第4話

だって、その一文だけやたらと鋭く尖った嫌悪感を纏わせた、冷ややかな声音だったから。


…その嘲りは私に対してかそれとも自分自身に対してだろうか?





なんて言葉が脳裏を掠めたが、それを声に乗せてしまえばあまりにもデリカシーのない発言にしかならないのでやめた。



やめて、彼の問いかけへの答えを、一考することに意識を向ける。






ここで答えを間違えれば彼は間違いなく私の提案を聞き届けてくれない。


でもそれらしい嘘をついても彼には通じない気がして、正直に自分の感じたままで言うしか道が見えない。



…腹を括るしかない、私!!


やってやる!と闘志を奮い立たせ、乾いた冬の空気に吐息を混ぜながら、口を開く。







「…確かに、あなたの言う通り化け物だと思いましたし、関わらないでおこうかとも思いました」






私の言葉に彼はほら見ろ、と言わんばかりの蔑んだ表情で暗い笑みを浮かべる。



その陰のある様子でも彼の美しさは損なわれなくて、むしろ一段と輝きが増すので心がザワついて落ち着かない。




けどそれを表に出す訳にはいかなくて、なんでもないことのように隠すため、わざと彼の赤い瞳としっかりと目を合わせて二の句を告げる。





「でもッ!」




ああ、焦って声が上擦る。なんなら確実に顔も赤い。



美形ってそれだけでもうずるい、と理不尽に逆ギレしながらその怒りの勢いで乗り切るしかなかった。





「でも、貴方の赤い瞳がとても綺麗だから、無くしたくないって思ったんです!

……私が貴方を助ける理由がそれじゃだめですかね?」





言い切った……?


それだけを思った。




言いたいことを言ったことで、確かな達成感と満足度でまとまりのなかった脳内が霧が晴れたみたいに清々しい。





少しの沈黙後、ブハッと吹き出す声と震える肩。


…笑われてる。






「はー結局見た目かよ。まともに聞いて損した」


「しょ、初対面なんですから、見た目のことしかわかんないに決まってるじゃないですか!!」






うわぁぁぁ私ってば、見た目で判断しましたとか印象悪すぎない?


ううん、悪いどころかマイナスだよね絶対……

強気の言葉とは裏腹に内心冷や汗かいていると、彼は僅かに目を綻ばせた。







「別に悪いとは一言も言ってませんが??」



ぐっ!!

この人意外と嫌味たらしい!!





歯噛みしたくなるほどわざとらしい言い方に、ついつい声が出そうになったが、どう考えても私の方が悪いのでぐっと堪える。



馬鹿正直に答え過ぎた……。あほだ。







「ま、変にそれらしい御託を並べるやつよりはマシか……いいよ、あんたの提案をのんでも」


「やった!!」


「……あんた絶対治療にかこつけて変なことすんなよ」


「絶対しません!」




即答かつはっきりと言いながらこくりと強く頷いて同意する。



なのになぜか彼はもっと訝しげに眉間を寄せていく。



……解せぬ。

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