第6話

手当てすると言いながらも私は素人で、持ち物にこんな沢山の傷をどうにかできるほどの救急グッズなんて持ち歩いているわけもなくて、困ってしまった。

なにせ思っていたよりも沢山の青アザや打撲痕、そして刃物で切りつけられたような切り傷、なによりも血で真っ赤に染まったハンカチの有り様にこれはもう専門の人に見てもらう方がいいと判断して、口を開いた。

「あの…思ってるより怪我酷いみたいで、病院いきませんか?」

「いい」

「いいって、そんな……血は止まってても重症ですよ!

一刻も早く医者に行くべきですよ!!」

救急車を…、と1人ごちて鞄からスマホを取り出し、電話をかけようとするとスマホを持つ手首をガシッと掴まれる。

私を掴んだ相手である彼を反射的に見れば、真剣な表情で私を見上げる。

「ほんとに救急車とかいらねー。

俺たちは人より生命力も治癒力も優れてるからほっとけば治る」

「でもッ!!」

いくら人間じゃないからといって、痛々しすぎるっ。

目の前で傷付いた人がいるのに放っておけるほど私は心ない人間のつもりはない。

それが例え彼の言う化け物であってもだ。

「いいって言ってんのにしつけぇし

…あんた、思ってるよりお人好し過ぎ」

悔しくて歯痒そうなのが顔に出てしまっていたんだろう、彼は苦笑してそう言うとなにか思案するように優美な柳眉を寄せて、目蓋を瞬かせる。

「…?」

どうしたんだろうか?

急に考え込む彼を不思議に思いながらこちらもどうしたらいいのかわからなくて、今なお掴まれている自分の手首と彼の顔を交互に見比べる。

…ほんとにどうしたんだろう?大丈夫?

私としてはこうしている僅かな間にも急に彼が倒れるんじゃないかと心配で仕方ない。

意を決して、痺れを切らした私から声をかけようと唇を開きかけた時、

「あんた注射とか苦手?」

「え?」

顔を上げた彼と視線がぶつかって、先に彼の方からよくわからない問いかけを切り出してきた。

えっと、どうしていきなり注射?

質問の意図が掴めなくて、間の抜けた声を出しつつ視線をさ迷わせているとさらに彼は畳み掛ける。

「痛みに強かったりする?」

「えぇ…、と」

「早く答えて」

「え!?あ、と…注射は苦手じゃないし、痛みに強い方?」

「じゃあいいか」

え?なにがいいの?

混乱する私を置き去りにして、自分だけ納得した様子の彼はさらに続ける。

「ねぇあんた俺が目の前でのたれ死ぬのとか嫌?」

「それは、まぁ」

普通に知らない人でも自分の目の前で死ぬのは後味悪いものがあるし。

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