまわない。




「それと空木さん申し訳ないんだけど、僕が今から電話しながら道案内することになっても大丈夫かな?」


「大丈夫だけど、」





心底申し訳なさそうに伺い立てる彼にNOとは言えない。

現状迷惑をおかけしているのは私の方だし。




「ごめんねーありがとう。じゃあ失礼して……」




スマホを持っていない左手で上着のポケットをまさぐった彼はお目当ての物を取り出してそのまま右耳へと着ける。

いわゆるイヤホンを片耳にだけ装着して、右耳のスマホをタップする。



数秒の後、「もしもし、聞こえる玲?」と呼ぶ名前で、相手が彼だとわかって伏せていた目蓋を持ち上げる。




「今××辺りでしょ?もう少し右側に戻ってくれない?

そしたらさっきのやつらが呼んだ増援と出会えると思うから……うん、そう」




増援?


耳を疑う単語に大股で梛木くんの横に並んで、今度はしっかりと梛木くんを見上げる。




上着の擦れる音と動く気配で私が移動したことに気付いた梛木くんは、スマホから目を離して真横の私に対して少し目を細めると口角に微笑が浮かんでいる。




ん?もしかしてなんか面白がられてる?と、思いながら声が入らないように口パクで『大丈夫?』と聞くと、こくりと頷きが返ってきた。





「ん?ああ、こっちは移動中だけどやっぱり裏大通りは人気がないねー。みんな“お祭り”に行っちゃってるよ……おかげで動きやすくて助かるけど」




彼との通話に集中している梛木くんにできることがない私は大人しく背中側に戻ってはぐれないような距離で付き従って考える。



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