.

「お前は?キャッチボール参加せぇへんの?」




「……しない。


大体あれキャッチボールじゃないし。」








マリアは壱と吾郎の酷い投げ合いを見て即答。




相変わらずボールは四方八方に飛び回り、ボールを取りに走ってはまた投げての繰り返し。



遠くから見ていると、

まるで飼い主がボールを投げて、犬がそのボールを取りに走ってるような光景だ。





「……まぁな。あれは酷いな。」




「……かと言って、あたしと純がキャッチボールなんかしたら本気でやり合いそうだからね。」






────スッ…





ビールを一気に飲み干し、マリアは俺のすぐ横に腰掛けた。





「……っつか、純は今動いちゃダメだよ。


また倒れられたら、こっちはたまったもんじゃないよ」




「……だからちゃんと重装備してるやん?


ニット帽にマフラーにジャケット強制装備ですけど、ね。」




「まだ足んないんじゃない。耳当てとか?」





「……何でやねん…」






フッと笑い合い、俺とマリアは遠くに視界を移した。






「───…ステージ。



また立てたらいいね。」





「……ん…」






───…百日咳、過呼吸を患ってから数ヵ月。




完治したとは言え、ストレスから声が出なくなった俺は、もうステージに立つ事は不可能かもしれないと諦めていた。




いつもならこの季節は春のライブで忙しく、こんなのどかな場所でボーッとしてるなんて、今まで一度もなかった。




未だ後遺症は引きずったままで、口ずさむ事は出来ても、まだ公の場で歌う事は愚か、ステージに立つ勇気さえない。




いつか“ボーカル”としての俺はこのままみんなに忘れられていくんだろうな、と思っていた。







「…───また歌える日が来るよ、きっと。」





マリアはポン、と俺の肩を叩き、




“みんなその日まで待ってるから”




と微笑んだ。






「────……」





俺は返事を返さず、ただ静かに頷いて笑った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る