第21話 魔王達の就職戦争
事件の二日後の朝、俺達魔王荘は株式会社HUTO保馬支店の直売店の面接を受けに来た。
「ふーん、俺達以外には就職希望者はいねぇみたいだな」
「それもそうだろう。例の事故で部長が死んで、彼の悪評が広まりつつある。そんな奴が真上にいる店で働きたいという奴がいるか? まぁいないだろ」
「それなら余裕じゃねーか! あとは俺達の中の誰が募集枠二人に選ばれるかってだけでよォ」
レクスが余裕そうに言う。どうやら自分が絶対に二人に選ばれる自信があるみたいだ。
「その自信はどこから湧いてくるんだよ。ヴェルトは多分、お前が一番の不安要素だと思ってるぞ」
「アズト貴様……ふざけた事を言ってくれるじゃねーか! いいぜ、この中の誰が選ばれるか勝負って奴だ!」
威勢よくレクスが吠えた、その時だった。
見覚えのある二つの影が、こちらに迫って来た。
「なっ……⁉ お前ら、どうしてここに? そしてその服、まさかついに働く気になったのか⁉」
「リンドウ!? それにヒスイも。そっちこそどうしてここにいるんだよ?」
現れたのは、もはや腐れ縁の刑事コンビ、リンドウとヒスイだった。リンドウはいつも通りの恰好だが、ヒスイの方は俺達と同じようにスーツを身に着けていた。
「ここの営業部の部長が事故死した件について調べに来たんだよ。上は事故だと決めつけてるが、俺はどうもそうは思えなくてな。何かミュータントが絡んでいるような……そんな気がしてならない。だから羽牟に、ここに潜入して調べてもらう事にしたんだ」
「げっ。俺達と考えてる事同じかよ……」
まさかリンドウ達が全く同じことを考えているとは思わなかったが、こちらの作戦には特に支障はない。
募集枠は二人。仮にヒスイが受かったとしても、あと一人誰かが滑り込めば済むだけ。あとはどちらが先に情報を掴んで、犯人を捕まえるか、だ。
リンドウ達に先を越されてしまっては、恐らくヤマからの報酬金が支払われなくなってしまう。プリンのためにも、それだけは避けなくては。
「お、そろそろ時間ね。それじゃ行きましょ、ハムちゃん。それとアンタたち」
「あぁ。働くのは癪だが、それで報酬金が手に入るならやってやるぜ」
「羽牟、頼んだぞ。何としてもアイツらより先に情報を手に入れるんだ」
「はい、リンドウさん。頑張ります!」
俺達にヒスイを加えた五人は、募集枠を取り合う面接という名の戦争に足を踏み入れた。
~~~
どうやら就職希望者は、俺達だけのようだった。これは本当に、誰が潜り込めるかの勝負になりそうだ。
「それではまず、レクス・マーラさんからお願いします」
「お、俺からか。お前ら悪いけど、早速俺が一枠もぎ取らせてもらうぜッ!」
レクスは意気揚々と面接室に入っていった。そして一分後、面接室から叩き出された。
「あれぇレクス? 随分早くないか?」
「……なんか速攻で落選言い渡されたんだが。アイツら見る目無さすぎだろ!」
「あんなに威勢良さそうだったのに速攻で落ちたのかよ! 惨めな物だな!」
「アズトテメェ! 煽ってんじゃねぇ!」
流石に一分は早すぎだろ。何言ったらこうなるんだ。
「ちなみにレクス、何を言ったんだ?」
「『得意料理を教えてください』って聞かれて『コオロギ鍋と雑草鍋』って答えただけだぞ」
「なんでそれで通ると思ったんだよ」
やっぱりヴェルトが心配してた通りだったな。他の奴はまともにやってくれると良いんだが……。
そんな不安を抱えながら、次々と面接は行われていった。
~~~
面接の翌日の夜。ヴェルトは封筒を持って魔王荘に帰って来た。
「待たせたね君達。採用者が決まったみたいだから、伝えるように頼まれてね」
「一体誰が選ばれたんだ……?」
「少なくともお前では無いな」
「おいアズトそれを言うな」
ヴェルトが封を開け、中の紙を確認する。
「採用されたのは……アズトとヒスイだ」
「俺か! ……まぁ、このメンバーなら選ばれても不思議じゃないか」
「今結構失礼な事言わなかったか?」
面接の結果は、魔王荘とミュータント犯罪対策課から一人ずつ採用という形になった。
「ひとまず、アズトは明日から仕事だから、準備しておいてくれ。それ以外は……コンビニバイトにでも応募しとけ」
「報酬金出るかもだから俺は面接受けたんだよ。ただの仕事なら俺はゴメンだね」
「まぁ私も遠慮しとこうかしら。バイトとか趣味じゃないわ」
「ワシは働きたくないんじゃない。ここに残って不測の事態に備える役目があるんだ。だからワシが働かないのは悪いことじゃない」
「お前らなぁ……」
相変わらずのニート根性に、ヴェルトはまた胃を痛めているようだった。
とりあえず、俺は明日から社会人だ。しっかり仕事はしつつ、情報も集めなくては。
~~~
翌日。俺はヴェルトと共に魔王荘を出発し、株式会社HUTOへと向かった。
「アズト、改めて説明する。君は直売店での仕事をこなしながら、能力者らしき人物を探してくれ。私も営業部を中心に、それらしき人物がいないか探りを入れてみる。何か分かったら連絡してくれ」
「了解だ。まだ本当に犯人がいるのか分からないが……やれるだけ調べてみるぜ」
電車を降りて、徒歩で会社まで向かう。その途中でヒスイと合流した。
「あ、アズトさんにヴェルトさん」
「ヒスイか。今日から一応同僚って事だし、よろしくな」
「はい。よろしくお願いします!」
「君達、そろそろ着くよ」
目の前にそびえ立つは株式会社HUTO保馬支店。ここに、部長を事故死に見せかけて殺した能力者がいるかもしれない。
俺達はそんな会社に今、社員として足を踏み入れた。
これが、予想外の戦いの第一歩になるとも知らずに。
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