第27話 ソード・オブ・ハンター
俺達がコウの実家に到着した時、コウは黒いスーツの男と激闘を繰り広げていた。
「何だ? これはどういう状況なんだ!?」
「アイツは俺がエデンの実を買った男の仲間だ。俺と家族を殺しに来た!」
「成程、つまりこいつを倒せばオーケーって事だな」
ヴェルトに蹴り飛ばされた男は、痛そうにしながら起き上がった。そんな彼に俺は睨みを利かせる。
「おいお前ら! そいつは剣持ザンガ、過去に殺人で逮捕歴のある男だ。気をつけろ!」
遅れてリンドウも加勢してきて、銃を構えながら警告する。
「コイツ、前科者なのか?」
「おいお前ら! 全員そこから動くなよ。俺はいつでもソイツを殺せる」
人数の不利を悟ったザンガは、剣を構えながら叫んだ。成程、相手の能力はあの剣に関する物か。
「あまり笑わせるな。お前の得物では離れた場所にいるコウを仕留める事はできないはずだ。それとも、既にお前の頭がやられちまってるのか?」
「俺の能力『ソード・オブ・ハンター』は、剣を地面に突き立てる事で血を吸収した相手にダメージを与える事ができる。今この剣を地面に一刺しすれば、ソイツはもう死ぬ。それが嫌なら、ここは俺に大人しく従ってもらうぜ」
剣を地面に近づけながら、ザンガは勝ち誇った笑みを浮かべる。
だが俺はあることを確認し、確信を得る。そう、コウを救い出せる確信を。
「……ハハハッ、そんなので人質戦法が成り立ったとでも思ってるのか? やっぱり随分と幸せな脳ミソしてるみてぇだな!」
「何だテメェ……コイツを殺してくださいって言ってるのか?」
「なわけねぇだろアホ。生憎そいつは犯罪者になってもまだ、うちのヴェルトのお友達みたいだからな。死なせるわけにはいかないんだわ」
俺の発言を聞いて、コウは心底驚いた様子でヴェルトを見る。
「ヴェルト……俺はあんな酷いことをしたのに」
「あんなの大した事じゃないさ。同居人のお陰で、酷い事には慣れてるんだ。それに、まだオススメしてもらった居酒屋に行けてないじゃないか」
「……と、こんな感じだからキッチリコウは助け出すぞ」
「そうかそうか。素晴らしい友情物語だな。もう助からないって事を除けばだがなァ!」
俺達に退く気がないと判断したザンガは、容赦なく地面に剣を突き立てる。
それによりコウにダメージが行き、彼は息絶えるはずだったが……。
「……あれ? ダメージが無い……?」
「何故だ? 何がどうなってるんだ!?」
「ザンガ。テメェの剣先をよーく見てみな」
コウが死んでいない事に心底驚いているようだったので、俺はザンガにヒントを与えてやる。
「……これは! 剣が……影の中に沈んでいる!?」
「そうだ! お前の影を操作して、影に剣を受け止めさせたんだ。お前が自分の影ができている方に剣を突き立ててくれて助かったぜ! オマケに自分の能力も喋ってくれたしな。利敵行為この上ないぜ〜!」
「貴様舐めた真似をッ!」
ザンガは俺の怒涛の挑発に激昂し、襲い掛かってくる。コウは完全に、彼の注意から外れた。
「リンドウさん、コウを連れて遠くまで離れてください。この手の能力には大体射程がある。その外までコウを連れて全力で走ってください!」
「オーケーだ。ソイツは任せたぞ!」
リンドウはコウをパトカーに乗せ、ヒスイと共に遠くへ走り去る。これでコウが再び人質になることもなくなった。
「さぁザンガ……君は私の友人を殺しかけただけじゃなく、能力者の世界に引き込んでしまった。能力者は能力者との戦いの運命から逃れることはできない。私は彼が今後その渦中に巻き込まれてしまうことが一番腹立たしい! 『ヴェンデッタ・レジリエンス』! お前は今、ここで滅する!」
「俺も同感だな。コウが良い人だったってのは見ればすぐ分かる。そんな彼を犯罪者に堕としたのは断じて許せねぇ! 贖罪しろ! 『アンウェイ・ワールド』!」
互いに能力を発動し、ザンガと向かい合う。
「お前らは知らないだろうけどな……これはアイツが『新しい世界』を作るための第一歩なんだよ。それを邪魔するってんなら……処刑するのが処刑人の仕事だ! 『ソード・オブ・ハンター』!」
ザンガは手に持った片手剣で、俺達を攻撃してくる。奴は能力発動には相手の血が必要だと言っていた。攻撃に当たるのだけは避けなければ。
俺は射程距離のギリギリから、相手の影を操って攻撃する。一方のヴェルトは、身体能力を極限まで上昇させて、近距離でザンガと渡り合っていた。
「イライライライライライライライライライライラァッ!」
「コイツのラッシュ……早い! そして硬すぎる! 剣で受け流してるのに血の一つも流れねぇ!」
だがザンガの剣の腕もかなりのもので、ヴェルトの怒涛のラッシュを的確に捌いている。
「なら……横槍を入れてやる。『アンウェイ・ワールド』! 奴の左足だけ影の世界に引きずり込め!」
俺は能力で、ザンガの片足だけ影の中に引き込む。突然足が沈み込んだ事で体勢を崩したザンガは、ヴェルトの拳を喰らった。
「ぐあぁッ! ……なんつー威力だ。やはり身体強化系の能力者か。そしてパーカーの奴は影を操る能力だな。クソ、面倒くせぇ……!」
ザンガは怒りに任せて地面を斬りつけると、狙いを定めるように俺の方を見た。
「お前、俺の能力を、人を殺すためだけの応用のしようのない能力だと思ってるだろ。そうだぜ、それは間違ってねぇ。でもな、そんな能力にも上手い使い方ってのがあんだよ!」
そしてそう叫びながら、ザンガは剣を俺の方に投擲した。
「何ッ!?」
得物を自ら手放すのは完全に想定外だ。俺は咄嗟に避けるが、肩をわずかに斬られてしまった。
「剣の方を見てみろ。もうすぐ着地するぜ?」
ザンガの言う通り、投げられた剣は地面に突き刺さった。その瞬間、俺の体にとんでもないダメージが流れてくる。
「がァッ! これは……!」
「アズト大丈夫か!? まさか……投げた剣が地面に突き刺さる事でも能力は発動するのか?」
「大正解だ。俺には近距離戦しかないと思って油断したな」
俺が痛みに悶えている隙に、ザンガは剣を回収していた。
「さて、形勢逆転だな。そっちの男の血も吸収して、遠距離からハメ殺しにしてやる」
ザンガが剣をこちらに向けた、その時だった。
……空から降ってきた一滴の雫が、ザンガの剣に当たった。雫はそのまま剣を伝って、剣先から落ちていく。
「……見ろよ。雨が降ってきたみたいだぜ」
「それがどうしたってんだ? 早めの辞世の句でも詠むのか?」
「しかもこりゃ大雨になるな。黒い雲がどんどん集まってきた」
俺の予想通り、あっという今に空を雲が覆い尽くし、大雨が振り始めた。
「……? だから何だってんだ?」
「……俺はな、この時を待ってたんだよ。太陽が隠れて、辺り一面が影になるこの時をッ!」
辺り一面が影になったことで、俺の能力の本領が発揮される時が来た。
ありったけの影を収集し、鎧として自らの全身に張り巡らせる。普段の一部だけの鎧じゃない。全身だ。
「『フルアームド・アンウェイ・ワールド』。ようやくお披露目だぜ」
全身漆黒の鎧を纏い、俺はザンガを指さした。ここからは蹂躙タイムだ。
〜〜〜
ヤマのメモ
能力名:ソード・オブ・ハンター 能力者:剣持ザンガ
能力:剣の形をしたミュータント。剣を地面に突き立てる事で、血を吸収した相手にダメージを与える。射程は大体10メートルほど。
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