第7話

「で、俺の目が好きなんだよね…無くしたくないくらいに」


「いや、まあ……ハィ」




そう、は、言いました…けど!


改めて言われると恥ずかしいから、復唱しないでほしいんだけども!!








気まずさに彼から目を逸らしつつ、羞恥で頬に熱が集まるのがわかる。

なんであんなこと言ったんだ私…もっと言い方ってものがあった気がする…。





完全に彼のペースに飲まれている私は曖昧ながらも聞かれるままにするすると答えてしまう。


というかほんとになんなんだろ、この質問責め。






逃げ出さないって約束したけど、逃げ出したくなる気持ちでいっぱいなのをなんとか押し止めていると、なぁ、と呼びかける声がして、掴まれたままの手首を強く引かれて。




思いもよらない行動にバランスを崩した私はそのまま彼の方に倒れていくと。





「ぇ、」


ポスッ、という軽い音とともに彼の腕の中に抱き止められ、固まる。




路地裏の薄汚れた壁や地面から視界は一転し、彼の着ている夜風で冷たくなった黒いブレザー一色。


そしてゼロ距離になったことで、より強く香る生臭い血の匂い───



に、凍りついたような意識が覚醒して、






「な、!なになになになに!?!!?!」





慌て、混乱、狼狽えどう呼んでも同じ意味に繋がる表現が私を襲う。





「ほんとにうるせーなあんた」





なのに私を包んでいる張本人の彼は余裕綽々で、あまつさえ面倒くさそうに文句まで垂れている。


顔は見えないけど間違いなく言い方と一緒で面倒くさそうに顔を顰めているに違いない自信がある。



って、いやいやいやいや!!


違うよ!!

こんな体勢にされて騒がない子はいないよ!!

おかしいよ絶対!!!






さらにギャーギャー騒ぐ私の声がうるさいから自分の声が届かないと思ったのか彼は頭を前に屈めると私の耳元に唇を寄せて、静かに、と囁く。





「……っ、」




衝撃に唇を噛んで耐えつつ再度、石のように固まる私。

低く掠れた声は妙な色気があって、背筋がゾクッとした。





いやここは冬の寒い夜空にかけて氷のように固まっていると言った方がいいかもしれない。


まぁ体はすごく熱を持っているけれど。

だって仕方ない。



疲弊しているからか、あまり感情のこもらない話し方なのに彼の声は傷の痛みを堪えられきれていないから、酷く、熱い。





…熱いんだとても。


その熱の篭った吐息とともに発せられる色香を纏った低音が私を内から焦がすようだ。




だから正直先程とは比べ物にならないほど高い温度を持つ顔を見られていないのは良かったと素直に思った。



ただこの体勢じゃなくてもちゃんと話しは聞くのに…と不満を垂れたいとこだけど今までの感じで彼が私に聞く耳を持つとは思えないので黙っておく。




言った通り静かになった私に満足そうに鼻を鳴らすと、彼はそのままの体勢で話し出す。





「今あんたの協力ひとつで俺が治るって言ったら?」


「…私の協力?」






これ以上私になにかできると言うんだろう?

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