第8話
それってどういう…と続けようとした瞬間に、彼は私の顎を指で軽く持ち上げて視線を合わせる。
いわゆる見つめ合うような形にするとちょっとバツの悪そうな顔をした彼と視線が絡んだと思ったら、その瞳は濃い深い赤の内側から深紅の光が輝き出して。
「先に言っとくわ────…悪い」
飄々とした彼にしては本気で申し訳なさそうな声音で謝るのが耳に届いたと同時に、私の首筋に顔を埋めた────────…。
「んッ…!」
ブツっ、と皮膚を鋭いなにかで貫く音が聞こえて、私の生命が溢れ出す熱を感じる。
ひんやりとしたなにかが、それを丁寧に掬い取りかぶりつく。
それはコクコクと私の血を啜る彼のもので。
失われていく血のせいで、ぼんやりと少しずつ薄れていく意識の中、自分の間違いに気付いた。
…どうやら、彼は悪魔なんかじゃなかったらしい。
美しい容姿で惹き付け誘き寄せ
催眠術で人を操り、鋭い牙で獲物を喰らう
悪魔ではない羽根を持つ怪物───
「─きゅう、けつき…?」
ほんの小さな小さな囁きに近い声で答えを呟くと。
チュッ、とリップ音をたてて、名残惜しげに首筋から顔を上げた彼が、血で染めた唇で満足そうに私を見下ろす。
「せーかい。次起きた時にはもう忘れてるから安心して、
そのまま─────“眠れ”」
鮮血を纏った綺麗な彼を名残惜しく思いながら、私の記憶はそこでブラックアウトした。
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